1969/06/20 -B 学校側見解
〔豊陵新聞「論説」事件及び今後の同和教育に対する学校側見解(20日金曜集会に於て中野校長発表)〕
(略)──しかしこれは早急にやらねばならぬ問題でありますので先日も執行部の方々にお願いして、この時間をいただきました。したがって、よくこの考え方を聞いて貰いたいと思います。実はこの見解の骨子は、月曜日の朝礼の時間に豊陵新聞編集局を代表して佐々木君が、回収に対する謝罪~アピールとして、見解を述べられた訳です。その直後私がそれを補填(てん)すると共に、学校側の見解を述べようと思っていた訳です。しかしなにぶんにも、この問題は学校長1人の見解であってはなりません。やはり全部の先生方に充分相談して、そして学校のこれからの同和教育の推進のあり方、そういう事を明確に打ち出さねばなりませんので──また月曜日、佐々木君の説明だけで朝礼の10分の時間がなくなりましたので──今日まで延期した訳です。
昨日、その私自身が考えておりました見解を骨子として職員会議で討論をいたしました。したがいまして、ここで述べます内容は全職員一致の見解でありまして、今後、そういう方向に本校の教育をすすめていきたいと念ずるものであります。──
(略,以下正式見解─文書)
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日本国憲法は「全ての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分、又は門地により、政治的、経済的、又は社会的関係において差別されない」と規定し、基本的人権尊重の理論を明確に打ち出しております。しかし、同和地区住民の方々は、日本の歴史的発展過程に於て形成せられた身分階層構造にもとづく差別を受けて、民主主義の今日においてもなお、経済的、社会的、文化的に低い状態に放置されております。そして近代社会の原理として、何人にも保障されている市民的な自由と権利、すなわち──1. 結婚の自由 2. 就職の自由 3. 居住・移転の自由 4.健康で文化的な生活を保障される権利 5. 教育の機会均等の権利等が、集中的に侵害されているのが現状であります。同じ日本人でありながらこの様な理由のない差別は絶対に許されてはならない事は言うまでもありません。したがって国の方針といたしましても、今年度から特に、同和地区住民をはじめとする国民的な悲願と要望とによって、同和対策事業特別措置法を制定して、同和対策の長期的計画を作成し、問題の綜合的解決を計るための第一歩を踏み出そうとしている訳です。
このような時にあたって、自由と平等の保障された幸福な社会の創造を目指して進められております本校教育において、世論を形成すべきはずの豊陵新聞紙上に──「しかしながら“有志”を除く他の大多数の会員にしてみれば、“有志”とはまるで特殊部落の住人としか見えないのかも知れない」というような差別に通ずるおそれのある論説は、これは絶対に掲載されてはならないのであります。豊陵新聞編集局では発行後まもなく、この重大な過失に気付かれ、自主的に回収したいとの申し出がありました。諸先生方も指導が不足していた重大さを痛感され、豊陵新聞編集局の主体性を生かしながら総力をあげて豊陵新聞167号を1部残らず回収するよう、努力を続けたのであります。
しかしながら、先日も佐々木君が言及しておりました様に、この問題は新聞が回収されたからといって、このまま済ます事のできない重大な問題であります。私は諸先生と共に、このような過失が生じた原因を究明し、再びこのような過失をくり返す事のないよう、同和地区住民に対する理由のない差別を絶対に許さない心情をつちかいたいと決意いたしております。その方策として第一に考えておりますことは、学識経験者をお招きして、全校生徒を対象とした講演会を持ち、諸君に差別とは何か、という差別に対する充分な認識を持っていただき、その講師を中心として自治会主催のセミナーをもって更に理解を深め、お互いに差別を絶対に許さない心情をつちかいたいと決意いたしております。
すでに講師の方をお願いしているのでありますが、同和対策審議会の答申が出されましてから、同和教育推進は国の基本的な施策でありますので、これらの権威ある方々は東奔西走のお忙しい毎日であります。しかし何とか都合をつけていただくようお願いしておりますので、近日、これを実行に移したいと思っております。
以上をもって、豊陵新聞167号回収に対する、学校としての見解の表明を終ります。
── (以下、談話 略)
《この発表の記録は放送部の録音協力による》