シャドウアイル:物語「若き君主の哀歌」
闇に生す苔をこそげ取り
喪失の物語に耳を澄ます
地中に眠る姫君は
王の誉の美しき女神
いま、姫君の身体は蛆の餌
すべやかな肌は、喰い荒らされるばかり
小国の若き君主が、姫君に求婚する
それは大義の名の元の政略結婚
華やかな婚礼の宴は
邪な行いに踏みにじられた
毒入りの酒盃に、王が慟哭する
必ずや姫を助けると、新郎が誓う
新郎は船を出し、深い海を渡る
忠義を誓う騎士とともに、姫君を眠りから醒まさんと
嵐の渦巻く果てしなき旅路
死霊の島から風が吹き、船は引き寄せられた
運命を巻き込む轟轟たる嵐
血を求めて彷徨う猟犬の如く
寄る辺ない哀悼の歌に誘われて
どの海図にもない、夜の帳に包まれた島へ
風の音もなく、鳥も獣もなく、
ただ亡霊だけが、死の司祭に召かれる
騎士よ、島の中心へ進め!
黒い棘の木々をすり抜け、曲がりくねった道を行く
鋼の打ち当たる音、怒りの雄叫び
立ちはだかるのは戦場の幻影
若き君主の軍勢は、みな散った
君主は逃げ去り、騎士らは無駄死に
あまりにも眩く、甘やかな君主の人生よ
漆黒の死霊の夜に迷い
亡霊と魔物にどこまでも追われ
君主はふと、月が照らす野原に出た
霧が青ざめた修道士を攻め立てる
「我に手を貸せ」修道士は叫ぶ、「剣を持て、拳を上げよ!
亡霊は無慈悲だ、その性根が正されることはない」
「ここでは全ての者は平等で、全ての罪は許される
しかし驕りがこの地を屍で埋め尽くした
死者に抗えば、命は救われん
死者を囲え!夜明けが来れば
勝利の喜びに湧き、遥か昔に失われた秘密が暴かれん
だが敗北を喫すれば、我らは地に伏し、死霊となって立ちのぼる」
彼らは呪われた戦場で、兄弟の如くともに戦った
高名な学者たちの骨の上で
禍々しい、飢えた黒い亡霊を相手に
夜は明くことなく、しかし戦いは終わりぬ
修道士と若き君主の勝利だ!
「さあ、いまこそ話せ、永遠の命の秘密を」
修道士がとうに忘れ去られた伝説を語る
遥か昔、とある王妃が死に、腐り、土に還った
悲しみと苦悩のあまり衰弱した王は
王妃を蘇らさんとこの島を訪れた
しかし島には呪いがかかり、渦巻くのは終わりなき不和、
死霊、そして腐肉を漁る烏
王は魔術を解き放ち、惨たらしい災いを引き起こした
死を歌う者の葬送歌が聞こえる
死せる者から魂が浮遊する
悲嘆にくれ、乱心した王が死霊を呪う
王は最期の息で、全て終わらせるよう請い願う
かつて恵まれていた島は千々に引き裂かれ
いかずちに割れ、雷鳴に打たれた
亡霊が墓の中でぶつぶつと呟き
死を告げる女たちが通りに群れる
尽きることのない呪いが、全ての人間に降り注ぐ
若き君主はこの物語に震えた
不気味な放浪者が語る昔話
若き君主は、古の王に何をも願わない
しかし、死の物語と忌まわしき災いは
奴隷から支配者まで、全ての者の正体を暴いた
横たわる若き君主も、月灯りの下に晒された
新婦が酒盃に口をつける
毒を盛り、新婦の命を奪ったのは新郎
姫君の父たる王の財産と王権に目がくらむ
治療など無用、姫君を生かさずして死なせず
救いなど不要、姫君に息をさせず
新郎のうちにあったのは、どす黒い魂と邪悪な心
花嫁が最期の力で極めつきの呪いをかける
邪悪な詩歌の恐ろしい呪文
死にゆく息で報いを求め
復讐の槍を狩りに遣った
自分を貶めた夫を罰するために
血塗れの死を与えるために
霧が迫り、彼の名が呼ばれる
火炎の如く高く巻き上がる霧の中、狩猟の女神が紅く輝く
光の槍が彼の胸を貫き
冷たい大地が大きく、深く割ける
若き君主は、暗黒の眠りに落ちる
二度と目覚めぬ深い眠り、それが花嫁の形見
闇に窒息し、苦痛に死す
頭に王冠は非ず、治める国も非ず
地中の奥深く、永遠に葬られ
黒い野望の代償を払う
狡猾な策略にとりつかれることなかれ
若き君主は、自らの強欲さに屠られた
冷たく、眩しい青白い光に包まれ
大地を突き抜け、彼の魂は空へと浮かぶ
救いに非ず――それは新たなる苦悶
縛鎖の看守が彼の匂いを嗅ぎつけた
死を歌う者の哀歌に踊る
「お前の魂は、俺のものだ」――呟くのはスレッシュなる獣 この運命に学び、倣え
死者の渦巻くこの島に近寄るな
慈しむもの全てを求め
かけがえのない日々は過ぎ行く
人生を謳歌する、満たされた魂
誰しもが、いつかは滅びる