葛原学習研究所の教育実践における子どもたちのメンタルモデル分析
葛原学習研究所の「けテぶれ」「QNKS」「心マトリクス」を基盤とした教育実践において、子どもたちが持ち込みやすいメンタルモデルには特徴的なパターンがあります。こうしたメンタルモデルを理解し、適切に導くことが効果的な学習支援には不可欠です。
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A. 学習プロセスに関するメンタルモデル
1. 結果中心型メンタルモデル
特徴: 学習の過程よりも結果(得点や評価)にのみ価値を見出す
表出例: 「テストでいい点を取れれば方法はどうでもいい」「100点を取ることだけが目標」
克服のために: けテぶれの「分析」段階で特に丁寧な振り返りを促し、過程の重要性を実感させる
2. 1次元的成長観メンタルモデル
特徴: 速さと量だけを学びの指標とする(速ければ速いほど、量が多ければ多いほど良いと考える)
表出例: ドリルをただ先に進める、内容理解より先取り学習を重視する
克服のために: 「自由深度学習」の概念を通じて、「知る→やってみる→できる→説明できる→作る」という深さの次元を意識させる
3. 分断型学習メンタルモデル
特徴: 教科間・単元間のつながりを認識せず、個別の知識として捉える
表出例: 前の単元との関連を見出せない、教科横断的な視点を持てない
克服のために: QNKSの「組み立て」段階で関連性を可視化し、学びの構造を理解させる
B. 自己調整に関するメンタルモデル
1. 「できない=悪い」二元論モデル
特徴: できること/できないことを善悪の二項対立で捉える
表出例: 間違いを極端に恐れる、チャレンジを避ける
克服のために: 心マトリクスを活用し、多様な状態が自然であることを認識させる。「△」(自信がない)というマーキングの価値を教える
2. 外部依存型メンタルモデル
特徴: 学習の調整を外部(教師・親)に委ねるメンタルモデル
表出例: 「次は何をすればいいですか?」と常に問う、自分で判断せず指示待ちになる
克服のために: けテぶれの「計画」段階で自己決定の機会を増やし、成功体験を積ませる
3. 感情無視型メンタルモデル
特徴: 学習における感情の役割を無視し、機械的に取り組むモデル
表出例: モチベーションの波を自覚せず、燃え尽き症候群に陥る
克服のために: 心マトリクスを活用して自己の感情状態を可視化し、「モヤモヤ」「イライラ」も学びの過程として認識させる
C. 思考プロセスに関するメンタルモデル
1. 表層的思考モデル
特徴: 深く考えずに表面的な理解や暗記に留まる
表出例: 公式や解法を機械的に覚えるが応用できない
克服のために: QNKSの「問い」の段階を重視し、「なぜ」「どうして」という深い問いを立てる習慣をつける
2. 単線型思考モデル
特徴: 一つの解法や考え方しか持たないモデル
表出例: 別解を考えられない、他者の解法に興味を示さない
克服のために: けテぶれマップの「友達と分析練習」「友達と説明し合う」ゾーンでの活動を充実させる
3. 質問回避型メンタルモデル
特徴: 質問することを恥ずかしいと感じ、わからないままにする
表出例: 「みんなわかっているのに自分だけ…」と質問できない
克服のために: 「はてな」との出会いを価値づけ、よい質問をクラスで共有・称賛する
D. 学習共同体に関するメンタルモデル
1. 競争第一モデル
特徴: 学習を競争と捉え、他者との比較に終始する
表出例: 「〇〇さんより先に終わりたい」「一番になりたい」
克服のために: 「個性の違いイコール価値」という理念を体験的に理解させる活動を取り入れる
2. 孤立型学習モデル
特徴: 学びは個人的なものと考え、他者との協働を軽視する
表出例: グループ活動を嫌がる、自分の考えを共有したがらない
克服のために: 「みんプリ(みんなの問題集)」のような協働的な学びの価値を体験させる
3. 「教える=答えを教える」モデル
特徴: 教え合いを単なる答えの伝達と捉える
表出例: 友達に答えだけを教えて満足する
克服のために: 真の「説明する」活動の価値を体験させ、「なぜそうなるか」の説明ができることの重要性を理解させる
E. 成長に関するメンタルモデル
1. 固定的能力観モデル
特徴: 能力は先天的で固定されていると考える
表出例: 「自分は算数が苦手だからできない」と決めつける
克服のために: けテぶれによる成功体験と分析を積み重ね、努力による成長を実感させる
2. 「正しさ追求」モデル
特徴: 学びを「正解を当てる」ゲームのように捉える
表出例: 探究より「正しい答え」を求める、曖昧さに不安を感じる
克服のために: QNKSの過程で多様な解釈や考え方があることを体験させる
3. 「今だけ」短期思考モデル
特徴: 長期的な視点を持たず、目の前の課題のみに反応する
表出例: 振り返りを軽視する、長期的な計画を立てられない
克服のために: けテぶれの大サイクル(大計画・大テスト・大分析)を通じて長期的な視点を育む
これらのメンタルモデルの特徴を理解し、葛原学習研究所の実践では「けテぶれ」「QNKS」「心マトリクス」を通じて、子どもたち自身が自らのメンタルモデルを認識し、より適応的なモデルへと転換していく過程を支援します。特に重要なのは、誤ったメンタルモデルを単に否定するのではなく、子ども自身が新たなモデルの有効性を実感できる経験を積み重ねることです。