黒鳥亭殺人事件
所収:『絶叫城殺人事件』(新潮文庫)
「さあ、答えて。アリスさん」
辺鄙な土地の屋敷を相続したと云う学生時代の友人と彼の娘。黒鳥亭と名づけられているその家はかつて、夫が妻を殺害した挙句に姿を消した、曰くつきの物件だった。
友人と、その娘と、火村とアリス。四人が黒鳥亭で過ごすたった一夜の出来事――と云っても、何が起きるわけでもない。事件をめぐるディスカッションが中心となっており、安楽椅子探偵ものと云ってしまっても良いだろう。
ただ、その推理が徐々に仄暗い緊張を帯びてくるのが巧妙。殺人についての物騒な話のなかで少女との交流が並行して進む。その少女の姿は、黒く昏い屋敷のなかで過剰なまでに白く、ゆえに「答え」が見えやすいきらいがないではないものの、無邪気と悪意とを超えた領域にある無垢を湛えた真実の画は印象的だ。
幕切れも素晴らしい。事件と有機的に結びついているわけではないからこそ、演出の巧さが際立つ。