葛原学習研究所の教育実践における教師のメンタルモデル分析
教師自身も従来の教育観から脱却し、学習者主体の学びの場を構築するためには様々なメンタルモデルの転換が必要です。葛原学習研究所のアプローチを実践する上で、教師が陥りがちなメンタルモデルとその克服法について提案します。
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A. 授業観・学習観に関するメンタルモデル
1. 「完璧な授業」追求モデル
特徴: 一回一回の授業の完成度を極めようとし、教師のパフォーマンスを重視する
表出例: 発問や板書を細部まで計画し、予定通りに進めることにこだわる
克服のために: 「いい授業を目指すな。システムを作れ」という視点に転換し、子どもの学びのサイクルを支えるシステム構築に注力する
2. 「均質進行」固執モデル
特徴: クラス全員が同じ内容を同じペースで進むべきと考える
表出例: 「遅れている子」を心配し、個別の進度を認めない
克服のために: 「最低限の明示」と「上限の開放」の原則を採用し、基準を明確にしつつ個々の発展を認める
3. 「知識伝達者」としての教師観
特徴: 教師の役割を知識の伝達者として捉える
表出例: 説明中心の授業にこだわり、子どもの思考時間を十分に確保しない
克服のために: 「水先案内人」としての役割に転換し、必要な情報と技能を提供しつつ、子どもたち自身が学びの海を泳げるよう支援する
B. 教師の役割に関するメンタルモデル
1. 「すべて自分で」完結モデル
特徴: 授業の全ての要素を教師自身でコントロールしようとする
表出例: 子どもたちに任せられる部分も自分で指示してしまう
克服のために: 「信じて任せて認める」の姿勢を持ち、子どもの力を信頼する
2. 「助け過ぎ」支援モデル
特徴: 子どもの困難を見るとすぐに手を差し伸べたくなる
表出例: つまずきの場面ですぐにヒントを出す、答えに導く
克服のために: 「豊かにほっとく」という姿勢を持ち、適切な距離を保ちながら見守る勇気を持つ
3. 「厳しさ=熱心」混同モデル
特徴: 厳しい指導や管理が子どものためになると考える
表出例: 「ゆるい」教室運営に不安を感じ、細かく指示を出す
克服のために: 「ゆるアツ」の考え方を取り入れ、基本は「ゆる」であることを受け入れつつ、要所で「アツく」関わる
C. 評価に関するメンタルモデル
1. 「結果評価」偏重モデル
特徴: テストの点数や成果物の完成度だけで評価する
表出例: プロセスや思考の深まりを評価対象に含めない
克服のために: 「発掘的評価」を心がけ、子どもの気づきや変化を積極的に見出し価値づける
2. 「唯一の正解」追求モデル
特徴: 教師の想定した解答や方法だけを評価する
表出例: 想定外の解法や表現に価値を見出せない
克服のために: QNKSのプロセスを教師自身も実践し、多様な答えや表現方法に価値を見出す視点を持つ
3. 「即時完璧」要求モデル
特徴: 子どもの成長に対して短期的な完璧さを求める
表出例: 小さな失敗や混乱を許容できず、すぐに介入してしまう
克服のために: 「モチベーションの波」を理解し、長期的な成長の視点を持つ
D. 環境設計に関するメンタルモデル
1. 「整然とした教室」固執モデル
特徴: 静かで整然とした教室こそが学びの場と考える
表出例: 子ども同士の自然な会話や動きを制限する
克服のために: 「学びの木」の成長には適度な自由と流動性が必要だと理解し、生産的な騒がしさを許容する
2. 「マニュアル依存」実践モデル
特徴: 指導書や他者の実践をそのまま取り入れようとする
表出例: 文脈の違いを考慮せず、手法だけを模倣する
克服のために: けテぶれの「分析」を教師自身も行い、自分の教室に合った形に調整する柔軟性を持つ
3. 「個別対応困難」あきらめモデル
特徴: クラス全体のマネジメントを理由に個別化を諦める
表出例: 「30人いるのに個別対応なんて無理」と最初から断念する
克服のために: システムとしての「けテぶれ」「QNKS」を導入し、子ども同士の学び合いも含めた包括的な学習環境をデザインする
E. 子ども観に関するメンタルモデル
1. 「能力固定」分類モデル
特徴: 子どもを「できる子」「できない子」と固定的に分類する
表出例: 特定の子に対して期待値を下げたり、過度に高く設定したりする
克服のために: 「心マトリクス」の視点を取り入れ、多様な状態と成長可能性を認識する
2. 「表面的活発」重視モデル
特徴: 発言や活動が活発な子どもを高く評価する傾向
表出例: 静かに考える子より積極的に手を挙げる子を評価する
克服のために: 「月の学び」と「太陽の学び」の両方に価値を見出し、多様な学びのスタイルを尊重する
3. 「教師依存」促進モデル
特徴: 無意識に子どもの教師依存を強化してしまう
表出例: 「先生に聞く」ことを最善の解決策として扱う
克服のために: けテぶれマップにある「星ゾーン」(自分で分析練習する、友達と分析練習する等)の活動を意図的に増やす
F. 自己成長に関するメンタルモデル
1. 「完成された教師」思考モデル
特徴: 教師は常に完成された存在であるべきと考える
表出例: 自分の失敗や迷いを子どもに見せることを避ける
克服のために: 自身も「学びの木」を育てる途上であることを受け入れ、成長のプロセスを子どもと共有する
2. 「孤独な戦い」信念モデル
特徴: 教師は一人で全てを抱え込むべきと考える
表出例: 同僚との協働や学び合いの機会を逃す
克服のために: 「教師版QNKS」を実践し、同僚との対話や協働を通じて実践を深める
3. 「今までの投資」固執モデル
特徴: これまでの実践や信念に固執する
表出例: 新しいアプローチへの抵抗感を示す
克服のために: けテぶれの「大分析」を自己の実践に適用し、変化を恐れず常に振り返りと改善を行う
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葛原学習研究所の教育実践を取り入れるためには、教師自身がこれらのメンタルモデルを認識し、意識的に転換していく必要があります。「けテぶれ」「QNKS」「心マトリクス」の考え方は、子どもだけでなく教師自身の成長にも適用できるものです。教師もまた学習者として、自らのメンタルモデルを見直し、学び続ける姿勢が重要です。この転換は一朝一夕には進みませんが、小さな実践と振り返りの積み重ねが、新たな教師としてのメンタルモデルの構築につながります。