レンマ学
本書が全体としていいたいこと
法界縁起の構造(体性)と力学(力用)を備えたレンマ的知性が、あらゆる生命体(有情)に内蔵されている
人間においても、ロゴスとレンマ、ふたつの知性様式が同時に活動しているが、ロゴスの発達ゆえにレンマ的知性が理解しにくくなっている
レンマ的知性は、華厳経の概念体系を借りると理解しやすくなる
ロゴス
自分の前に集められた事物を並べて整理する
思考がロゴスを実行するには、言語によらなければならない
人類のあらゆる言語は統辞法にしたがう
ロゴスによる事物の整理は当然、時間軸に従って伸びていく「線形性」を本質とする
時間を介して線形的な情報処理を行う
レンマ
非線形性や非因果律性
事物をまるごと把握する
非時間的な縁起の理法によって作動する
ニューロンがやっていること
シナプスにおけるイオンチャネル機構を通じた、0/1の二元で構成されたデジタル信号の伝達
感覚受容器で一次的分類をほどこされた情報を電気信号の形で受け取り、その信号にされに分類を加えている
「同じもの」とみなされた類似要素をひとまとめにして縮減し、次の処理過程に送り出す
この機構を通じて「時間」が導入され、心の内外からの知覚情報のシンタックス化がおこなわれる
これらの過程は、計算機上で再現可能である
しかし、計算機には「波に対する水」に相当するレンマ的知性に関わる要素は組み込まれていない
「意識」はあっても「無意識」はない
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※本書の内容からは外れるが、国立科学博物館発行の雑誌milsil vol.13「認知科学でさぐる鳥の心"」によると、シジュウカラの鳴き声には蛇を表す名詞があったり、文法を持つ二語文を話す能力があるそうだ。また、似て非なる方言を聞き分ける力もあるとのこと。こうした力は、人間がニューラルネットワークによって実行している、ロゴス的な情報処理と原理が変わらないのだろうし、機械学習にも、同じことが言えるのだろう。一方で、カラスは鳴き声(聴覚)と容姿(視覚)を組み合わせ「イメージ」として統合的に認知する力があるという。これはロゴス的な能力の賜物というよりは、レンマ的な能力によるものだと考えるのが妥当であるだろう。
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縁起によって生起し全体運動している現実は、ロゴスでは捉えきれない
そのために、レンマ的知性がある
全体を、まるごと直観によって把握する
参考となる生き物の例
粘菌:中枢神経系を持たずに、栄養源に対する最も効率の高いネットワークを発見することが可能(巡回セールスマン問題のようなものは、ロゴス型計算機では、もっとも不得意としてきた)
タコ:神経系の重要な部分が、脳だけに集中せず、身体全体に分散している(腕だけでも記憶と思考ができる)
華厳経におけるキーコンセプト:法界縁起
存在の全域においては、事と事をつないでいる相互連関があり、相互連関を保ちながら事物が生起している
縁起は、事物どうしが相即相入することによって起こる
あらゆる事物が空を本体としているから、個体性は空から生じ、空が個体性を包み込んでいる
あらゆる事物は空に基づいた同じ構造をしていて、その共通構造をもって、他の事物と相即することができる
このとき、事物と事物の間に、力の出し入れ(力用)が起こる
一方から一方で力が流れ込む時、一方の事物は力を得て顕在化に向かい、力を失ったもう一方の事物は隠伏空間のなかに隠れていく(相入)
人間のやっていること
カテゴリーに分別、分類された語彙と語彙(ロゴス)の間に、縁起的連結を生み出す「喩(アナロジー)」の力を働かせている
感覚的に共通したものを含むと直観された語彙どうしは「相即」で結ばれる(メタファー)
語彙の間に力の移動が発生するときは「相入」が起こる(メトミニー)
句構造というロゴス軸の示す普遍構造は変わらないが、表現のレベルではたえずゆらいでいる