サール『MiND』(ちくま学芸文庫)の最初の部分
「はじめに───この本を書いたわけ」p.13-20のまとめ
現状
これまでの意識についての議論は、
「心的」「物理的」など伝統的な哲学の旧態依然とした語彙を使い、疑問視されることのない誤った前提──たとえば心的なものと物理的なものが相互に排除しあうことなど──のうえになりたっている。そのため二元論、唯物論、行動主義、機能主義、計算主義、消去主義、随伴現象説など影響力のあるよく知られた理論はそもそも全て誤っている。
この本(心の哲学にかんする概括的な入門書)を書いた二つの目的
①これら語彙や前提を克服し
②「従来の問題」を解決もしくは解消する
「従来の問題」
a) 心身問題
痛みのような意識経験が、どうやって物理的な粒子からできている世界のなかに存在できるのか。
また、脳内にあるとされる物理的な粒子が、どうやって心的な経験を引き起こせるのか
b) 心的因果の問題
主観的で、実体がなく、物質的ではない意識という心的状態が、どのようにして物理的な世界においてなにかしらの原因になりうるのか
c) 志向性の問題
頭の中にある考えが、どうやって遠方の対象や事態に及んだり注意を向けたりできるのか
今後の議論に必須の二つの区別
①観察者から独立した事象と観察者に依存する事象の区別
観察者から独立した事象
例)力、質量、重力、太陽系、光合成、水素原子
・人間の態度に依存することなく存在している
・自然科学が扱う
観察者に依存する事象
例)お金、財産、政府、フットボールゲーム、カクテルパーティー
・私たちがそのことについて考えていることに依存している
・社会科学が扱う
②オリジナルな志向性と派生的な志向性の区別
・私がもつサンノゼへの経路についての情報や信念
・地図の作成者や利用者のオリジナルな志向性から派生する、地図に含まれる情報、指示、関連性、表象等の志向性
派生的な志向性はつねに観察者に依存する。
したがって①と②は系統的に関連しあっている。