感想「革命前夜」
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推理小説や伝記小説しか読まなかった私が、他の分野の小説を読むことで、今まで知らなかった作家を知り、その作家が描く世界観に引き込まれるうれしい感覚を味わっている。
そのお一人が「須賀しのぶ」さんである。
本屋で何気なく見つけてしまったこの作品。
帯に「名作」という謳い文句があり、わたしの目を引きつけたのでつい購入してしまった。
帯で書いてあったのが「青春✕歴史✕音楽」。
この帯に嘘偽りなし。
この3つがくんずほぐれつしてダイナミックに書かれている。
やりたいこと(音楽)があって、自分の気持では制御できない、青春のいろいろな心から沸き起こるもの(恋、友情、思想、暴力)。普通だったら、これで過ぎるところに自分だけでなく社会でも制御できない「社会変革」の嵐が。これでよりドラマチックになっていく。
当事者はドラマチックなんて必要ないと思っているかもしれないが。
読む側は、自分自身の思考回路、生活環境に引き寄せて考えるものだが、私自身も今、この小説を読んで、「コロナ禍」で世界が暗い毎日を過ごしている今、若者たちの感覚、今、を想像する。(もちろん、自分自身もその渦中にいるわけだけれど)
これは、第2次世界大戦中に青春時代を過ごした人が、どんなに悲惨な毎日を過ごしていたとしても懐かしい、またはとても楽しそうな表情で話をすることを見ます。当たり前だよなぁって思うわけです。人生の中で、最も活動的でかつ「らっきょが転がっても笑ってしまう」そんな世代に、たいへんなことがあったとしても身体がどうにかしようともがくのは想像に難くないです。
この小説の時代は平成になったその瞬間から。日本はまだバブル景気に湧いている頃。
場所は東ドイツ。ちょうどベルリンの壁が壊れる前の頃。
解説の朝井リョウさんが書いているけれど、著者の須賀さんは、この時代に東ドイツにいたことはない。音楽のこと(特にピアノとかヴァイオリン)もそんなに詳しくないという。 解説の朝井リョウ氏も絶賛!
この人、〝書けないものない系〟の書き手だ──。
それにもかかわらず、読んでいてなぜに頭に勝手に映像が浮かび上がるのだろう。東ドイツの風景が、ピアノを始めとする音楽演奏の様子が。
不思議だなぁ。
あっ、これって……。
最近、わたしが事あるたびにかいている「想像(力)」だ。
「予想」と「想像」の違い。
それは、「知識や経験があるか、全く初めてのことか」
となる。
これって、AIは「予想」はできるけれど「想像」ができず、人間の人間たる力、つまり人間力といえるのは「想像」できることなのだろうと思う。
しかし、その「想像」する力が(私を筆頭に)衰えてきているのではないか。
しっかり考えていきたい。
そして、偶然の出会いをした、須賀しのぶさんの本を何冊か続けて読んでみたいと思った。 文句なしに5つ星。