Audible版-平野啓一郎著「本心」感想
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芥川賞作家、平野啓一郎さんの小説。私にとって平野さんは、このサイトに感想等を書き残していないが「私とは何か」と言う新書を読んで以来である。 この新書は、タイトルに「個人」「分人」と あるように、自分の生き方考え方を示してくれる本として良書であると思いながら読んだ。
「本心」は、わたしが読む初めての平野さんの小説である。
芥川賞作家、京都大学出身と言うバイアスを通してしまって見るからかもしれないが、そこかしこに大変な知識量を背景に物語を書いてることがわかる。物語の所々に,小説の引用,ある言葉(ワード)の解説等が入るのだが,それを読むだけでもなるほど「それってそういう意味なのね」と思うこと多々ある。
この物語は,わたしがまだ生きているであろう近未来の話である。主人公と亡くなってしまった母親との関係を中心に展開していくのだが,亡くなった母親は社会人になっている頃東日本大震災を体験しているロスジェネ世代である。わたしはその前のバブル世代なので,母親の生きてきた時代背景はなんとなく想像できるし,共感ができる。
その母親が,おばあちゃんとなる頃の時代,そして日本を描いている。
まず興味深いのは、どこまで本気で推察しているのかわからないが、著者がリアルで想像できる多分こうなっているんではないかなぁと思われる日本の未来をある程度細かく書き出しているところである。 例えば、亡くなった母親を主人公はその頃一般的になりつつあるバーチャルフィギアと言う形で蘇らせる。バーチャルフィギアあとはヘッドセットをかけると,そこに本人と全く同じ様相,振る舞い,反応,対応をするバーチャルな人物が登場するというものだ。学習機能をもちヘッドセットの中で成長する(育成させることができる)。他に、主人公の仕事が、リアルアバターと呼ばれるもので、自分がある人のアバターになってある人から遠隔操作をされる。 この頃は、多くのものがロボットやAIなどで人間の職業や仕事が代替されて、人間でしかできないものに仕事が特化されていくようだ。 そんな中、リアルアバターは人間でしかできない仕事の1つとして存在しているが、仕事の価値としては低く設定されると言う小説の中での位置づけである。 未来のことをダラダラと想像したくなる気分にとって、これらはなかなかにリアルでなるほどそうなるかもしれないなぁなどと思いながら読んでいた(聞いていた)。
時代としては、日本ではすでに貧富の差が大きく開いていて日本から逃げ出そうとするような人も出ている時代である。 これなどはとても悲しいことだが、今からすでにそうなるのではないかと言われているのでそうならないであって欲しいなと思いつつも確かに将来の日本はこんな感じになってるかなぁと考えてしまう。
貧しい側に位置する主人公の生きる意味は母親との良好な関係の中で人生を営んでいくことであったと思われる。しかし、母親はこの時代に 合法化された「自由死」と言う自ら死を選ぶ権利を行使しようとし、悲しいことに、それ以前に事故死してなくなってしまう。 最愛の母親がなぜ自分がいるにもかかわらず「重視」と言うものを選んだのかそれを知らないまま生き残って毎日生活している主人公。 この日常の 様子を描いていく。
生きること、親子関係、などを考えさせてくれる本であった。
特に推理小説のような大きな事件や山場を迎えることがなく、主人公の大河ドラマ的に人生を描いていくので、延々と物語を続けていくことができる構成であったため、物語が終わるときに ここで終わるのかと思った。 大団円では無いにしても希望の持たせる終わり方8割、不安やちょっとしたこだわりが2割のような終わり方であり、色々と困難が待ち受けている未来だろうけど自分も頑張って生きていこうかなと考えさせてくれる。