モラ:臆病者の願い
2005年夏
僕の家に突如つーちゃんが上がり込んできた。
「つーちゃん、その子は…?」
「…こいつを頼む。」
つーちゃんが連れてきたのは1人のしぃ族…後のリーダーとなるしぃちゃんだった。
ローブで顔を隠していたが、怯えている様子だったのはひと目でわかった。
「…今のところ唯一の生存者、だよ。」
「そうなんだね…。」
「…他にいないか、もう少し探してくる。」
「うん。」
つーちゃんはそう言い残して、すぐに家を出ていった。
「…………。」
フードから覗くしぃちゃんの目は、ひどく怯えていた。
…どこにも怪我はないようだったけど、きっとこの子もひどい目にあってきたのかな。
「…僕が怖い?」
彼女は静かにうなずいた。
「…正直、なんだね…でも、仕方がないよね。
僕はモララー族、君の同族たちを頃した人たちと…同じ種族だから…。」
…モララー族、それが僕の種族。
もともとは「モナー板の良心」として生み出された種族…のハズだった。
しかし、モララー族は『惨劇の時代』における加害者の数割を占めていた。
…しぃ族を始めとした一部の種族を頃しまわっていたのは…モララー族だった。
僕は、同族たちの横暴をただ見ていることしかできなかった。
「やめてやれよ!」…なんていうことができなかった。
止める勇気もなく、ただただAAたちが同族たちに頃されていく様子を見ているだけだった。
…僕は、臆病だった。
「…ごめんね。」
「………?」
「僕が躊躇わなかったら、奪われなかった命もあったかもしれないから…僕も多くの子達を見頃しにしちゃったから…それに、僕の同族たちがきみの同族達を頃し回ってたから…怖がられても、仕方がないよね…。」
「ううん…あなたは悪くないよ。」
「えっ…?」
「あなたが本当に"悪いモララー"だったら、きっと今すぐわたしをころしてたから。」
「…………。」
「だから、あなたは悪くないよ。
…わたしこそ、ごめんね。」
「…うん。」
『惨劇の時代』がもたらした爪痕は、僕たちモララー族にもあった。
『モララー族は荒らしキャラ』『良心なんてなかった』『偽善者』
そんなレッテルがもたらされている。
当然僕も例外ではなく、今でも風当たりが強く感じることはある。
…それでも、僕自身は原初の願いを投げ捨てるつもりはない。
「モナー族の良心」…その願いはきっと、忘れちゃいけない気がするから。
----