「地域ネットワーク解析」読書メモ
本書の遠景にあるもの
311やコロナ以降の企業の生存戦略:サプライチェーン、つまり販売先や販売ルートのつながりが、自然災害等によって突発的に寸断されてしまう事態に対応するための柔軟性が必要
イノベーション、つまり生産の場において企業者が遂行する「新結合」(シュンペーター)には、異質な情報や知見の流入が必要であるが、2000年代の産業クラスター政策は、競争力のある地域産業・企業の発展支援や特定技術を中心とする分野特定型のクラスター形成支援であった
しかし、近年においては異質なクラスターをつなぐ新たな融合分野を生み出すことが一層重要になってきている
本書の目的
ネットワーク科学の手法を用いて取引関係における個々の企業のミクロな振る舞いを計測し、それがマクロな企業間ネットワークの構造や動態とどのような関係にあるかを知る手がかりを示す
直接取引がある1次取引先だけではなく、取引先の取引先(2次)、取引先の取引先の取引先(3次)と、より高次にわたる取引関係を含むネットワーク内で、企業が占める位置と役割を把握する
本書のリサーチクエスチョンは3つ
ネットワークの動的推移に関する問い。他の企業との取引関係をどのように推移させる企業が、地域市場で長く存続できるのか。
ネットワークの構造特性に関する問い。本書でブローカーと名付けられた、異質性の高いクラスター間をつなぎ、異質な情報や知見を自社が所属するクラスター内に取り込む役割を果たしている企業群が、どのような特徴を有しているのか。
企業間ネットワークにおけるクラスターの推移に関する問い。提案指標を含むノードのポジション価値を表すネットワーク指標を用いて、クラスター進化の予測を行い、各指標の予測への寄与度を評価する。また、ブローカーがクラスター内で果たす役割について検証する。
本書における主題的な概念
ノード 取引ネットワークにおける企業
リンク 取引関係
コミュニティ 社会ネットワーク
クラスター ネットワークのなかでも企業間取引関係が密な部分構造
クラスターパス クラスターの推移パターン
ブローカー 異質性の高いクラスター間をつなぎ、異質な情報や知見を自社が所属するクラスター内に取り込む役割を果たしている企業群
新陳代謝度 隣接ノード群の平均入替率を表す指標
Burtの拘束度 構造的空隙を検出するための、ノード間の関係量と、双方のノードの隣接ノードとの関係量を合わせた指標
Z指標(withinmodule degree) コミュニティ内部に多数のリンクを持つハブを識別する
P指標(participation coefficient) コミュニティ間にリンクを多く持つコネクターを識別する
重み付きP値(participation coeficient weighted: PW) リンクの接続先コミュニティの異質性を表す指標