狐娘ちゃん:多くの血が流れた場所で
それは、わたしがすみかを追い出される少し前のお話。
まだ子狐だったわたしは、大人のきつねたちから山を降りた先の「街」に行くことを禁じられていました。
…街には怖い人たちがいるからって、そう言われて…。
ある日、わたしはそれを破って街に行ったことがあって…。
その日の狩りを終えて、すみかに戻るはずだったところ…
珍しく道に迷ってしまったわたしは、気づいたら山を降りていて、
大人のきつねたちが言っていた「街」に足を踏み入れていました。
そこでわたしは…とても怖い景色を目にしたのです。
身体が欠けていたり、あるいは傷だらけになっていたり…
そうして、動かなくなっていたAAたちが、あたり一面に転がっていたのです…。
そして、誰かの悲鳴がわたしの耳に届いて
その方向を見たら、一人のAAが頃されようとしている姿がわたしの目に入って…。
怖くて、声が出せなくて…。
ただただ、躊躇なく殺されていくその光景を見ていることしかできなかった。
動かなくなったAAを見下ろしていたそれは、わたしの方に顔を向ける。
恐怖心に押し負けて、わたしは逃げ出した。後ろを振り返る余裕なんてなかった。
ただただひたすら走り続けた。
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「…っ!?」
気がつけばそこはわたしの新しい部屋。
つーさんが用意してくれた、わたしの新しいすみか。
…ずっと忘れたくて、奥底にしまっていたわたしの記憶。
それを夢としてみていたようだった。
あのあと、ひたすら走ってるうちにわたしはすみかにたどり着いていた。
…怖い人は、諦めてくれたみたいで追いかけてくる様子はなかった。
その時に見た景色は、とても怖くて…大人のきつねたちには言えなかった。
すみかの近くに小さな石碑が建てられたのは、あの日から数ヶ月経ったあとのおはなし。
…今になってつーさんから教えてくれた話では、
ある種族ばかりが「荒らし」に頃され続ける…そんな惨劇の時代があったそうなのです。
あの街だけでなく、つーさんがいた街でも、「怖い人達」によって多くの血が流れたと聞いています。
きっと、大人のきつねたちが言っていたのは、そういうことだったのかもしれません。
もしかしたら、あのときわたしが見た死体の数々は、そんな惨劇の犠牲者だったのでしょうか。
そして、あの怖い人は他にもいっぱいいたのでしょうか。
今でも考えるのは怖いです。
そして、石碑が建てられてから数ヶ月後に、わたしはすみかを追い出されて…。
…その話はまた、別の機会のほうが良さそうですね。
ただ、これだけは残させてください。
狩りと殺戮は別物です…ましてや、種族による差別なんてもっと別物です。
確かに長編板に住んでいた頃は、わたしも生きるために狩りをして暮らしていました。
…でもアレは間違いなく、生きるためのものじゃないと思うんです…。
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