コンビニ人間
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以下引用
「普通」とは何か?
現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
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「普通」ではない主人公の「普通」への向き合い方を描いた作品。
Booklog に向かないジャンルではあるので記そうか迷ったけれど、とてもおすすめしたい作品だったのでメモ。
文庫版だと約600円で、文量も200ページ以下なのでお手軽なのだけど、衝撃的な切れ味の表現が随所にあってぞくっとした。
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最初和製『異邦人』的な作品かと思ったら、中盤青年誌になって予想と違ったけど面白かった。本は読みやすい文体で、短編なのでサクッと読めます。
異邦人の主人公は論理の一貫性が無いので不条理が主題になるが、この主人公はサイコパス+αくらいなのでマイノリティの話になる。形式は近くてもより主題が社会的なのが興味深い。
こういう書き方は私も嫌いだし限定し切るつもりもないが、コンビニという象徴しかり、ムラの空気読みの正体に迫ろうとする主題であったり、日本らしい作品と思った
マイノリティの話をするなら理解し難く不快な他者の話をするのは最低限やらねばならないことだと思うので、その点はホッとした
価値判断を突き放しきったこともよかった
主人公は社会性エミュレートしているサイコパス...と思いきや結構抜けてるところがあるのが面白い
同級生の息の根を止めようとするシーンはツッコミどころが多かった
コンビニのために体調を整えないといけないからしっかり寝る→そのわりに食べているものは雑
貧困の描写ととることもできるだろうけど
他の人達に疑われたくないから会話をみんなに合わせる→そのわりに中途半端に自分の思っていることを素直に口に出す
創作あるあるサイコパスと違ってところどころ処理が雑なのはかえってリアルなのかもしれん
ドジっ子サイコパス
白羽さんが推し進めようとした結婚と就活が向社会的な生活だとするなら、コンビニとはなんだったのだろうか?
主人公はコンビニを「強制的に正常化される場所」と称したが、終盤の結婚と就活もそういう意味では向社会的な生活の象徴として理解できる。主人公が後者を蹴って前者を追求しようとすることにはどういう意味があるのだろうか?
結婚と就活ルート
これは主人公の向社会的な立場を確立し、全面的に正常な人間になったように見える
コンビニルート
こちらは主人公の向社会的な立場は確立されない
コンビニは正常化される場所だが、それはあくまで仕事(とそこで与えられるマニュアルを遂行)する間だけコンビニ店員という正常さに一体化しているにすぎない
仕事は人間の一側面を切り取り、正常な機能または物語として整形する
ということは私もコンビニ人間だったわ
私は主人公の自然がコンビニと一致したという点でハッピーな話と読んだが、異論の余地があるのも興味深い
解説で幼少期と現在という、コンビニ前後で主人公の好みが変化しているという話に触れられている(唐揚げの話)。つまり本作ではあらゆる人間はあらゆる他者や外環境からの影響を避けられず、徐々に影響されて変化していくという世界観が強調されており、主人公もコンビニと出会ったことで後天的によりコンビニに親和的になっていく。コンビニが天職で良かったね!と済ませたいところだがここに疑念が挟まるようになっている。
となると、主人公にとっての本来的な自然とはなんだったのだろうか?幼少期のままの主人公がその本人の特性を活かすように成長したとするなら、それはどのような姿であったか?ということが気になってくる
本書は白羽さんをディスる下りが一番切れ味があっていい
差別する人には私から見ると二種類あって、差別への衝動や欲望を内部に持っている人と、どこかで聞いたことを受け売りして、何も考えずに差別用語を連発しているだけの人だ。白羽さんは後者のようだった。
村田 沙耶香. コンビニ人間 (文春文庫) (p.54). 文藝春秋. Kindle 版.
他人の言葉を話している人はネットによくいる
(...) 被害者意識は強いのに、自分が加害者かもしれないとは考えない思考回路なんだなあ、と思って眺めた。自分を可哀想がるのが白羽さんの趣味なのではないか (...)
村田 沙耶香. コンビニ人間 (文春文庫) (p.69). 文藝春秋. Kindle 版.
ここ一番すき、自分の痛みばかり考えてしまうことはより自分を惨めにしてしまうだろうから気をつけたいですね
「でも白羽さん、ついさっきまで迎合しようとしてたじゃないですか。やっぱりいざとなると難しいですか? そうですよね、真っ向から世界と戦い、自由を獲得するために一生を捧げる方が、多分苦しみに対して誠実なのだと思います」
村田 沙耶香. コンビニ人間 (文春文庫) (p.73). 文藝春秋. Kindle 版.
社会に対して文句を言っているけど、やっていることは迎合してるじゃんという鋭すぎる言葉のナイフ。私や怠惰な人たちによく刺さる。
よく考えるとその後白羽さんが世界から隠れようとしたのは「真っ向から」かはともかく「自由を獲得する」行為といえる
テーマ上どうしても関わってくるとはいえ、女性に向けられる偏見の多さに辟易とする
世の中の人ってこんなにウザいの?