社会関係資本・多様なイベント・心豊かな暮らし
心豊かな暮らしへ向けて
人間は皆、幸福を求めて生きている。だが幸福は感情的・感覚的で持続する性質がないため、幸福の条件ないし長期的な幸福という意味で「ウェルビーイング」(よき生)が使われることが多い。その内実は、心の豊かさ、精神的な豊かさである。ただ、心の豊かさはすこし曖昧なので、そこですこし具体的な行動や生活様式を伴う心豊かな「暮らし」という言葉を使いたい。
精神的に豊かな暮らし、あるいは心の豊かさは、いかにして可能か。社会的に孤立している人は精神的に豊かではないだろう。逆に、多種多様な人びととの繋がりが暮らしを楽しくし、人生を豊かにする。もちろん、人の繋がりがあれば即、豊かというわけではなく、人間関係に悩むことも多い。趣味や興味関心、価値観やノリなど、自分と合った人びととの繋がりこそが、精神的な豊かさに繋がる。友人知人や家族なしでは孤独であり、精神的に豊かな暮らしを送ることはできない。こういった人びとの繋がりは、コミュニティとネットワークであり、もっといえば、それらに信頼と互恵性を含んだ社会関係資本とよばれる。
心の豊かさは友人や家族によってもたらされるが、心豊かな「暮らし」――日常的なルーティンや具体的な活動――という意味では、食事会、お茶会、ワイン会、音楽イベント、映画会、マルシェ、アウトドア、スポーツ、旅行、同窓会といったさまざまなイベントが親和的だろう。暮らしは様々な活動の全体だからである。子供や孫がいる人ならば、子供や孫の行事がこれに加わる。そして日々の仕事と家事以外のものは、趣味や様々な縁を通じた会合やイベントということになる。モノ消費→コト消費→トキ消費というように、消費の主役が変わってきているといわれるが、トキ消費とはまさに人びとが集まり、ともに参加するイベントにほからならない。今日では、多様なイベント(トキ消費)が人びとの消費や余暇活動の中心といってよく、さらにこの多様なイベントによって、心豊かな暮らしが具体的に実現している。 イベントは人が集まる場であり、それは人と人が繋がる場、社会関係資本が生まれる場でもある。そして、明らかに人と人の繋がりは新しいイベントを作り出す契機でもある。したがって、多様なイベントと社会関係資本は互いに影響を与えあう循環関係にある。(もちろんストリートピアノやマルシェもこういったイベントのひとつだが、これらが特別なのは、素人以上、プロ未満の人びと(プロ並みのアマチュア)が活躍する点だろう。)
生きがいはウェルビーイングにとっても重要だろう。自分の居場所や役割(出番)があることは生きがいに深くかかわるだろう。
このように、人びとのウェルビーイングすなわち心の豊かさにとって、社会関係資本はきわめて重要である。だが、社会関係資本は個々人の生活だけでなく、さまざまな新しい事業や試み、すなわちクリエーションやイノベーションを生む社会的な苗床でもある。
多様なイベントによるコミュニティデザイン
コミュニティデザインやコミュニティマネジメントは、コミュニティを形成・存続・発展させていくためのものだが、それにはマルシェ・食事会・音楽会・スポーツなどの《多様なイベント》と、それを行う会場としての《サードプレイス》的なものが必要である。もちろん、人的資本としてのアーティストやスタッフ、参加者として《社会関係資本》も必要である。
もちろん多様なイベントそれじたいが《地域活性》を実現するものでもあるが、イベントは瞬間的なものなので、もうすこし持続的な制度としてのサードプレイスを通じた豊かな暮らしと社会関係資本がポイントになる。
なお、地域活性はその担い手が公共財供給者になるため、公共財供給問題=社会的ジレンマである。つまり、地域活性は誰かがやってくれればよくて自分がやらなくてもよいのである。フリーライダー問題でもある。
イベントへの各個人の参加を通じて、コミュニティは発展していく。イベントに関わることは、コミュニティ形成にとって本質的なことであり、多様なイベントを地域において打ち出し続けることは大変なことだが、やはり重要なことである。 (この意味で、週2回の赤羽岩淵・正光寺・寺ピアノは、頻度において重要。)
コミュニティデザインやコミュニティマネジメントの仕掛けを下図のループ図に示した。まず、多様なイベントと社会関係資本の間の好循環が中心にある。社会関係資本からは、コミュニティ感覚(居場所・役割・承認)や新結合(異種結合・起業)が生まれ、それがシビックプライドやイノベーションを通じて多様なイベントを活性化し、それがさらなる社会関係資本を有無という2つの還流があり、合計3つの回路(循環)がある。幾重にも循環(ループ)が存在し、それが多様なイベントと社会関係資本を豊饒化させ、心豊かな暮らしを実現させる。循環はうまくいけば好循環になるが、うまくいかなくなれば悪循環になる。
好循環・悪循環を明示したループ図はシステム思考の本質である。うまく好循環を引き出すことが、コミュニティデザインやコミュニティマネジメントのポイントになる。
table: 心豊かな暮らしと社会関係資本(ループ図)
(個人の参加) (中心軸) (個人間での創発)
(目的) 心豊かな暮らし
↙ ↑ ↖
(成果) シビックプライド → 多様なイベント ← 地域イノベーション
↑↓ ↑↓ ↑
(繋り) コミュニティ感覚 ← 社会関係資本 → 異種結合≒新結合
↓ ↑↓ ↑
(基盤) 協力(コミット・提供) → サードプレイス ← 諸支援制度
心豊かな暮らし:持続的な幸福ないし、幸福の条件としてウェルビーイング(よき生)ともいえる。ある程度の経済的な基盤のうえで、個々人が地域や社会に参加できることが(具体的には自身の価値観や趣味に応じて選択可能な多様なイベントを創り出したり、そこに参加できることが)、多くの人びとって生きがいや精神的に豊かな暮らしになる。社会参加や地域参加は民主主義的で(パットナム)、選挙や政治、ボランティアなどを想起させるが、それだけでなく文化芸術においても重要である(リレーショナル・アート)。たとえば、ストリートピアノの高い一般参加性を想起されたい。
シビックプライド:自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、当事者意識に基づく自負心。地域や社会への参加や参画(コミット)が含意されている。
シビックプライドには、ノーブレスオブリージュ(高貴な者の義務)のように、地域からの恩恵を受け、地域への愛着がある者が、地域に恩返しをしたいというような、気持ちが働く可能性がある。このようにしてシビックプライドはコミュニティ感覚の一部をもなすが、直接、地域のイベントへの参加やコミットを促すことになる
「シビック(市民の/都市の)」には権利と義務を持って活動する主体としての市民性という意味がある。つまりシビックプライドには、自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、当事者意識に基づく自負心を指す
多様なイベント:マルシェ、ライブ、ストリートピアノ、食事会、展示会、スポーツ、映画観賞会、芝居など。地域のイベントが重要なのは、参加が容易だからである。多種多様なイベントが用意されることで、多様な趣味に分かれた今日の人びと(分衆)でも興味関心をもって参加できる。質が高ければなおよいが、多様なイベントは、選択肢を提供し、そこから選ぶことができることで各人の趣味・価値観にフィットすることができ、個人の厚生(ウェルビーイング)を高めるだけでなく、個人の自由(A.K.Senのケイパビリティ=潜在能力 Capability)の内実ともなる。このように、多種多様なイベントにはこのような意味があり、心豊かな暮らしの具体的な形である。
武藤研究室において多様なイベントを主催・協力するのは、この多様なイベントが具体的な地域貢献・社会貢献であるだけでなく、心豊かな暮らしに内実を与え、社会関係資本の醸成にも寄与するからである。
地域イノベーション:シュンペーターによれば、イノベーションや創発すなわち革新は、新結合から生まれる。地域においてイノベーションが必要なのは、自治と地域の独自性に関わるからである。どのような地域にも特産品であったり、そこにしかない固有性や独自性が必要である。それがシビックプライドの基盤をなしている。地域自身の力によって、地域の特徴を創出し、他の地域と差異化していくことは、地方創生や地域創生が喧伝される今日において、あるいは観光やツーリズムが日常化している今日の社会において、非常に重要である。そしてイノベーションが地に足についたものという印象を得るためにも、既存の社会的ニーズや潜在的ニーズに応えるもの、すなわち《社会課題》を解決するようなものとして位置づけられることも肝要である。こうすることで、いわば創造の翼が、大地への根を獲得し、サステナビリティを得ることができるからである。
異種結合・新結合:新しいものは、無から有が生まれるわけではなく、既存のものの新しい組合せとして生まれることのほうが、はるかに多い。起業家は新結合を目指している。ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)や、ソーシャル・ベンチャーは、地域や社会に新しい価値を提供することで、サステナビリティを得る。
社会関係資本:信頼・互恵性規範・ネットワークからなる社会関係資本は、多様なイベントをもたらすのに必要であり、かつ各イベントにおける出会い等から社会関係資本そのものが強化される、という循環関係にある。また、社会関係資本はコミュニティ(感覚)を与えることで、個人に居場所と役割を与えることを通じて安心や承認を提供する一方で、異種結合・新結合・イノベーションの重要な条件でもある。
SNSなど、ネット社会化に伴う社会関係資本の影響も見逃せない。かつては一期一会だった旅先での出会いは、そこでSNSで繋がることで、一生の繋がりになったりする。SNSは日常的な繋がりでもあり、往々にして近隣住民よりも趣味縁などで、距離とは関係なく繋がることにもなる。このように、地域コミュニティにとってSNSはマイナスな側面をもっている。
しかし、関係人口という観点ではSNSは非常に強力なツールである。多拠点生活やアドレスホッパーのように、場所を点々としながらも、否、だからこそ広い社会関係資本を紡げる人びともいる。SNSは大都市と地方、あるいは街と街の繋がりを促進させ、相互に恩恵をもたらしうるのである。
もちろん、FBの地域ページやLINEのオープンチャットなどで、
いずれにしても、SNSやネットは重要だろう。
コミュニティ感覚(共同体感覚):アドラー心理学や諸々の社会心理学・社会学の知見によれば、居場所と役割が重要。役割を果たすことで所属感が得られる。これら友人・知人関係を含めたインフォーマルな所属は個人に安心と承認を与える。さらに、人は居場所が与えられれば、そのコミュニティに貢献(コミット)する。それはシビックプライドに繋がるし、自身の承認の問題も解決される。人は他者からの承認を必要としている。承認のニードが満たすことがコミュニティの重要な機能(パワー)である。
協力(コミット・提供):マルシェ、祭、アートイベントなど地域イベントへの参加・参画・協力・コミットは、人びとの繋がりである社会関係資本および伝統や文化的な自尊心でもあるシビックプライドによって得られるコミュニティ感覚によって駆動される。ジブンゴトとして地域のイベントを感じられるようになるためには、自分自身が地域の仲間の一員であるというコミュニティ感覚が必須なのであり、それがなければイベントへの協力は難しいだろう。なお、この協力というワードは、(社会的ジレンマ状況での)公共財供給を担う、という意味である。まちづくりはほとんどがボランティアであり、対価がわずかな公共財や集合財の供給行為である。この協力を可能にするのが居場所と役割からなるコミュニティ感覚と考えるわけである。
サードブレイス:サードプレイスとは、カフェ、バー、パプ、スナックのような自宅と職場(学校)以外の場所である(下記の8つの条件を参照)。個人の居場所すなわちコミュニティを形成するためにも、新結合や創発を引き起こすためにも、コワーキングスペースやカフェのような場所は決定的に重要である。人はじっさいに会ってはじめて、その人と一緒に何かやろうと考えるものだし、なにより、盛り上がる。チャットやズームでは片手間でできるが、対面では片手間ではいられないからだ。このように、サードプレイスは、コミュニティ(社会関係資本)を醸成する。
諸支援制度:支援制度の充実は、行政が果たすべき役割といえる。さまざまな助成金は、コミュニティ・ビジネスのスタートアップに必要である。異種結合・新結合によって地域に新しい価値をもたらす地域起業へのインキュベーション制度は、官民連携(公民連携)にも当然ながら関係し、重要である。
参考
心豊かな暮らし(ウェルビーイング)は、Quality of LIFE( = QOL = 生活の質(人生の質)を高めること)と密接に関わっている。
cf. A.K. SenによるCapability 潜在能力は、QOLより、自由に比重がある。
レイ・オルデンバーグが定義する“サード・プレイス”の8つの特徴:
1. 中立領域 サード・プレイスは特定の個人や団体、政治組織や宗教組織に属していない場でなければならない1。また、その構成者は義務感からそこにいるのではない。彼らは、経済的、政治的、法的に縛られること無く、喜んでやってくる。 2. 平等主義 サード・プレイスは、個人の社会における地位に重きをおかない。経済的・社会的地位は意味がなく、ありふれていることが許容される。サード・プレイスでは参加するために、何も必要条件や要求がない。
3. 会話が主たる活動 遊びココロや楽しい会話がサード・プレイスの活動のメインフォーカスである。会話のトーンは気軽で、ユーモア、ウィットがあり、優しい遊びココロは高く評価される。
4. アクセスしやすさと設備 サード・プレイスはオープンで、みなが訪れやすい環境。柔軟で親切で、集まる人のニーズにこたえるところ。
5. 常連・会員 サード・プレイスは、常連がいて、空間やトーンを形成する。その場所らしさを彼らがつくる。新たな訪問者を惹きつけて、新参者にも優しいところ。
6 控えめな態度・姿勢 サード・プレイスは、健全である。その中には無駄遣いや派手さはなく、家庭的な感じ。偉ぶったり、排他的であってはいけない。いかなる個人、あらゆる階層の人を受け入れる。
7 機嫌がよくなる サード・プレイスでの会話のトーンは、けっして緊張や憎悪を生んではいけない。その代わり、陽気でウイットに富んだ会話、気さくな冗談は歓迎される。
8. 第2の家 サード・プレイスにいる人たちは、しばしばあったかい感情を共有する。あたかも同じ家に暮らす者同士のように。この場所に根ざしている感情を持ち、精神的に生まれ変わることを得る。
Oldenburg, Ray (1991). The Great Good Place. New York: Marlowe & Company. ISBN 978-1-56924-681-8 (Paperback)
muto_masayoshi.icon寺ピアノはこの8つの条件を満たしているだろう。
社会関係資本=ソーシャル・キャピタル(SC)についてのサーベイ
muto_masayoshi.iconソーシャル・キャピタル=社会関係資本の醸成は上述の議論において、きわめて重要な役割を担っており、ソーシャル・キャピタルについての研究をサーベイしておく必要があるだろう。
2022年度後期は、ラーマン→斉藤→市村君のアクション・リサーチ的な研究に関連して、またけっして近接的ではないが、東京圏などある程度、広域的なネットワークでもあるSNS(twitter・instagram・Facebook・YouTube)もソーシャル・キャピタルと考え、これらも関連させる。
パットナムは市民自治の礎として、ソーシャル・キャピタルを考えた。また、明らかに医療福祉や健康ともソーシャル・キャピタルは関連する(高齢者層が外出する機会は近所づきあいが多いほど増える)。また、ソーシャル・キャピタルを通じたマルシェ、祭、地域アートなどの地域イベントへの参加(コミット)は、シビックプライドを高める。
ゆるい繋がり、つまり弱い紐帯の強さ(グラノベッター)は、拘束的なシガラミとしての側面をもつソーシャル・キャピタルのダークサイドを排除できる。橋渡し(ブリッジング)的なソーシャル・キャピタルを整備するために、地域イベントは重要であり、その効果をいかに計量し、改善に繋げていくか(どんなテーマで、誰を誘うのかといった場当たり的で直観的な意思決定を科学的にデータベイズドでサポートできるか)が大きな研究のテーマとなるだろう。
社会関係資本はいかに社会的ジレンマを解決するのか
社会関係資本=①ネットワーク+②互恵性規範+③信頼
社会的ジレンマにおける非効率均衡をいかに脱するか:まず、個人間の二人関係(つきあい)を繰返し囚人のジレンマと捉えることを敷衍し、N人関係を社会的ジレンマと考える。ネットワークは通常は二者関係であるが、N人関係は二者関係がn(n-1)/2個あるものと考える。ただしN人ゲームでは一人の個人の行為選択は他者毎に変えることはできない。これは質の高い資料作成(知識)やプレゼンなど、集合材を供給して、集団(社会)に貢献するか否か、という選択と考えられる。ここでいう集団は研究室やクラス、職場や会社などの組織など、様々である。
①ネットワークは長期的・継続的な関係性(付き合い)信頼を意味するので、N人関係=N人繰返し囚人のジレンマにおいてフォーク定理を適用できる。つまり、ネットワークは繰返しゲームの割引因子が大きいことと(将来的なもの、長期的なものを高く評価する)して解釈できる。
②このとき、非効率的均衡に加えて、効率的均衡が存在することになるが、この効率的均衡を導くのが、互恵性規範と信頼である。まず、互恵性規範は、しっぺがえし戦略やパブロフ戦略の対称的な組合せとして実現される。つまり、この戦略の対称性が互恵性規範に対応する。誰もが他者の協力に対して協力で応ずるという互恵性は戦略プロファイルがナッシュ均衡や部分ゲーム完全均衡であり、自己利益追求によっても実現可能ではあるが、複数均衡の問題があるので、規範という一種の短絡的な形態をとることは均衡の実現にとって望ましいといえる。なお、繰返し囚人のジレンマにおいては、効率的均衡においても非効率均衡においても、非協力行動は事後的に一連の相手からの非協力行動によって処罰される(そのために逸脱するインセンティブがなく均衡である)。事後的に処罰されるというのは、あるタイプの規範に対応するといえるだろう。
③繰返しN人囚人のジレンマにおける効率的均衡と非効率的均衡の存在は、この状況が保証ゲーム(鹿狩りゲーム)であることを示唆する。保証ゲームにおいては、相手が損失を最小限にするというマクシミン的行動をとらず、リスクをとってくれるという期待(予期)が必要である。この期待を可能にするものが、信頼である。つまり、信頼は均衡選択に関わる。
以上からわかるように、①ネットワークは大きな割引因子として、②互恵性規範は効率的均衡(協力均衡)における対称性(互いにしっぺがえし戦略など協力的戦略をとりあうこと)として、③信頼は均衡選択として、社会関係資本の3要素は、N人繰返し囚人のジレンマにおけるフォーク定理に対応づけることができる。
table: 社会関係資本(ソーシャルキャピタル)と社会的ジレンマ(N人囚人のジレンマ)との対応表
社会関係資本論 社会的ジレンマ(フォーク定理)
① ネットワーク 大きな割引因子(長期的・継続的関係)
② 互恵性規範 協力均衡(しっぺがえし戦略の組・対称均衡)
③ 信頼 均衡選択
このように分析・解釈してみると、フォーク定理では足りない要素としての均衡選択を可能にするものとして、③信頼がゲーム理論外のものとしての社会関係資本に要請されていることがよくわかるだろう。信頼は合理性には還元されないという意味では、少々、非合理的なものであり、一種の跳躍を伴うものである。ポイントはこのような跳躍というものが、上記のような議論によって精確に摘出できたということだろう。
信頼を可能にするものは、人びとの繋がりであり、顔のみえる関係であることはいうまでもない。赤の他人を信じることは困難だが、顔の見える者、知っている者、特にお互いによく知っている者を信頼することは相対的に困難さは軽減される。あるいは閾値理論的には、顔の見える関係からなる先導的グループは、閾値を超える協力を生み出して、非効率均衡を脱却させ、効率均衡へのドミノ倒しを実現する。顔の見える繋がりである社会関係資本は、このようにして効率的均衡を社会的に選択させる信頼を可能にするのである。
公共財供給問題=社会的ジレンマ
資料