活版印刷
活字(一文字ずつが独立したハンコのようなもの)を組み合わせて作った版(活版)にインクを塗り、紙に圧力をかけて転写することで印刷する技術のこと。
この技術の核心は、一度組んだ版を解版すれば、活字を再利用して全く別の文章の版を組める点。
これにより、それまでの、一枚の板に全ての文字を彫り込む「木版印刷」とは比較にならないほどの、効率性と柔軟性を手に入れることができました。
15世紀半ば、グーテンベルクがブドウ絞り機をヒントにした印刷機や、合金製の活字、油性インクなどを組み合わせてこのシステムを実用化。 この技術は、単に書物の大量生産を可能にしただけではありません。
活版印刷は、全く同じ内容のテクストを、何百、何千という単位で複製することを可能にしました。
それまで書物といえば、写本家の手によって一冊ずつ書き写される、一点もの。
写し間違えや、写本家による解釈の追記などが行われていた。
このことによって、「著者」が意図したとされる、唯一の「正しい」テクスト(original)という概念が生まれるに至ります。 テクストが固定されたことで、その内容に責任を持つ「著者(author)」という主体が確立されます。
権威 authority
著者の「オリジナリティ」や「内面性」が、価値の源泉と見なされるようになりました。
同時に、印刷されたテクストを一人で静かに読む「読者(reader)」という、近代的な個人が誕生しました。
黙読の習慣は、人々を共同体の声から切り離し、個人の内面世界を深化させることに繋がります。
ルターが翻訳したドイツ語の聖書は、活版印刷によって爆発的に普及し、宗教改革の大きな原動力となりました。 人々は、教会の権威を介さずに、直接「神の言葉」にアクセスできるようになったということ。
それぞれの地域の言語(俗語)で印刷された書物が流通することで、同じ言語を読み、同じ物語を共有する「国民(ネイション)」という意識の形成を促しました。
ナショナリズムの萌芽
「書き手という権威(そして対となる読者)」や、「同じ共同体の所属する自分」が、「私」や「私たち」という感覚を変化させたということです。