Audible感想「線は、僕を描く」
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再生時間: 10 時間 33 分
完全版 オーディオブック
感想記録
ん?どんなお話なんだろう……と思って,聴き始めたら一気にその世界観に持っていかれた。
「ちはやふる」なんかも好きなんだけど,ある世界の入口に入って,その世界を知り,魅了され,主人公が成長していく……。
そんなお話。
ここでいうある世界とは「水墨画」。
水墨画という視覚の世界を文字だけで(わたしの場合は,声だけで)イメージしてもらうように,文章を書いていけるというのがものすごくすごい。私自身の想像力も試されるのだろうとは思う。もともと,水墨画などは小中学校の社会科の教科書やちょっとした美術館の脇で見た程度(つまり,水墨画展というものを見に行ったのではなく,他の名前の展覧会で行ったら水墨画が展示されていたという感じ)が脳内に残っていて,それとこの小説の文章表現とを絡めて頭の中で水墨画を描く行程になるわけで,なんだか不思議な世界だった。この小説を読み終えた(聴き終えた)後も,ちゃんとした水墨画の展示を見に行ったことがなく,はたしてわたしの頭の中で勝手に思い描いた水墨画は,素晴らしいと評される水墨画とどれだけの違いがあるのか。わたしの想像力が実物を超えているか,実物のほうがわたしが想像していた水墨画とは比べ物にならないくらいの作品であるのか……。身近な機会があればぜひ見てみたいとは思う。
これに加えて,主人公と異性(この作品で言えば女性)との関係も,あるといえばある。
こんなとき,恋愛の描写をどの程度書くか,どのように持っていくか,作者の腕の見せ所だろうな。
この作品は,主人公の育ってきた背景とも相まって,うまく書かれていたと思う。
こういう作品に出会うと,もっともっと読んでいたい(聴いていたい)。でも,どうやって話を終わらせようか,という感覚になる。
あらすじ・解説
両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。それに反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。描くのは「命」。はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、線を描くことで次第に恢復していく。