Audible版-天童荒太著「巡礼の家」感想
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幼少の頃,父母が災害で自分の目の前からいなくなって,心を閉ざしてしまった女性が,ある旅館にたどり着き,周囲の素晴らしい人達に囲まれて自分の存在価値,生きる価値を見つめ,知り,前向きに生きていこうとする話(ちょっと,わたしのことばで要約すると軽くなってしまうなぁ)
推理小説や探偵小説が大好きだったわたしが最近,めっきりその類を読まなくなってきた。それは,あたり前のことなのだが推理小説や探偵小説には,人が死ぬ場面が出てくるからであり,わたしは小説でもテレビドラマでも人が死ぬ,人が殺される,人が身体的に傷つくのようなところに耐性のない人間になりつつあって,どうも避けてしまう。
この本は,心閉ざしてしまった主人公が素晴らしい人達に囲まれて癒やされ,もともともっていた自分を取り戻すというストーリーと思っている。しかし,この素晴らしい周囲の人達も過去にいろいろとあってそれを受け入れ,乗り越え,今があることが明かされるし,主人公も助けられるだけでなく,心閉ざしてしまっている時分でも,周囲の人達からすれば素晴らしいところがたくさん見られて本来の自分のよさに気付かされていく。
なんだか,不思議な話であった。
「物語」を書く,作るということは,ストーリーの中に山あり谷ありを設けなければならないと思われているわけで,「物語」になった段階でなんらかの特殊事情が発生する。例えば,このお話で言えば,主人公の過去に何もなく,平々凡々な生活を過ごしていれば「物語」にならなかっただろう。そういう意味では,小説を読む際に,わたしが避けたいと思っている「中心人物にとってひどい状態」というのが推理小説でなくともて避けられないのかなぁと思う。
そういう状態のわたしにとって,この本は胃の中がムカムカすることなく読み進めることができた。でも,大どんでん返しとか人生の大きな山と谷を描いたお話を期待する人にとっては物足りないかもしれない。
舞台が愛媛県の道後温泉になっている。行ったことがないわたしは,過去に訪ねた温泉街をストーリーと重ねて自分の中で想像して読み進めたが,素敵なところだなぁ,いつかはというか残り人生の早めに行ってみたいなぁと改めて思った。