夢想家
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○月×日、
ついにビルジウォーターにやってきた!うれしすぎて泣きそうだ。潮が運んでくるあの死の臭いが、私の最愛の夢が間違っていなかったことを証明している。シャドウアイルは水平線の向こうに存在する。数十年におよぶ探検の末、ようやく理想的な未来が見えてきた! 世界で最も珍しい風景をキャンバスに描く事は、子供のころからの私の夢だった。精霊、亡霊、そして物の怪のたむろするブレスドアイルの残骸を描くことが! ヴァロランを越え、暗黒の海を渡り、私はここまでやってきた。あの憂いを秘めた瓦礫は、私の腕の見せ所だ!私の筆は、亡霊たちを完璧に描き出してくれるだろう!私の描く品は現代絵画の傑作と称され、ジャーヴァンのどの肖像画よりも貴重で高価なものとなるはずだ。デマーシアの貴族が競い合って居間に飾りたがるものに! そして私は、絵筆の一振りと共に歴史に名を残すのだ!
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○月×日、
ビルジウォーターの船乗りたちは、島の海岸に近寄るのを 嫌がっている。そのため、アイルへ向かうトレジャーハンターたちは、島の近くにある補給ステーションまでチャー ター船で移動して、そこから自分たちで持ち込んだ小舟で、黒き霧を抜けてアイルに乗り込んでいるようだ。 私も同じ方法をとることを強いられ…トレジャーハンターと同じ料金を払った!補給ステーションまで乗せてもらった船(「デアリング・ダーリン号」という名前だった)の 旅費で、デマーシアでの稼ぎが吹っ飛んでしまった! そして今私は、港の宿屋で1週間、小舟を漕ぐ練習をしている。かなり過酷な作業で、過保護に育てられたこの体には、厳しいものがある。しかし少なくとも普段とは違う物の見方ができるようになった。望みは高く持とう。何もかも上手くいく! この姿勢が重要だ!
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○月×日、
今朝シャドウアイルに向けて出港した。ボート漕ぎは上手くいったが、航海術をもっと勉強しておけばよかった。私はすっかり方向を見失ってしまった!霧が深くなってきた。アイルの輪郭さえ見えないし、太陽がどこにあるかもわからない。 今は休憩中だ。弁当を食べながら旅の日誌を付けている。この忌々しい霧のおかげで、スケッチできそうなものは何も見えない!しかし目的地は近いはずだ。ここ数分間、奇妙なうめき声のようなものが聞こえる。海岸の岩を吹き抜ける風の音だろうか?船が岩に激突しないように、既に帆を下ろしているが、うめき声は時間が経つにつれてどんどん大きくなっている。良い兆候だ。