エポケー
◆エポケー(懐疑主義の)(Epoche)
□「「中止、抑制」の意のギリシア語 epochē に由来する。古代の懐疑主義の実質的中心概念。現代の現象学にとっては方法的基礎をなす。初めてこの語を哲学に導入したとされるピュロン派によれば、哲学諸大系のどれが真かを決定する探究の試みを控えることによってアタラクシアという幸福が達成される。一方、アカデミー派のアルケシラオスは、ストア的判断保留の意味でこの語を用いた。ストアの倫理によれば、ある観念への同意はこの観念に基づく行為の前提だが、自由な決定に依存する同意を性急に下すことは許されず、同意は絶対に確実な観念にのみ与えなければならない。ところがアルケシラオスによれば、絶対に確実な観念は存在しないのだから、いかなる観念への同意も保留すること、すなわち「すべての事柄へのエポケー」が倫理的に要求される。後期ピュロン派は「探究を控える」というエポケーの原義をも温存したため、セクストス・エンペイリコスにおいてはエポケーが二義的に用いられる」(貫[1998:162])