オーハイで朝食を
所収:『物しか書けなかった物書き』(河出書房新社)
原題:Breakfast at Ojai(1984)
「時代遅れな話だろうか? そうとも、これは時代遅れの映画なんだ。登場するのも時代遅れのスターたちで、名誉、男らしさ、美徳、女性の貞潔などという古い価値を重んじている。そうしたものにきみは背き、彼女を中傷する行為に手を貸して、六十四ドルを手にしてさっさと逃げ帰った。きみは卑劣で男らしくなく、これといって特徴のない人間だった──つまひ顔のない群衆のひとりさ。ただ、彼女はきみの顔を持っていた、写真というかたちでな」
安易に人間の“闇”へと物語を追いやることもなく、いたずらに踏み込むこともなく、束の間の忘れがたい触れ合いに、人間の深淵、人生の不思議を断片的に垣間見せる。
古き良き時代はすでに遠い。