公正世界仮説
公正な世界において全ての正義は報われ、全ての罪は罰せられると考える認知バイアス
良いことをすれば良い結果が、悪いことをすれば悪い結果が起こると考えてしまうこと。≒因果応報 公正世界仮説(こうせいせかいかせつ、just-world hypothesis)または公正世界誤謬(こうせいせかいごびゅう、just-world fallacy)とは、人間の行いに対して公正な結果が返ってくるものである、と考える認知バイアス、もしくは思い込みである。また、この世界は公正世界である、という信念を公正世界信念(belief in a just world)という。公正世界仮説は社会心理学者によって広く研究されてきており、メルビン・J・ラーナーが1960年代初頭に行った研究が嚆矢とされる。以来、様々な状況下や文化圏における、公正世界仮説に基づく行動予測の検証が行われ、それによって公正世界信念の理論的な理解の明確化と拡張が行なわれてきた。 公正世界信念は私たちが日常生活を送るうえで、ある種の安心感を与えてくれる。 秩序などなく、日々が予測不可能で、悪事を働いたものが得をし、努力した者が損をする不安定な世界だと考えると悲観的になりやすい。
事実、この世を公正な世界であると強く信じている人は、主観的な幸福感が高いという研究結果もあるという。
また公正世界信念が強いと、時に他者を傷つけることがある(下記の実験参照)。公正世界仮説に一致しない出来事──例えば道を歩いていて突然強盗に遭い、金品だけでなく怪我を負ってしまった人の話など──を見聞きすると、私たちは様々な手段で公正な世界の信念の回復に努めようとするが、その手段の一つが被害に遭った人を不当に責める被害者非難である。
実験には72人の女性が参加し、被験者たちは共同被験者(サクラ)が電気ショックを受ける様子を見るように指示される。
当初、共同被験者(サクラ)が苦しむ様子を目の当たりにした被験者たちは動揺したが、第三者である自分が何も介入することができないまま、共同被験者が電気ショックで苦痛を受けるのを見続ける状態がしばらく続くと、被験者達は電気ショックの犠牲者であるところの共同被験者を蔑むようになった。共同被験者の苦痛が大きいほど、軽蔑の度合いは大きかった。しかし、共同被験者が後で苦痛分の報酬を受け取ると聞かされたときは、被験者は被害者を軽蔑することは無かった。
実験結果の考察
世界は正義に支えられているという世界観あるいはイデオロギーを考慮に入れなければ、この現象は説明できないとラーナーは考えた。
電気ショックを受ける共同被験者(サクラ)は何か悪いことをしたために電気ショックを受けているのではないかと被験者達は考えたため。
天(神)は理由なく賞罰を与えるはずがない。善をなせば必ずいつかは報われるし、欺瞞や不誠実にはいずれしっぺ返しが待っているにちがいない、と私たちは考えがちであるということ。
宗教心との関係
アネリー・ハーヴェイとミッチェル・キャランは、宗教心(ここではキリスト教が対象)が強いほど、内在的公正推論(ある出来事が起こった原因を過去の行いによるものと信じる傾向)、究極的公正推論(不公正によって受けた損失は将来的に必ず埋め合わせされると信じる傾向)ともに行いやすくなることを示したという。 つまり、宗教心が強いほど、公正世界信念が強くなる傾向を示した。
また、働くことそのものが報酬であり、人は禁欲的に生きる道徳的な責任を負っていると考えるプロテスタント的労働倫理(PWE)を強く意識していることと公正世界信念の強さには関連がある。 PWEが強いと、社会的に劣位な集団(黒人や肥満の人たち)を非難する傾向があることも示されているという。