『あの夏、いちばん静かな海。』の好きなシーンと自分の体験
この映画を見たのは5年以上前だけれど、なんとか語ってみる。 https://youtu.be/-4cfC5m9pSY
予告編を見ても分かるけれど、この頃のたけし映画は画面全体のトーンが青々としている。こうしたたけし映画の視覚面の特徴は海外では「キタノブルー」と評されていた。 この映画は聴覚障がい者の男女を主題とした青春ラブストーリーであり、作中における彼らのセリフは一切ない。脇役の俳優は普通に喋るし背景の音も音楽もあるから、サイレント映画というわけではないが、タイトルにある通り非常に静かな映画である。 あらすじとしては、収集車でのゴミ回収を仕事とする青年・茂がサーフィンにのめり込み、彼女の貴子はそれを見守りつつ支えながら、彼はついに大会で入賞を果たす。しかしある日、貴子がいつものように海へ行くと、彼のサーフボードだけが残され、茂は海に消えていた。というどこかにありそうなありふれたストーリーかもしれない。迫力満点の演出とスケール感で圧倒するアクションハリウッド映画の真逆をいくような映画だが、それでも不思議と「つまらない」という感想は抱かない。 それはたけしの無駄を削ぎ落としたシーン構成と視聴者の心情をくすぐるシーン選び、さらには類まれな映像表現のおかげなのだろう。だから個人的な感覚としては、「面白い」というよりも「魅せられる」という方が適切だ。少なくとも初期の北野武は映像表現で魅せる映画監督だったのだと思う。この映画からタッグを組み始めた久石譲の音楽も良い味を引き出している。邦画の中でもひときわ異彩を放つ名作の一つだ。 この映画で特に好きなシーンがある(シーンというよりは過程だが)。茂がサーフィンを始めたときに、予告編の冒頭で茂に呼びかけているサッカー少年の二人組は、当初は陰で茂を冷笑していた。茂が通う浜辺でサーフィンの練習をしている常連の男女五人組も、当初は茂を見て小馬鹿にしていた。
しかし、茂と貴子は耳が聞こえないのもあるだろうが、そんなことは気にも留めない。茂は本当にサーフィンが楽しいんだろうなぁ。貴子もそんな彼の側にいてその様子を眺めているのが楽しいんだろう。そうして二人はひたむきに浜辺に通って練習を続ける。
すると、次第に茂は波に乗るのが上手くなっていき、周囲の脇役たちの彼を見る目も変わってくる。サッカー少年の二人組は茂に感化されてサーフィンを始め、常連の五人組も茂を認めるようになったのか話しかけ、親しくなっていく。その後、ついに彼は大会で下位入賞を果たすまでになるのである。
https://youtu.be/LWjhBVLQMyo
こちらのMAD動画?でもそうしたものが窺い知れるかもしれない。
茂と貴子の言葉のないやりとりが久石譲の音楽とあいまってグッとくる。
これは本人が自分の行動によって変わっていけば、周囲の見る目もまた変わっていくということだ。茂たちの行動とその結果が、周囲の人間に影響を及ぼしたのだ。僕はこの頃、他人に影響を与えられるものがあるとすれば、それは言葉よりもむしろ行動の中にあると思うようになった。この映画もそれを示唆している。そして、こうした連鎖反応は決して創作の中の出来事ではなく、現実の日常に溢れている。
僕もこれに似た体験を味わったことがある。とはいえ、気がついたのは割と最近なのだが、それに気がついたとき、ふとこの映画のことを思い出した。何か新しいことを始めてそれを継続するとしたときに、意外と多くの人がこれに近い体験をするのかもしれない。
逆に言えば、この映画はこうした普遍的ともいえる事態を、たけし独自の優れた映像センスで鮮やかに描き出しているからこそ、今なお多くの人々を魅了しているのだろう。
またこれに気がついたとき、何にでも臆病な自分だが、新しいことに挑戦することに関してはあまり怖れなくなった。
始めた当初は下手なのは当たり前だが、それをするのが楽しくて続けているうちに、次第に上手になっていくんだから。そして上手になっていくと、周りの見る目も勝手に変わっていくんだから。だから、周囲のことはあまり気にしないで、自分の欲求にこそ従うべきなのだ。
しかし始めてみたものの、どうしても上達するための学習が好きになれないということもある。僕にとってはプログラミングがそうだった。プログラミングができるようになってみたかった。アープラに来る以前にC言語とpythonを一回、アープラでWebプログラミングにもう一回挑戦してみたけれど、どうも上達しそうな気配がないし続けられそうな気がしなかった。そういうときはもう撤退するのが吉かもしれない。何か好きになれそうな別の対象、向いているものを探した方がいい。→「才能」と「向いている」 そうやって好きなことを増やしていけば、一見孤独な人生でも充実しそうな予感がある。仮に過酷な人生になったとしても、なんとか耐え抜いていける気がする。
このページは誰かに伝えたいとかではなく自分に言い聞かせる言葉を書きながら整理している感じに近くて、なんだか感傷的な気分なので書いてみた。とにかくこれは名作だからもし観ていないならオススメします。〜fin〜