読書感想「破軍の星」
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この本は,なにかのきっかけで随分前に買っておいた本。
ずっと読まないでいた。
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いつだろうなぁ。息子がまだ小学校低学年の頃と思う。一緒に市の図書館に出入りしていたときに,この本を見つけて,貪るように読んだ記憶がある。北方謙三さんの描く人物像は荒々しくて,生臭くて,女性は妙に艷やかだった。そして,なんと言っても「生死」の考え方,描き方がわたしの感覚とはかけ離れていた。
なんというのだろう……「さっぱりしている」というのか「生に執着しない」というのか。
だからといって,現世を恨んだり,嫌がったり,後ろ向きだったりするのではなく,今この眼の前のことに精一杯で生きるとともに,自分が最後の時を迎えるときはそれはそれで執着しない……という感じがどの登場人物にもあったように感じた。ここからつながる「楊令伝」を数冊読んだところで,一度,わたしの北方謙三さん遍歴は一旦停止となる。 https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41KtlTcmYuL._SY203_BO1,204,203,200_.jpg
これはもちろん,つまらなかったからではなくて,仕事が急に立て込んできて,にっちもさっちも行かなくなってきて一度離れてしまったらそのまま……という感じであった。途中まででも,とてもおもしろい感想を持っていたので,再度,一巻から読んでいってみたいと思っている。
さて,本書。
Amazonでの解説は次の通り。
建武の新政で後醍醐天皇により十六歳の若さで陸奥守に任じられた北畠顕家は奥州に下向、政治機構を整え、住民を掌握し、見事な成果をあげた。また、足利尊氏の反逆に際し、東海道を進撃、尊氏を敗走させる。しかし、勢力を回復した足利方の豪族に叛かれ苦境に立ち、さらに吉野へ逃れた後醍醐帝の命で、尊氏討伐の軍を再び起こすが……。一瞬の閃光のように輝いた若き貴公子の短い、力強い生涯。
みなさんの予想通り,「陸奥守」「奥州に下向」というところに興味をいだいて購入した。 少しは歴史好きと思っていた私だけど,恥ずかしながらこういう人物を知らなかった。しかも,書籍になるだけの魅力的な人物なのだとは知らなかった。
小説の中でも書かれるが,一度,福島県の霊山に居を構えている。 福島県北部に住んでいる人なら分かるけれど,「霊山=崖」というイメージで,ものすごい景観美である。
検索すればすぐに出てくるが,例えば,こんな感じ
こんな絶壁のところに居を構えた,城を築いたということだけでも「ええっすごっ」と思ってしまう。
この二十歳そこそこの人物が足利尊氏を追い詰める状況にしていくというところに凄さを感じた。 武士の出ではない主人公が武士の考え方の葛藤を描いたり,京都,鎌倉,から遠く離れた奥州とのやりとりを描いたりと,わたしたちの感覚から程遠い時代状況を描きながら人物像を書いていてなるほど,そういう苦労や感覚があったのかと思いながら読み進めた。
ただし,史実を小説として組み立てていく難しさからか,資料があまり残っていないからか,時代の移り変わりは書いてくれているけれども,その時々の人物の生々しいやり取りというかわたしのような読み手に伝わる当事者的な感覚がもう少し伝わってくるとうれしかった。
例えば,先にあげた「水滸伝」や「楊令伝」は,時代も場所もあまりにかけ離れていて,かつ,フィクションであると思い読み進めていくので頭の中でどんどん空想が広がっていった。その結果,フィクションなのになぜか頭の中にとてもリアリティが残った。
しかし,本書は史実としてはこういうことがあり,人物としてもこういう方があり,霊山という実際の土地も残っている中,読んでいてあまりリアリティが伝わってこなかった。
これって,不思議。
何がそうさせるのだろう。
ただし,わたしの中では少し忘れていた霊山という地名に,場所に,再度にスポットライトを浴びせてくれてうれしく思う。
家族と今年のいつか,時期を見て,霊山を登ってみたいなぁと思った。