1969/06/16 -A【資料●】謝罪文草稿
#171
【資料●】
『豊陵新聞167号自主回収についてのアピール』
(12日─木─執筆 約1500字・謝罪文草稿)
豊陵新聞編集局から全自治会員の皆さんにお願いします。去る六月九日(月曜日)発行の『豊陵新聞』167号回収にご協力下さい。
というのは、同号発行直後、その記事中に重大な誤りのある事が指摘され、当編集局は新聞という公器の持つ任務と責任とを考えた上で、急拠(ママ)この措置に踏み切った訳です。重大な誤りとは、同号2面の論説文中の次の箇所──しかしながら『有志』とはまるで特殊部落の住人としか見えないのかも知れない。──すなわち、この『特殊部落』という用語がそれなのです。もっとも筆者はここでは、特殊なもの、という程度の意図で殆ど無意識に使用しています。とはいうものの、いわゆる部落というものを考える時、この言葉のこうした比喩的な用い方は、現に理由のない差別を余儀なくされている未解放部落の人たちへの無意識の差別を示す以外の何ものでもなかった。そしてまた、すでにこうした意味を有した言葉を軽率に用いその誤りを新聞というメディアをもって少なくとも1500人の人々に伝達したということは、明らかにこの1500人の未解放部落の人たちに対する不当な偏見を助長し、温存する結果を生むことに他ならなかったのです。この限りにおいて、論説の筆者はもとより、当編集局員、並びに顧問は、自らの部落問題、同和教育に対する認識と自覚の甘さを痛切に反省せざるを得ないものです。豊高内の正しい世論をリードして行くべき我々が、この様な誤りをその紙面で犯したことは、いくら非難され、また反省してすぎる事はない事実であります。我々編集局は、二度とこうした根本的な誤謬を犯さぬように編集活動において細心の注意をはらうと共に部落解放運動、同和教育に対して今後できる限りの認識を深め、全自治会員の皆さんと共に積極的に取り組んで行きたいと考えております。
そして、ここに我々はこの誤りの及ぼす他への影響を考えて、豊陵新聞167号の自主的回収を決意し、ご迷惑ながら、皆さんの御協力をお願いいたします。
《しかしながらここで我々がただ一つだけ考える事は、果たしてこの問題は我々が誤りを謝罪し、新聞を回収すればそれで済む事なのかどうか。例えば皆さんは同号回収という事を聞いて、たかが一つの言葉位で、と言われるかも知れない。しかし、そう思う自身の認識自体が、実は未解放部落の人達に対する差別と、自己の優越感情に深く根ざされたものであると思って下さい。言葉と実生活とが切り離せない所に部落差別の実態がある。「部落民」といわれる事はすなわち、就職もできない事であり、自由な結婚もできない、という、これは疑いようもない現実であるのです。
そしてまた、民主主義の社会に生まれて「民主教育」を受けているはずの皆さんに、一方ではこうした無意識下の偏見と差別を許して良しとしていたものは一体何であるのか。皆さんと変わりない豊高の一生徒である論説文の筆者をして、例えば今度のような、正しい認識を欠いた言葉を無意識のうちに使わせたものは究極的には何だったのか。この新聞回収という異常措置を通して、我々は、又皆さん一人一人は、こうした一つの疑問に到達せざるを得ないものでしょう》
1969年6月16日
豊陵新聞編集局
1969/06/16 -A【資料●】謝罪文草稿
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