売れるということ
あるとき、某清澄白河にお住まいの、とある征夷大将軍に、あれやこれやの相談に乗ってもらっていた。そのなかのある場面での議題が、「もっと売れてもおかしくない写真家が、その実力に見合うセールスを実現するためには、どうするか」というものだった。
やはり、テーマだとか、コンセプトだとか、そういうことではないか、という話になった。
そこからさらに、ふと話が少し展開した拍子に、アートを買うときには「理解ができた喜びがある」という話になった。
そう、売上は、どれだけ、喜ばせたか、と、明らかに、表裏一体なのである。
自分が売れて、自分が喜びたい、ということでは、売れない。
いかに喜ばすか、が、問題なのである。
そういうことは、しじゅう己に言い聞かせないと、すぐ、忘れてしまうのである。
特に、いまの自分は、気をつけなければならない。
別に、大儲けしたい、名前を売りたい、顔を覚えてほしい、などとは思っていない。自分が無理のないありかたで、普通に仕事をしていきたいだけである。
しかし、その「だけのこと」が、「だけのこと」だと思っているようでは、随分と虫のいい話であり、もっと言えば、尊大な話なのだ。
例えば、結縄さんの「聞く人ラジオ」は、とうとう第100回に到達しそうであるが、明らかに、あの企画は、人を喜ばしている。
直接売上に繋がっているかどうかは別にして、あの価値があることが、別の何かを動かしている。
改めて、己が人を喜ばせられるとしたら、誰に、どういうことを通してなのか、というところを、ちゃんとしたいものである。