📖『ゲームの王国』小川哲(早川書房)
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from 2025-03-03 ひな祭り、
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『ゲームの王国』小川哲(早川書房)
クメール・ルージュやポルポト政権下に少年・少女時代を生きた人物たちの話。
読み始めてすぐに私はこれがカンボジアの歴史にそった物語なのだろうと思ったけれど、下巻に入ると物語はだいぶそこから離れて終盤となると世界は脳内に移行していた。(…というのは大げさだけれど)
子どもの頃から周りに理解してくれる人がいなかったふたりが、一度ゲームをしただけでお互いだけが特別な存在だということを感じ、そこからまるで別の人生を歩む。ふたりは一度も邂逅することなく、物語のおおづめ、多くの人の記憶の断片が並べられて最後、電気信号のなかで発生するゲームの世界に遠く離れた二人の人生が収束してゆくのがよかった。
この「ゲーム」に対する反応や決断にいたる道筋というものがその人間の行動原理と繋がっているというのは面白かった(実際のところはそう単純じゃないだろうけど)。audibleで聞いたのでこのあたりをもうちょっとじっくり考えたかったのに流してしまって、ちょっともったいない。
マジックリアリズムぽいところも楽しかった。もしかしたらこちらのほうこそ先日まで読んでいた『巨匠とマルガリータ』よりも『百年の孤独』っぽいんじゃないかなと考えたり。土を食べるところとか、地面を妊娠させてしまう男とか、不正に反応してしまう記者とか…。
本書の内容からは外れるけれど、2005年くらいにカンボジアに行って知り合ったトゥクトゥクの運転手さんのことをどうしても思い出してしまう。
彼は首都に暮らす妹に学費を送るためにここで(アンコールワットの近く)で働いているんだと言っていた。妹さんはご両親と暮らしているのかと聞いたら、親はいない、ポル・ポト政権時代に殺されたんだ話してくれた。親世代の親族はひとりも残っていない、自分だけじゃなく友だちもみな親を失った。町に大人はいなくなった、と。
小説の中に2023年になってやっと村を滅ぼされたことについて話せるようになったという記述があって、もう連絡もできないのに、また彼のことを思い出す。
#読了