WBSについての一考察
WBSの書き方については諸説あり、ローカルルールや業界標準も入り乱れているため、意外と簡単に「こうだ」と言い切れないところがあります。WBSについて、一般論として普遍的な言説を語ろうとするのは、意外と大変に難しいものです。
そして実務上、しばしば問題になるのが「WBSに、どこからどこまでを書くか問題」というものです。
本来の定義からすると、成果物を構成する部品、つまり実態のあるモノを中心に書くのが王道であるわけですけれども、大項目に作業手順の要素を記載したくなったり、また、目的設定や課題管理といったプロジェクトマネジメント業務を含めたくなることもあります。
つまり、どういうことかというと、最も素朴なWBSの書き方とは、カレーを例にしてみたら、極端な書き方をすれば、方向性としては、下図のようなものになるはずなのです。
https://gyazo.com/65ff5ad4920e60ecd9101221788f59f3
参考:
https://gyazo.com/5741db35b5a6b23731c05dc1ad9ff662
しかし、改めてこの例を見ても、現代ビジネスプロジェクトでイメージするWBSとは、随分と趣が違うようにも思います。一回限りの価値創造活動の見取り図、というよりは、大量生産品のBOM(Bill Of Materials)に近いような。
いずれにせよ、調理技術やプロセスに詳しくない人がこういうものを見ても、なにをどうしたらいいか、ピンとこないだろうということは容易に想像されます。よって実践的には「どういう手順で作るか」という観点をもとに整理すると、わかりやすいじゃないか、という発想が生まれ、例えば以下のような表現をしていく、という方向性も、考えられます。
https://gyazo.com/3ba469f135f05b6f96fd069a9adb45ca
なるほど確かに、これによって「何をどう進めていくか」は格段にイメージしやすくなったようです。
しかし、こうしたWBSをもとに進行にありがちな落とし穴として、「確かに一生懸命作業して成果物を作ったが、本来のカレーを食べたい意図や狙いをズレたことをやらかしてしまい、結局取り組みとしては成功しなかった」といったことも、往々にして、あり得るのです。
あるいは、取り組みの最中に飛び込みで別の用事や対応が発生してしまい、結果、この計画通りにものごとを進めることができなくなり、なにがなんだかわからない、ワヤワヤな取り組みになってしまう、なんていうことも、珍しくありません。
ということで、WBS表現のうえで、そういうことが内容に前準備のこともしっかり書きたくなる、と考える人もいて、そんな場合は以下のような形になるかもしれません。
https://gyazo.com/75584e621c66cf5625d9fc5b98eb259a
まぁ、これはこれでひとつの安定したプロジェクト運営の基準になるかもしれませんが、どんなカレーになるのか、ちょっと具体的にイメージのしづらい表現です。また、こうした角度で切り取ることの怖さは「企画」の結果によって「設計・開発」の内容が随分と大きく左右されるため、最初から全体を見通したWBSを書くという作業そのものが、原理的に不可能だったりします。もちろん、上図の抽象度での表現であれば、どんなカレーを作ることになっても変わらないでしょうけれども、ジャパニーズカレー、インドカレー、スパイスカレー等、具体的なカレーの仕様を想定した具体的な表現に落とし込んでいくのは、かなり難しい。
しかし考えてみたら、そもそもWBSを作ることによって成し遂げたいのは「作業工程を厳密に洗い出すことで、あらかじめ時間や予算の見積精度を高めたい」ということであるわけですから、この③のような分解法は、「かゆいところに手が届く」といったものにはなりづらそうです。
さて、改めて全体を俯瞰しますと以上のように
「何を作るか」に着目する①のアプローチ
「どんな手順で作るか」に着目する②のアプローチ
「なぜ、どのように進めるのか」を捉える③のアプローチ
と記載にあたっての切り口を変えてみたわけですけれども、これによって、開始・終了の表現や作業範囲についても、意識の持ちようのようなものが変化し、内容自体も変化していくのが、面白いなと思います。
こういうことひとつとっても、改めて「プロジェクト管理にはWBS」といった単純化されたイメージには、結構、危険があるなということがおわかりいただけるかと思います。つまり、当事者のスキル・経験値・リテラシといったものや、作ろうとしている状況を踏まえて書いていかないと、実効性のあるドキュメントになっていかない、ということです。また、その裏返しでもあるわけですが、様々な現場において、WBSの書き方や扱い方について、企業や業界、領域による様々なローカルルールが存在する理由も、よくわかるような気がします。