「巻き込み」について
概要
研修業をやるなかで、とかく「巻き込みが難しい」という相談を受ける
巻き込み、とはプロジェクト進行の内実そのものなので
難しいことは百も承知、二百も合点な話なのだが
巻き込みについて、少し書いてみたい
巻き込むとはどういうことか
行動してもらう、ということである
言ったとおりに行動してもらい、期待したとおりに結果を出してもらう
もう少し言えば
言わなくても自発的に行動してもらいたい
嫌なこと、面倒なこと、難しいことにも立ち向かってほしい
行動するまえに、自ら問題を見つけ、解決してほしい
より少ない報酬で、嬉々としてそれをやってくれたら言うことない
まあ、そういうことであろう
ゆえに
「巻き込まれる」という言葉には、とても嫌なニュアンスがある
損させられる、という感覚
さて
実際、人を巻き込むのが上手い人もいる
巻き込み上手はどこに気をつけているのか?
そこを考えるためには
巻き込み下手の逆を考えれば良い
では、巻き込み下手はどこが不味いのか
条件、言い方、方向性の3つに分解するとわかりやすいのではないか
条件、とは「依頼の内容」である
責任範囲
対価
求めるレベル、クオリティ
納期
言い方、とは「依頼の表現」である
タイミング
ドキュメンテーションの形式
連絡手段
言葉遣い
方向性、とは「依頼の背景、目的」である
その取組にどんな大義があるのか
成功した先にどんな未来が待っているのか
あなたにとってどういう意義や意味があるか
どの程度筋の良さでアプローチしているか
そもそも人間、誰だって
自分の利益を最大化したくて暮らしている
喫緊の、重要度の高い作業を、目の前に抱えている
自分の利益の拡大につながるなら、舞い込んできた依頼は喜んで扱うし
その逆なら、続く行動も逆に転じるのは、当然の理である
そうやって考えていくと
PMが自分の利益の最大化のために、エゴイスティックに「巻き込む」のは、非常に筋悪な手であるとわかる
それは、構造的に、依頼者と依頼先の間にゼロサムゲーム、綱の引きあいを展開してしまう
毎度まいど、そんなハードな交渉をやっていたのでは、身が持たない
遺憾ながら、実際には、そのような程度の低いマネジメント業務を繰り広げるのが当たり前である
なぜ、そんな程度の低いマネジメントが成立するのか?
効率化のために、「恐怖」を与えることで、場の力学に優位を持たせるのが通例である
人間としての価値を承認しないぞ、という脅し
報酬や評価を減額するぞ、という脅し
作業量をもっと増やすぞ、もっと嫌な仕事に左遷するぞ、という脅し
一方で、魂の綺麗なPMはそういうことはしない
ではどうするか
依頼先に対して、条件を大幅に譲歩するのである
そもそも人に頼まず、自分でやる
依頼元と条件交渉し、できるだけ有利な状況を作る
これはこれで、身が持たない生き方である
そもそもプロジェクト活動とは
何も考えずにやっているようでは、ゼロサムゲーム以下の活動である
いつかどこかで、誰かが損をするようにできている
ババヌキのようなものである
しかし、突破口がないわけではない
しっかり考えてやれば、ゼロサムゲーム以上の活動になる
つまり、みんなが得をするような構造に持ち込むことが可能である
PMの役割とは、そのためにどうするか、を考えること以外にないのである
では、具体的に言って、どうすればみんなが得をするようになるのだろう
①まずもって、関係者の損得勘定、あるいは損得感情を理解しようとするのは大前提である
第一の軸:その人は、一体なにを求めているのか
お金なのか
経験なのか
スキルなのか
関係性なのか
知識なのか
名誉なのか
評価なのか
機会なのか
第二の軸:それを、どのレベルで求めているのか
言葉の上で求めている
心のなかで求めている
自覚的には求めていないが、生存環境上、求めざるを得ない
自覚的には求めていないが、得られたときには喜びが大きい
②次に、状況が求めるものを理解しようとしなければならない
いつまでに、どのような成果が欲されているのか
そのために必要な作業や資源には何があるか
③あとは①と②を、どのように組み合わせるか、である
単純な付け替えで組み合わせが成立すれば、そこで計算は終わる
しかし、そうはならないことのほうが多い
どこかに過剰や不足が生じるのが通例である
④というわけで、最終的には、状況に働きかけることが必要となる
誰が最終的な決定権を握っているのかを理解し
成果の要件に調整の幅がないかを考える
あるいは上位要求に立ち返り、成果や目標設定を、別のものに変えていく
ポイント
上記のプロセスを、ひとつひとつゆっくりやっていったのでは、間に合わない
そんなことをやっている間に、状況のほうが変わっていってしまう
ではどうするか
あらゆる瞬間で、①~④のすべてについて「一挙に洞察が深まる一手」を繰り出し続けるのである