2018-12-30 2018年 映画感想
年忘れ、ということで今年映画館で見た映画の感想を書いておこうと思います。
振り返るとすげえ面白い映画をたくさん観られた年でした。当たり年というのはここ最近ずっと続いているかなと思いますけど、面白いものを毎月のように作ってくれることに感謝です。
では、今年見た中から、しっかり、面白かったな、と思った14本を。
1.グレイテストショーマン
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2月の寒い時期に、日本橋のTOHOシネマズのドルビーアトモスで観た一本。
とにかくストーリー(喜怒哀楽や起承転結など)を極力軽視し、良い楽曲をこってりした演出で何曲も見せ続ける。それで映画といっていいのかと思うけど、スマホでも映画が見られる時代にとって、この手法は映画の持つ力をまざまざと見せつけてくれました。この手法の映画ばかりでは面白くないけれど、何本かに一本かこれがあるのはとっても嬉しい。そのくらい音楽の持つ力が強い映画。
2.シェイプオブウォーター
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この映画は美術が大好きだった一本。緑で統一されてて、1950年代の温かみが再現されている。去年大好きだったキャロルでモーテルに泊まるシーンがありますが、そこもこの映画と同じで緑。怪物の色ももちろん緑、ケーキも緑、車も緑(ティールだって言ってたけど)。ストーリーはなんとも切ない、(怪物が王子という)シンデレラストーリー。こういうのを日本の特撮映画がやれなかったのことに若干、寂しさを感じつつ、単純なストーリーと滑稽とも言えるキャラクターをベースに丁寧に丁寧に作ることで人にきちんとものを伝えられるものになる、ということを実感した一本。
3.リメンバーミー
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人は死ぬと黄泉の国に行って、現世の人がその人を忘れるともう一回死ぬ、という設定が秀逸。ストーリーはこの複雑な設定を決めたことによって精緻になっていないし、そこに目を向けてしまうとなんかおかしくない??と思ってしまうんだろうけど、それはそれ。曲の良さとおばあちゃんモノに弱い自分にとっては上半期でもっとも泣いた映画がこの一本。
4.ダンガル
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素晴らしいインド映画。主役のアミールカーンをきちんと覚える映画。
今までインド映画といえばタミル映画、さらにあのラジニカーン映画だったわけですけど、いやいや西側にもこんなにすごい奴が居たんだなという感覚。インド映画らしい強引さ、雑さとともに洗練されている部分も結構あって、人気が出るのも納得な出来でした。
アミールカーンの役作りって対象に完全になりきるために体系も変えるし、所作を覚えるためにトレーニングする、という方向。これって難しいけど、出来たらみんな賞賛するのって全世界同じなんだね。
少し、価値観が違うのかな?って思うときもあるインドだけど、この映画で日本人が大好きな、「逆境でも努力して考えて強くなって行く」というプロセスにインドの人も共感を覚えているんだ、と思うと、人間の価値観なんて国や人種が違っても今生きている人たちの間ではそれほど大きく変わらないな。そんなことを感じ取れたのが一番の収穫だった。
5.タクシー運転手
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韓国で起こった光州事件に偶然巻き込まれるタクシードライバーと事件を取材する外国人ジャーナリストの話。
これも傑作だったなあ。韓国であんな事件があったこと自体全然知らなかったし、タクシー運転手が仁義を切るところや仲間のタクシードライバーたちがいきなりMADMAXのようなカーチェイスをしたりとリアリティラインが上がったり下がったりするところがとっても楽しい。
元々が重い話だからこそ、コメディとシリアスのバランスがとてもよかったな。
それにしても重いときはどっしり重いし、軽いときは軽い、主人公の演技が一番の魅力。最高だったわ。
6.アイ、トーニャ
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アイススケート選手トーニャハーディングの諸々を描いた一本。
とにかくマーゴットロビーと脇役の母親、友達が最高すぎる。なんといっても友達。あいつは近年稀に見るダメ友達。テロ対策諜報員って、テレビのインタビューで本当に言ってて大爆笑だったよね。しかも役者は本物にバリ似ているという。
ゆるふわボブのコーチもよかったなあ。あのコーチ好き。どんな気持ちで教えて居たのか。コーチは何を思って居たのか。あの映画の中でまあ唯一といってくらいまともな人間はあのコーチだからね。
母親の教育についてはガラスの仮面的な厳しさなのか、単純に人間的にダメすぎるのか、でもオリンピックに出るくらいの選手に育てているわけで、そのへんのところをもっと詳しく知りたいよね。
マーゴットロビーがとにかくよかった。編集、音楽も素晴らしかった。あとフィギュアのシーンもどうやってとったのか、顔を全部入れ替えてやっている。出来がいい。結構な数フィギュアのシーンが出てくるし。それはもちろんマーゴットの演技がバッチリだからではあるんだけど。あの人の顔が出ているだけで、十分絵的に成り立つからね。
車もいっぱい出てくるし、楽しかったわ。ただ、カメラが古くしすぎてたよね。1994年だったら手巻きのニコンは報道で使っているわけないわ。そこだけ。
7.15時17分パリ行き
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クリントイーストウッド監督。事件当事者が主演するという実験的な映画。
まず予想と違ったのは列車内のシーンはそれほど長くなくて、アクションは犯人との格闘のごくわずかな部分のみ。
主人公3人の小学校でのエピソードから軍隊に入り、休暇でヨーロッパ旅行をするところまでが映画の8割を占める。
その8割でほぼ主役のスペンサーがなぜ犯人に向かっていったのか、向かっていけたのか、を丁寧に描いて行く。
誰もが懸念する主役が素人で大丈夫なのか問題。これは、全く問題ないですよね。
やはり、一度経験していることを再現することは素人でも素でやればいいわけで、だからうまくいっているのか。
本人主演の再現映像というと笑ってコラえての結婚式の余興ビデオがあるけど、あれを映画と同じ演出手法で作り上げるとここまでのものになるのか?専門の俳優がいらないというのは職業俳優側からするとどう思うんだろうか。かなり挑戦的だし、問いかけられるテーマなんじゃないか。
さて、そんな撮影上の面白さももちろんあるんだけど、イーストウッド映画って、軍人や元軍人を描く映画がものすごく多い。
アメリカンスナイパー、グラン・トリノなど、ここ最近のヒット作はどれもそう。(ハドソン川の奇跡は違うけど。)これは多分、アメリカ国内のマーケットとして、そういう需要があるからなのかもしれないけど、本人の意思と映画の出来自体はどのくらい離れているのか、軍人映画というルールがある分、その中で非常に実験的に撮れる、ということなのか。興味がある。
今回は空軍と陸軍の軍人が出てくる。特に今回はほぼ主役のスペンサーが空軍の憧れパラレスキュー部隊に入りたくて頑張って、でも入れなくて、SEREという舞台に行って、そこでも落第して、室内で救護とかをやるところに行って、休暇をもらって事件にまきこまれる、という、アメリカ空軍の地上部隊のいまの感じ、というのがよく出ている。映画では普通出てこない、裏方部門。
陸軍の人はアフガンで警備を行って、エピソードとしてはリュックを盗まれるというのがあるけど、あれがどうその後に影響しているのか、全くわからない。アフガンで彼は暇そうではある。さらにもう一人の黒人の民間人は仕事何をやっているのか、ほぼ出てこない。
というわけで割と落ちこぼれだけど、いいやつな主人公がHEROになる。主人公が救命するのもその経験があってからだ、という伏線になっている。非常に感動的だし、映画として構成も脚本も良くできてて、私も最後がっつり泣いた。まさに映画職人です。
アメリカンスナイパー、ハドソン川の奇跡、本作と全て実話で、ある事件とその周りを描いている。今回もうますぎて何も言い返せないくらいの、完成された映画になっていました。しかも演者は素人で。。。あんまりお金もかかってないし、演出もここは力入ってないよっていう背景に関しては手を抜く感じとか、手練れというか、そこはどうでもいい、と思っているんでしょうな。
最初、子供がADHDなんで薬飲んだ方がいいんじゃないかと先生に言われるシーンは昨今の何でもかんでも病気に結びつける風潮を揶揄しているのか、この辺の空気感もクリントイーストウッドらしさかもしれない。そこから普通は良き教師に出会ったりして(ギフテッドみたいに)成長して行くパターンだと思うんだけど、それはなく、単純なカトリック系学校へのディスになって居たような気もする。最初はあれ公立小学校だったのかな?それからカトリック系に行って、という話かもしれない。
そしてみんな言うと思うけど最後の大統領に面会する映像だけリアルなテレビの映像で、うわ、映画と同じ人!って言うところが最高の盛り上がり。この一本も短いけど面白かった。
8.勝手にふるえてろ
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松岡茉優様の可愛らしさとディティールにこだわった演技に震える映画。
女性監督ならではの女性たちの描写は、ああ、会社の中にもこういう女性だけの世界があるんだろうなあという情景描写が生きていた。
何より主人公は海月姫的なオタ系女子映画なれども、そのオタレベルは非常に真っ当であり、不自然さはない。学生時代の描写はちょっと過剰かなあとも思ったけど、とにかく社会にいて浮かない程度の存在に描かれているところが良かった。
コメディよりになり過ぎていたなあと思う箇所は最後の消去の音声。あれは本物か出来るだけ本物に寄せた声にして欲しかった。低予算映画ならではの商品やモノことにタイアップしていない感じがこれはそんなに良い意味ではなく日本映画らしい。そこはちゃんと本物にして欲しかった。
まとめると、リア充と呼ばれない多くの女子に共感するテーマ性とキャラクターがあり、面白いストーリーと演出も光る一本だったと思う。松岡さんがきちんとオシャレだったのもとても良かった。うーんやっぱり松岡茉優様はいいわ。間違いない。この人は今の世代で一番好きだ。
9.ファントムスレッド
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この映画は、所作とか衣装の美しさ。もうこれは俳優のこの役にかける熱意が尋常なレベルじゃなくて、それがこちらに伝わってきた。主役のダニエル・デイ=ルイス、この役をやるために放哉学校に入ってドレスを一着作れるようになってから撮影したそうです。演技とドレス、これを見るべき映画。ストーリーも今の時代に即した男性性と女性性を強く意識させるもの。興味深かった。
10.カメラを止めるな!
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もうここで堂のこうの話すレベルではない、今年を代表する一本。個人的にも全国的に流行る直前の池袋シネマロサで見られて嬉しかったし、全国拡大初日のTOHOシネマズ日比谷の演者ほぼ全員の舞台挨拶に立ち会えて感無量だった。
とにかく良く出来た低予算映画を見て楽しむだけじゃなくて応援して楽しむという楽しみ方で此処まで来たと思う。そういう感覚が全国的にフィーバーする感じ、凄く良かった。
11.ペンギン・ハイウェイ
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傑作。対象年齢が18歳以上。素晴らしい出来。蒼井優の演技、主役のアオヤマ君の演技。どれも素晴らしい。
なにより日常が最後非日常になるシーンのできばえがアニメーション的で「アニメーション」を観たな、という感動がきちんとある。息子と初めて映画館で見た映画でもあるので、感慨深いところ。この映画についてはもう少し書いておきたいけど、ちょっと長くなるので、また今度。
12.SUNNY
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韓国映画SUNNYの日本リメイク。まあ最高だった。
話の構造は韓国版に忠実で、もう評価するべき部分ではないので、置いておいて、日本版ならではの演出がよかった。
あの頃は好きでもなかったコギャルがいっぱい出てきて涙が流れるのか。それはあの時代の空気が映画の中に再現されていたからだろう。邦画タイムマシン映画が今までそれほど成功していない原因にセットと音楽の選曲に問題があると思う。今回は当時誰でも口ずさめた曲ばかりが使用されてて、エモい感情をプッシュしてくれる。
それほど予算はないと思われ、車や町全景を見せるシーンはほぼない。その分セットが徹底的に作り込まれていて、その美術が素晴らしい。さらにあの時代は自分が高校だった時代にドンピシャなわけで、自分があそこで生きていたのを思い出させてくれる。非常に嬉しいというか、感謝しかない。さらに舞台は相鉄ムービルやミニ渋谷っぽい怖さがあったビブレっぽいところとか、ワイルドブルーヨコハマを再現してくれたかのようなプールシーンとか、完全に地元。高校時代はよく行っていたのでグッと来ないわけがない。
大根仁監督の映画だから細かいディティールについて、そうそう、とうなづくことが多いのもこの映画の楽しさ。午後の紅茶の350ml缶の感じとか1Lのリプトンの紙パック(普通の人は500MLです)とかキャベツ太郎とか、ポケベルをあえて出さなかったりと控えめな演出に安心する。
時代設定としてはポケベル世代なので、自分よりちょい上の96年に高校2年くらいだった79、80年生まれがドンピシャなのかなと思う。それぞれの時代の音の演出もよかったな。iPhone、ガラケー、LINEとポケベル。iPhoneのアラーム音から始まるので、携帯切り忘れていたのかと、焦る。
ただ、一点だけクレープは原宿の食べ物なので別の食べ物だったらよかったな。横浜だったらシェーキーズのピザ食べ放題とかね。あと誰かが言ってたけど、95年ごろのビデオの画質が良すぎる。そして16:9で見ちゃったのはどんなしてもミスだと思う。
13.寝ても覚めても
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ストーリーはホラーに近いけど、人間の本性としてはホラーなのかもしれない、という映画。
ものすごく好きという映画ではないけど、全編にわたって最低限のエンターテイメントにしていたし、安定した撮影、安定した演技、安定した演出。じわじわじわじわ唐田えりかが好きになってくる。東出くんの演技、上手になったなあ。関西弁のいろいろに関してはどうでもいい。
今多く公開されている割と正しい恋愛を正しくやる、という映画とは違う。
今年見た日本映画の中でじんわりとした印象に残るという意味では寝ても覚めても、これはかなり上位だった。テレビでやっていたら必ず見たい、と思わせる。そんな一本。
14.ボヘミアンラプソディー
今年一番泣いた。やっぱ音楽凄いっす。
映画的には技巧が優れているわけでも脚本が優れているわけでも技術的に凄いことをしているわけでも演技が凄いわけでも(もの凄く似ているけど)なく、ただただ、音楽の力で泣かされる。というか音楽と映像が組み合わさったときの威力というものをまざまざと実感させられた。とにかく映画館でやっているときにもう一度観に行きたい。そんな一本。
どれが一番良かったか、と言われるとその時々で変わるから一概には言えない。けれどこの14本は見た瞬間は間違いなく、最高だな、と思った作品。映画館でもうやっていないものばかりですけど、出来るだけ映画館で見て欲しい14本でした。
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