📖『白い城』オルハン・パムク

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他日、師に尋ねられたことがある。「読む、あるいは聞く喜び以外のどんな結論も意味を持たない物語というものを、果たして人は作りえるだろうか?」「音楽のようにですか?」と、わたしがいうと、師は驚いていた。

人生における最上の喜びとは、愉しい物語を創ること、そして、そうした物語を聞くことではありますまいか?

オルハン・パムクが描く人間は、歴史の絵巻の中で熱と立体を帯びる。

けれど強くどうぶつとしての匂いがしてこない。人形劇の登場人物のようだ。かといって現実味がないとか、人が描けていないというわけじゃない。平坦であるわけでもない。じゃあなんなのか。国も時代もそれから設定も、現実にわたしがいる地点からかけはなれているからそう感じる、というそれだけなのか。登場人物の中に俯瞰と客観がある、ということだろうか。

それでも私たちはその登場人物に深く入り込み、愛情を持ってハラハラと追いかけてしまう。

主人公は海賊に襲われ、奴隷としてその身を売られるが、自分と瓜二つの人間に買われることになる。

立場も思想を育んできた土壌も違う主人にはじめは人生を奪われた憎しみと恐れを抱くが、ふたりは世界の真理や美や物語というものへの尽きぬ興味を通じて繋がり、次第に複雑な親愛の情を抱くようにもなる。

夜な夜な顔を突き合わせて、主人の知らない西欧世界の科学や美術の話などを作り話を交えながらしていくうちに、だんだん相手との間が曖昧になってゆく描写が巧みだった。故郷の話をしていると、まるでいつか自分たちが入れ替わって生きることになるかのようだと主人公が感じ、それを主人の方も感じているのを感じる。

目の前にいるのは私なのではないか、私は彼ではないだろうか、そんな風に交錯してゆく。

まばゆい色彩のある文章を書く作家だ。

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奴隷というとついアフリカから連れてこられた黒人奴隷のように一方的に搾取され虐げられた存在のような気がしていたけれど、どちらかというと「未成年」「書生」のような感じで権利は与えられないが、高貴な人の所有物であればその奴隷も貴重である、というような存在。身分ではあるが、それは動かない階級の中にあるわけではないので、権力者になることも可能（実際に王の母は奴隷出身であることも多いし、出世のために自ら望んで奴隷として買われる人もいたのだという）。

性的な関係を含む主従関係もあった。日本にもある信長と森蘭丸のような関係から、女性は子供を生むために連れてこられるようなところがあったから性的に搾取されるようなことまで。

国／時代によって「奴隷」というのは一色じゃないということに改めて気づいた。