2026.03.05立正大学オープンアカデミー_ブランド価値をつくるソニーのサウンドデザイン
日時: 2026年3月5日 15:00-17:00
場所: 立正大学
講師: 永原 潤一(ソニーグループ(以下SGC) シニアサウンドデザイナー)、小林 有毅(SGC サウンドデザイナー)、藤本 吉秀(SGC ロボット開発チーム)、高橋 慧(SGC R&D/開発チーム)、北村 行伸 (立正大学学長)、佐藤 一義(立正大学名誉教授)、松村 誠一郎(東京工科大学教授)
要約
2026年3月5日に立正大学オープンアカデミーの第一回として開催された本講義では、「感性を動かすテクノロジー」をテーマに、ソニーのイノベーションとサウンドデザインについて多角的に解説された。ソニーのデザイナー、研究者、そして大学関係者が登壇し、サウンドデザインが製品の顧客体験やブランド価値向上にどう貢献するかを、AIBOやXperiaなどの具体例を交えて紹介。さらに、Pure Dataを用いたインタラクティブなサウンドデザインの実装、生成AIがクリエイティブに与える影響、異分野の専門家が集うチームでの協業のあり方、そして企業におけるイノベーション創出のプロセスについて議論が深められた。本講演は、一般、学生、事業者など多様な聴衆に対し、クリエイティブと各専門分野の連携の可能性やイノベーション創出のヒントを提供することを目的としている。
知識ポイント
1. 講演会の概要とソニーのデザイン理念
立正大学オープンアカデミーの開催目的: 大学外部の専門家を招き、刺激を受けると共に、大学として社会に貢献できることを考える試みとして第1回が開催された。企画は松村誠一郎教授の「サウンドデザインで何か面白いことができないか」という提案が発端。
ソニーのクリエイティブセンターの役割: ソニーグループ内外の技術や事業をつなぐハブとして機能。ハードウェアだけでなく、アプリ、建築、素材開発まで多岐にわたる事業を手掛ける。
デザインフィロソフィー「原型を作る」: 「先駆」「本質」「共感」の3つの柱を掲げ、多様な価値観との協業を通じて新しい潮流を生み出すことを目指す。「人のやらないことをやる」という創業以来のDNAが根付いている。
2. サウンドデザインの役割と具体事例
サウンドデザインの役割: 製品のUI/UXを向上させるだけでなく、心地よさや愛着を生み出し、ブランド価値を高める重要な要素。決済音のように、音で特定のサービスを想起させるマーケティング効果も持つ。
ヘッドホンの事例: 従来の音声ガイダンスを、より身近な存在となった製品に合わせてシンプルな「音」による状態表現へと変更。ユーザーテストで有効性を確認し導入された。
Xperiaの着信音: Xperiaとすぐにわかる個性的なメロディーで、プッシュホンの音をイメージして作られた。
カメラのシャッター音: ユーザーのこだわりが強く、本体のメカ音と人工音をブレンドする技術で、質感や使用シーンを考慮し完成度を高めた。
ソニーロゴのサウンド: 永原氏がリードデザイナーとしてプロジェクトを率いた。
3. インタラクティブ・サウンドデザインとツール
固定から可変への進化: 従来の固定音源から、センサー技術を利用してユーザーの状況や感情に応じて音が変化するインタラクティブなデザインへと進化している。
実装事例:
aibo: 頭や背中を撫でる強さや速さに応じて、一つとして同じではない鳴き声を生成する。内部ではサウンドプログラミングツール「Pure Data」が動作している。
poiq: 持ち上げると驚いた声を出すなど、動きと連動したサウンドを生成。ユーザーが効果音をカスタマイズできる機能も実験的に搭載された。
展示作品: 来場者の動きや脈拍に反応して音楽がインタラクティブに生成される展示をミラノサローネなどで実施。
サウンドプログラミングツール:
Pure Data (Pd): モジュールを視覚的につなぎながら音を作成する無料のビジュアルプログラミングツール。センサーとの連携も容易。
MAX: Pure Dataと同様の商用アプリケーション。
4. 異分野連携とイノベーション創出
イノベーションの本質: 異なる専門性や考え方を持つ人・技術が組み合わさる「新結合」から生まれる。そのため、異分野のメンバーが集まるプロジェクトチームが重要となる。
協業の課題とアプローチ: 専門分野が異なると「異国の言語」のようにコミュニケーションが難しくなる。互いの分野を学び、分かり合える部分(インターフェース)を大切にする努力が求められる。ソニーでは、良いチームを作ることが良い結果に繋がると考えられている。
開発プロセス (aiboの例):
1. 体験のイメージ共有: 犬の仕草を見るなどして、チームで実現したい体験を共有。
2. プロトタイピング: コアとなる体験部分を早期に作成し、動作を確認。
3. 評価とブラッシュアップ: メンバーで体験・評価し、アイデアを膨らませ品質を向上させる。
アイデアと時代の変化: 提案当時は技術的に困難で受け入れられなかったアイデアも、AIの進化や社会の変化によって復活し、実現することがある。90年代に企画されたインタラクティブな音楽ソフトの構想が、時代を経てAIBOで結実した例が紹介された。
5. 生成AIとクリエイティビティ
AI活用の現状: 議事録作成のような業務補助から、音楽制作におけるミキシング作業の補助まで、クリエイターの「伴走者」として積極的に活用されている。
クリエイターへの影響: 「〇〇風」といった定型的な制作依頼はAIに代替される可能性がある一方、AIが生成した玉石混淆の素材から良い部分を抽出し、人を感動させる作品に昇華させる「編集能力」が人間に求められる。
AIの限界と人間の役割: AIは平均値に収束しやすく、ステレオタイプから外れた新しい表現を生み出すのは不得手な可能性がある。その領域を切り拓くことが人間の役割となる。
6. ソニーの企業文化と今後の展望
ソニーのDNA: 「エレキ」から始まった「ものづくり」の精神が根幹にあり、創造性、イノベーションが結びついている。デザインの細部に魂が宿るという考えから、細部へのこだわりを非常に大切にする。
新しいアイデアへの寛容性: 利益に直結しなさそうな研究開発にも本気で取り組むエンジニアを温かく見守る社風が、会社の強みとなっている。
AIBOの変遷と現在地: 初代AIBOは時代に対して先進的すぎたが、現在のAIBOはリアルとバーチャルが融合した製品の先駆けである一方、生成AIの急速な台頭という新たな課題に直面している。
ユーザー参加型の未来: 将来的には、社外のクリエイターやユーザー自身がaiboのサウンドを制作・搭載できる「ユーザージェネレートコンテンツ」の仕組みを構築することが構想されている。
大学と企業の連携への期待: 本セミナーをきっかけに、大学の知見と企業の最前線の技術が結びつき、新たな価値やイノベーションが生まれることへの期待が述べられた。
課題
サウンドプログラミングツール「Pure Data」を試し、松村誠一郎先生のサイト「Pure Data Japan」で学習する。
ソニーのロボット(AIBO, POIC)の動画を視聴、または体験コーナーで実際に触れ、インタラクティブなサウンドや動きを確認する。
異分野のチームで協業する際は、相手の分野を学び、共通言語を築く努力をする。
生成AIをクリエイティブ作業に活用し、その長所を活かしつつ、最終的に人の心を動かす作品に仕上げる方法を模索する。
自身のアイデアが現状では実現困難でも、将来どのような技術的・社会的変化があれば可能になるかを考察する。