プロジェクトと美食
漫画「美味しんぼ」は食について、というよりも文化についての漫画の金字塔である。
なにが素晴らしいのか。単純な「良さの方程式」は存在しないことを語っていることである。
舶来やブランドに無条件の価値はない
同時に偏狭な内輪褒めも恥ずべきである
常に工夫すべきである
とはいえ技巧が鼻についてはならない
同時に素朴ならいいというわけでもない
鮮度をおろそかにしていいわけがない
とはいえ鮮度が全てとも限らない
伝統をおろそかにしていいわけがない
とはいえ革新が駄目とも限らない
価値創造において、これさえ満たせばOKという単純な因果関係は、原則として存在しない。例外しかないのである。例外を恐れるな。己の素直な感性、感覚を信じよ。知識や偏見で目を曇らせてはならぬ。もちろん、無知のままであってもならぬ。鍛錬せよ。鍛錬せよ。鍛錬せよ。
もはや禅である。
本作品では、大量生産消費、都市化、巨大資本、情報化、技術革新、マーケティングといった「発展的」な価値観は、繰り返し否定されている。
この作品のなかで、例外を設けずに肯定している価値観は、以下の3点に集約される。
自然を大事にする
できるかぎりの心を尽くす
のびのびと飾らず、自由である
この作品が高度成長からバブル経済に至る過程で生み出され、支持を得たのは、集合的な良心の結果である、という気がするのである。