横しぐれ
丸谷才一
=作
所収:『横しぐれ』(講談社文芸文庫)
わたしは昭和十四年をすべて、茫々とけぶる横しぐれのなかに置くことにしようと思つた。
父と恩師があの日、道後の茶店で出会った男は、種田山頭火ではなかったか──。
時雨の中へ消えた男の姿を追ううち、わたしの思いがけない家族の過去が浮かび上がる。
ここには、人生がある。ひとが生きていたのだと云う驚きがある。それを知ることができないと云う哀しさがある。それでもわたしは生きているのだと云う強さがある。