29. The Ethics of Memory Modification / S. Matthew Liao
1.イントロダクション
記憶を改善したり、トラウマ的な記憶の低減のための技術:記憶改善技術(memory modification technology: MMT)。
これまでも、良く寝るとか、心理療法とか、「ローテク」のMMTがあったが、次の10年の間には「ハイテクのMMT」が出てくると思われる。
ハイテクのMMTは多くの倫理的問題をもたらす。
2. 記憶改変技術の科学
記憶固定をエンハンスする、栄養素、ホルモン、興奮剤、神経修飾物質が知られる
例:リタリン 中枢神経刺激剤。ワーキングメモリーを強化する。
例:モダフィニル  https://ja.wikipedia.org/wiki/モダフィニル
経頭蓋刺激
脳深部刺激
DARPAのRestoring Active Memoryプログラム:2013年~ 電極の埋め込みによる記憶の介入
”implantable, closed-loop memory prosthesis” https://www.medicaldesignandoutsourcing.com/darpa-human-memory-prosthesis/
記憶固定を阻害する薬物:スコポラミン、ベンゾジアゼピン
過誤記憶を導入する実験
「モールで迷子」実験
オプトジェネティクスによる記憶の改変
3. 記憶改変技術、他者へ危害、不平等
MMTは他者への危害を与えるのに使いうる
犯罪の加害者が被害者の記憶を改変する
相手を苦しめる目的で、虐待の記憶を増強する
不徳な政府が、市民に過誤記憶を持たせる
MMTは持つものと持たざる者の不平等を生みうる
4. 記憶改変技術の自分自身selfへの危害
MMTはそれを使う本人にも危害を加えうる。7種類考えらえる。
1:自分が体験した重大な出来事の記憶を失うことは、嘘の人生を生きる(live in falsehood)ことにつながりかねない
2:narrative identityにとって大事な記憶を失うことで、真の自分(true self)を失いかねない(例:父親からの虐待の経験が自身のフェミニストとしてのアイデンティティにつながっている人が、虐待の記憶を消去するケース)
3:道徳的エージェントとして応答する能力に影響しかねない。(例:謝ろうとしている友人のしたことの記憶を消去してしまったら、「許す」という道徳的行為ができなくなる)
4:過去から学習して未来に備えることを阻害。
5:記憶を思い返して反芻する機会を失うことは、自身を規範的エージェントとしてリスペクトしていないことにつながる。
6:ある種の記憶を忘れることは、道徳的・法的義務をもとる可能性がある。(例:アームストロング船長の月面着陸の記憶、ホロコーストの被害者の記憶、政治家の在任期間中にしたことの記憶)
7:MMTによって忘れないことが可能になると、忘れることに対して責任を問われるようになる可能性がある。
5.記憶改変技術の利用の許容可能性
とはいえ、MMTを使ってはいけないということにはならない。
些細な記憶なら除去しても「嘘の人生を生きる」ことにはならない
辛すぎる記憶は消してもいいかもしれない
記憶は相互に連関しており、特定の一つの記憶を消しても「真の自分」を失うとは考えにくい
Harry Frankfurtのいう「二階の要求」としてある種の人になりたいという欲求をもつとき、ある記憶がそれを阻害しているとして、その記憶に介入することが、二階の欲求を満たすことにつながりうる。
MMT使用の許容可能性はケースバイケースの評価が必要。