ゴリアドキンの夜
所収:『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』(岩波書店)
「まともにトゥルーコもできないような年寄りの私に、あなたはそのやり方を教えてくださったわけですから、お返しにひとつ面白い話をしましょう。これは大変勇敢ではあったが、不幸に見舞われたある人の話ですが、私はその人を心から尊敬しています」
無実の罪で牢獄に囚われている元理髪店の主人ドン・イシドロ・パロディが、彼のもとに面会にやって来る様々な相談者の事件を解決してゆくシリーズ。
チェスタトン風の探偵小説を標榜する序文に偽りはない。と云うか、ボルヘスたちがチェスタトンをどのように捉えていたかが窺えて興味深い。その眼は相当正確に、チェスタトンを模倣させているように思われる。
本篇について云えば、「ブラウン神父」と云うその名もずばりの人物も登場する。単なる名前の借用には留まらないのが巧いところだ。
有名なミステリのアイディアを引用しながら、もうひと捻り加えているのも面白い。探偵小説マニアみたいだ(探偵小説マニアなのだが)
本作を初めとして、連作は「見かけとは裏腹に進行していた別の事態」を解き明かすものが多い。