世の中を数学で捉え、数学で扱うお話。
Merry Christmas!
お久しぶりです。先日トップバッターを務めさせて頂いた,まこっちゃんです。
僭越ながら最終日の記事も担当させて頂きます。
概要
テーマ:制御工学(入門)
想定読者層:制御工学って何だと思っている方から制御工学に興味はあるもののよく分かっていないという方まで。
目標:制御工学とは何かを理解し、その視座を得る。
制御工学とは
「ある対象(それが電磁波のような無形物でも構わないのですが)を動かしたいと思った時に、その動き方を数式で表現し、与えるべき入力を数学的に求めてみたい」それが制御工学の根本的なモチベーションです。
ですので、適用範囲としては、機械、電気(合わせてメカトロニクスと呼ぶ)、化学など、プロセスを扱う工学全般、場合によっては経済学にまで及びます。
また、制御工学と一口に言ってもモデリング、特性解析、制御器設計の3ジャンルに大別されます。以降、これら3ジャンルについてそれぞれ見ていきましょう。
モデリング
以下に挙げるように、モデリングにも様々な手法とその長短が存在します。
人間が理解出来る言語で記述
ホワイトボックスモデリング
物性やメカ特性を精密に計測し、その組み合わせでシステムを記述する。機械系が得意としている印象。
システムの特性の要素解析が可能で非線形性も捉えられる。
モデル化誤差を生じやすい。
ブラックボックスモデリング
既知の入力を与えた時の出力特性により記述する。一般的に周波数特性を見ることが多い。電気系が得意としている印象。
モデル化誤差は生じにくい。
非線形の強いシステムに対しては基本的に為すすべがない。
グレーボックスモデリング
システムを数式的に表現しておいて、そのパラメータはブラックボックスモデリング的に得る。上記二つの良いとこどりをした手法。
システムの構造に当たりがついている場合、非常に強力。
人間に理解できる言語以外で記述
ニューラルネットワーク
システムの入出力特性を機械学習により得る。所望の入力信号まで含めて学習させることも多い。情報系が得意としている印象。
繰り返しの作業や画像処理との組み合わせに非常に親和性が高い。
一般に、中の記述は人間には分からないものとなる。ニューラルネットワークを人間が分かるようにその判断根拠を示す研究も存在するがここでは割愛。また、システムの特性解析には不向き。
以上のようにそれぞれ特徴がありますので、自分の強みとする手法を持ちつつも、自分のやりたいことに合わせて手法を選択できるようになると素晴らしいですね。
特性解析
どういった特性を知りたいかに依って解析の方向性は無数に存在するのですが、ここでは一般的に用いられているもののみを紹介しておきます。
周波数空間解析(古典制御)
ゲイン余裕
位相遅れが180度におけるゲイン0dBの差。
発振するまでの余裕を示す。
位相余裕
ゲイン0dBにおける位相遅れと180度との差。
同じく発振するまでの余裕を示す。
共振
伝達関数の分母が0となり、ゲインが∞dBとなる周波数。
理論上この周波数の入力が少しでも入ると発散する。
反共振
伝達関数の分子が0となり、ゲインが-∞dBとなる周波数。
理論上この周波数の入力はいくら大きくしても所望のゲインが得られない。
時間空間解析(現代制御)
可制御性
MIMOの伝達関数の可制御行列の正則性。
可観測性を満たすとき、状態変数を所望の状態に制御することができる。
工学的には可制御性グラミアンという概念も存在する。
可観測性
MIMOの伝達関数の可観測性行列の正則性。
可観測性を満たすとき、状態変数全ての状態を推定することができる。
工学的には可制御性グラミアンという概念も存在する。
制御器設計
上記2つの話からシステムをモデル化することができ、更に、そのシステム特性を知ることが出来るようになった。これにより、システムを所望の特性に変化させるためにすべきことが見えてくる。前提として制御理論では物理法則に逆らうことが出来ないので、理論限界以上の性能が欲しければ、システムの構成を変更する必要があるとわかるし、そうでないなら制御器を上手く設計することで特性を修正することが出来る。
この制御器をどう設計すれば所望のシステムに持っていくことが出来るかというのが、制御器設計である。制御器設計も無数に存在するので、有名どころを紹介しておく。
ゲインチューニング
PID制御
状態フィードバック
外乱オブザーバ
モデル由来
フィードフォワード制御
モデル予測制御
ロバスト制御
H∞制御
機械学習系
適応制御
ニューラルネットワーク
非線形性を利用
スライディングモード制御
非ホロノミック制御
コラム:地球も大きなフィードバックシステム
完全に先輩からの受け売りで恐縮ですが、制御工学の視座を得る面白い話を紹介させて頂きます。地球が大きなフィードバック系であるというお話です。ウォーカーさんが提唱したのでウォーカーフィードバックと呼ばれています。
地球の気温が今回の主人公。地球の気温は二酸化炭素濃度と強い相関を持って、大きなフィードバック系の中にいます。
二酸化炭素濃度が上がると、温室効果が強まり気温が上がり、気温が上がると氷が溶けて海水が増え、大気中の二酸化炭素は海により溶けられるようになります。そして、次第に二酸化炭素が減るとまた気温が戻るという具合です。逆に二酸化炭素濃度が下がると、気温が下がり氷が増え、二酸化炭素が溶けられなくなって、濃度が上がり、という風に安定している訳です。
しかし、ある一定以下の二酸化炭素濃度まで下がってしまうと、氷が白いために地球の反射率が上がり、気温が益々下がっていきます。こうなると正のフィードバックがかかるため発散し、全球凍結に至ります。こうなってしまっては二度と戻って来れないので、(現在全球凍結していないことを証拠に)地球はかつて一度も全球凍結したことがないとされてきました。ところが、実際には火山活動などで二酸化炭素が循環し、大気中に放出されていることでこの説明では全球凍結を否定できないという風に考えられるようになってきています。
さて、この様に大気温は(人間の生きる年月に対して)非常に長い年月をかけたフィードバック系として安定状態にある訳なので、最近叫ばれている地球温暖化は気にしなくても良いのでしょうか。それは半分正しく、半分間違っています。確かに低周波領域では安定系でも、人間の生活のような高周波な入力に対しては一切のブレーキが聞かないと考えられます。よって、人類による影響は人類に対して問題を引き起こす可能性が非常に高いです。自分たちの後始末は地球任せにせず、自分たちで取らなくてはいけないということですね。
最後に
今回は制御工学の大きな枠組みを説明し、その視座を得るような小咄を紹介しました。理論自体は完成に近づきつつも、情報工学と融合しながら成長を続けている学問なので、是非皆さんもご自分の立場から制御工学に関わって頂けたらと思います。
今年は実際にものを作ったり動かしたりせず文章だけだったので、来年は工作に挑戦したいと思ってます。来年またお会いしましょう。
では、良いお年を。