差異を生成するシステム
(「システムとは」2020/10/1授業資料 Ch.8)
差異を生成するシステム
▼オートポイエーシスと機能分化(専門化)
ルーマンの社会システム論が重要なのは、差異を創り出すことを重視しているからだ
ルーマンのオートポイエーシス(自己言及・自己創出システム)は、「タコツボ」(丸山眞男)のような閉鎖的で停滞した出る杭を打つような閉塞状況と近い印象を与えることもある
しかしじつは自己組織性と同じく、オートポイエーシス(自律性)は「己とは何か」を自己言及的に定義する自己定義によって、他との違いを明確にし、社会の中での立ち位置を確立するものであり、ボトムアップなプロセスを含む
この自己組織化は、己の個性を磨き、差異化をもたらすものであり、全体として多様性をもたらす
例としての都市:画一的なショッピングモールは地方の郊外のように人口が分散的なエリアでよくみられるが、東京や大阪のような大都市においては、駅ごとに個性が分かれ、機能分化する(渋谷、丸の内、銀座、六本木、秋葉原など)
このように、大都市のように人口が増えると、機能分化がすすみ多様性がもたらされる:量が多様な質を生む
この専門分化は、各機能システムにおける自律性・自己定義すなわちオートポイエーシスによって能動的にもたらされるものでもある
具体的にいえば、音楽やファッションの街としての渋谷や下北沢は、そこに集う専門家(ミュージシャンやデザイナー)の専門的コミュニケーションによって洗練され、彫琢されてきたし、同じことは秋葉原、六本木、銀座などにもいえる
もっとも2000年代以降あるいは1995年以降に四半世紀にわたるネット社会化は、渋谷という都市の個性を凋落せしめたともいいうるが、より大人の街としての六本木や銀座、反対にオタクの街としての秋葉原はこの限りではない
▼境界人(マージナル・パーソン)の創造性
重要なのは、今日における繋がりのないところに繋がりをつけるコラボレーションは、機能分化や専門分化によって各分野内での洗練が一定程度進んでいないと、コラボレーションにならない点だ
コラボレーションとは専門家どうしの協働であり、専門家がいなければ話にならないし、専門家を繋ぐΠ型あるいはΣ型人材(境界人:マージナル・パーソン)もまたT型人材である専門家の存在を前提とする
ルーマンの議論には人間が出てこず、あるのは専門家としてのコミュニケーションであり、生身の人間が、たとえば数学と社会学の両方を専門とするような境界人ないし橋渡し役は想定されていない
ここにはルーマンがコミュニケーションを要素とするシステムとして社会システムを構成したことによる限界がある
ルーマンにとっては境界人は、専門的コミュニケーションのノイズにすぎないのかもしれないが、現実には境界人こそが複数の機能システムをつなぎ、両者を媒介することによって、コラボレーションも起こる
これはtwitterのカウントが話題ごとにアカウントを分ける人がいる一方で、切り替えは面倒だから結局、同じアカウントで複数の話題を喋ることで複数の分野の情報を交配させ、どちらの分野にもノイズとともに刺激をもたらすことにも似ている(東浩紀)
人間が多種多様な興味関心をもつ存在であることをルーマンは、理論的に捨象した
この人間の捨象により洗練とともに社会システムの創造性のメカニズム(担い手)が不明になってしまった
人間もっといえば、人と人の繋がりであるネットワークや社会関係資本が新しい文化(差異)をもたらすことを語れなくなっている
また、データサイエンスを含む社会調査は、基本的には個人やアカウントにもとづいた情報であり、理論と組み合わせるのに方法論とテクノロジーの進化が人称の捨象を必要としなくなってきた
差異を生成するシステムとは、集合としての異文化を渡り歩き(分野横断)、それらを繋げて弁証法的に新しい共通の文化的要素を生成する人間たちそのもの
▼異文化コミュニケーションによる相互変容による相互的な差異生成
差異を生成するメカニズムとしては、異なる文脈(機能システム)間のコミュニケーションが本来もっている相互変容のメカニズムがある
これは、自分が意図したことが、他人に意図したどおりには原理的にはけっして伝わらないことによる
意図は他者の意味世界においてややズレて伝わるほかない
これは自己と他者が異なる意味世界を生きており、社会全体でみれば多元的な意味空間を人びとが生きているからである
しかしながらその自己の意図と他者の理解のズレは新しい意味を生む原動力となる
もしもズレがなければ意図通りの画一性しかなく、差異(情報)が生じないからだ
ズレはある種の刺激として、(一個人でも機能システムにおいても)自己の意味世界全体の再編成を迫ることもあり、自己組織化やオートポイエーシスが喚起されるのである
▼構造的カップリング(出会いとコラボレーション)での差異生成
機能分化は卵細胞から様々な細胞が分化し臓器や眼球や舌といった様々な器官が生成されるという生命の細胞分化と形態形成のメカニズムに依拠している
だがこの分化と形態形成だけでなく出会い(構造的カップリング)という、それまでなんの関係もなかったものが集まって連携しあってシステムをつくり出すこともある
このカップリングは一時的であればコラボレーションだが、持続していくのが構造的カップリングの特徴であり、新たな組織やシステム(社会関係資本などの資本)の生成である
社会関係資本や、より広い制度・教育・文化を伴う社会的共通資本(宇沢弘文)は、構造的カップリングを持続・促進したり、支援したりする社会的な仕組み
▼偶発的な出会いの場を促進する仕組み(制度)
マルシェやストリートピアノといった市民による活動(フェイスブックやにあるようなさまざまなオフライン・イベント)は、このような構造的カップリングと社会関係資本の醸成に大きく寄与する
オンライン上のSNS(twitter/FB/instagram)は出会いというより、オフライン上でのリアルな出会いを深めたり維持したりするサポートの意味合いも強く、オフラインでの無から有が生じるゼロイチの一を十に育てていく仕組み