なにゆえ
何故の語誌
( 1 )「万葉集」にも多く見られる「なにせむに(何‐せむ‐に)」からの変化で、ナニセムニ→ナンゼンニ→ナゼンニ→ナゼニ→ナゼとなった。ナンゼンニの形は文献には見あたらないが、仮名で「なせんに」とあるものはナンゼンニの第二音節の撥音ンの無表記と考えられる。
( 2 )意味の面では、ナニセムニは奈良時代には、「何になろうか。いや何にも役立たない」という反語的意味と、「どういう目的でするのか」「なぜ…するのか」という目的・理由の問いただしの二つの用法があったが、ナゼンニ・ナゼンニカの段階ではすでに理由の問いただしに限定されているようである。
( 3 )ナゼニからナゼへの変化は、江戸時代になって末尾の「に」が、「すぐ‐に」「あまり‐に」「じき‐に」などの「に」と同じく付いても付かなくてもよい助詞と誤解されたためと考えられる。
コトバンク
何故(なにゆゑ)
初出の実例「何故(なにゆゑ)か思はずあらむ紐の緒の心に入りて恋しきものを」(出典:万葉集(8C後)一二・二九七七)
何故可 不思将有 紐緒之 心尓入而 戀布物乎
どうして思わずにいられよう。紐の緒がしっかり心に食い込むように、あの人が恋しくてたまらないのに。