悪童日記
一人が罵る。
「こん畜生! けつの穴!」
もう一人が罵り返す。
「おかま野郎! 卑劣漢!」
こうして、言葉がもう頭に食い込まなくなるまで、耳にさえ入らなくなるまで続ける。
こんなやり方で毎日およそ半時間ずつ鍛錬をし、それから街中をひと回りしに出かける。
僕らは故意に、人々の罵倒を誘う。そして、とうとうどんな言葉にも動じないでいられるようになったことを確認する。
しかし、以前に聞いて、記憶に残っている言葉もある。
「私の愛しい子! 最愛の子! 私の秘蔵っ子! 私の大切な、可愛い赤ちゃん!」
これらの言葉を思い出すと、ぼくらの目に涙があふれる。
これらの言葉を、ぼくらは忘れなければならない。というのは、今では誰一人、ぼくらにこの類いの言葉をかけてはくれないし、それに、これらの言葉の思い出は切なすぎて、この先、とうてい胸に秘めてはいけないからだ。
そこでぼくらは、また別のやり方で鍛錬を再開する。
ぼくらは言う。
「私の愛しい子! 最愛の子! 大好きよ……けっして離れないわ……かけがえのない私の子……永遠に……私の人生のすべて……」
いくども繰り返されて、言葉は少しずつ意味を失い、言葉のもたらす痛みも和らぐ。
「だったらどうして、乞食なんかしているの?」
「乞食をするとどんな気がするかを知るためと、人々の反応を観察するためなんです」
婦人はカンカンに怒って、行ってしまう。
「ろくえもない不良の子たちだわ! おまけに、生意気なこと!」
帰路、ぼくらは、道端に生い茂る草むらの中に、林檎とビスケットとチョコレートと硬貨を投げ捨てる。
髪に受けた愛撫だけは、捨てることができない。
ぼくらは、彼女の喉を、カミソリで一気に掻き切る。次に、軍隊の車のガソリンを吸い上げに行く。戻ってきて、二体の遺体と、あばら屋のあちらこちらの壁にガソリンをかける。火を放ち、帰宅する。
翌朝、おばあちゃんがぼくらに言った。
「隣の女の家が焼けたよ。あの二人、彼女と娘っ子、焼け死んだんだよ。あの娘が、火の始末を忘れたに違いないね。あれは、頭がいかれてたから……」
ぼくらは、隣家に再び赴き、雌鶏と兎を回収しようと捜したが、夜中のうちに、他の隣人に分捕られてしまっていた。