資料10-01 学校側「謝罪と反省」
『豊陵新聞第167号における差別記事に関する謝罪と反省』 https://gyazo.com/5bd7635f38826e26e5ef25ba1b63bbc6
このたび、豊陵新聞167号において重大な差別事件をひきおこしましたことを、同和地区の方々に対して学校長以下全職員は深くおわび致します。
われわれは同和教育が国民のすべての課題であるという明白な事実に気付かず、今、きびしい自己批判の上に立って、正しい同和教育の方向づけをし、これを実践することが、われわれにとっての不可欠の責務であると考え、本校教育を変革すべく懸命の努力をつづけております。
今回の差別事件を契機として生じ、現在に至るまで続いている本校の混乱実態の原因は、この差別事件の重大さに対する学校長以下全職員の認識が余りにも浅かったことにありました。このため、われわれは事件の本質的解決に取組むことができず、さらに幾多のあやまりを重ねることになりました。
以下、われわれは事態の推移を冷静に眺め、率直に反省を行ない、さらに、われわれの同和教育に対する基本的姿勢及び民主主義教育推進のための具体的方策の一部を提示します。
Ⅰ. 豊陵新聞167号が発行されるまでの経過と反省
1.松村君が最初執筆した論説の原稿は、① 内容に問題がある。② 局員の意見を反映していない。③ 論説としての体裁が不十分である。との理由で、顧問として不適当と考え、局員全員の討議を重ねてその意志を反映したものとして書き直すよう指導しました。この指導にもとずき、約2週間局員会議において討論を重ねた後に書き直された原稿は、局員会議における種々の意見を反映しておらず、松村君の個人的意見のみに終わっていたので、顧問としては「異った意見も採り上げて、それに対して自分の意見を説いてみてはどうか」と助言しました。その後、書き直された3回目の原稿にも、この助言の意向は取り上げられず、従来の原稿と大差のないものでした。既に発行予定日をかなり過ぎていた関係上、顧問は措置に困り、上級生である佐々木君等もまじえて話し合った。その時、佐々木君からも松村君の論説についての批判があり、その体裁、内容について適切な参考意見が出た。そこで佐々木君の意見を中心に話し合いを進めた結果、松村君から、今回の論説の執筆は佐々木君に依頼したいとの申し出があり、佐々木もこれに同意した。
松村君の論説の原稿については、不備な点があったにせよ、顧問が一方的判断によって3回も書き直させ、生徒の政治並びに教育に対する自発的関心を、正しく理解せず不当に抑圧したことを深く自己反省します。また、日々の自主的な編集活動の中で全局員が協力し合い、討論によってお互いを啓発し新聞編集に全局員の意志が充分反映されるよう指導していなかった点、自主的な編集活動を口にしながら、それが地についていなかったことを深く自己反省します。
2.佐々木君の論説については、その内容に関して、あらかじめ話し合いがなされており、また、締切時間が迫っていたとはいえ、全文を一読しながらも、重大な差別記事であることに気が付かず、更に校正の段階でもこれを見過ごしたことは、新聞部顧問のみならず、学校長以下全職員の同和問題に対する認識の無さによるものであると深く自己反省します。また、局員としての経験も豊かであり、社会の矛盾にも敏感な佐々木君をして、こうした重大な差別記事を書かせるに至らしめたものは、正に、同和教育が全くなされていなかった本校の体質そのものであったことを認め深く反省します。
Ⅱ. 新聞発行から回収まで
1.この差別記事については、新聞発行の日に本校の職員が発見したとはいえ、事の重大さを充分に認識していなかったために、新聞部員に対して直ちに回収すべきことを指示せず、6月13日に佐々木君から回収の申し入れがあるまで無為に時を過した。このことも学校長以下全職員の差別に対する無知と、同和教育に対する無自覚によっておこったことであります。
2.豊陵新聞の回収に一週間を要したことは、校長以下全職員が、事の重大さにまだ気がついていなかったためであり、この点でも重大な罪を重ねることとなりました。
3.佐々木君が持って来た自主的な謝罪と回収に関するアピールを、差別の再生産となることをおそれ、時間をかけて検討をしたため印刷に出す間がなくなり、謝罪文として全校生徒の前で声明の形で朗読させたことは、同君の意志に反し、彼の自主性をおさえる結果となりました。
4.今回の差別記事については、校長以下全職員が責任を負うべきものであるから、校長自からが謝罪して、回収の趣旨を訴えるべきであったにもかかわらず、6月16日(月曜日)の朝礼において、佐々木君のアピールのみで処置しようとしたのは、結果として、生徒の主体性に名をかりて責任を回避した行為となりました。
Ⅲ. 回収後の取り組み
1.6月19日(木曜日)の職員会議の、同和教育に対する取り組みは、校長諮問の三方策を討議決定したが、職員側の取り組みの姿勢に積極性が欠けていました。
2.6月20日(金曜日)の全校集会における校長訓話は、学校の同和教育方針を打ち出したとはいうものの、学校長以下全職員に自己を差別者としてきびしく反省する姿勢が全くありませんでした。
3.6月25日(水曜日)の講演会は、大阪府教育委員会を通じて、解放同盟の支持をうけておられる盛田嘉徳先生を講師として紹介していただいたが、この講演会に先立って、校長以下全職員が、自己批判し、全校生徒に講演会の趣旨を充分徹底させ、解放同盟豊中支部とも連絡をとって企画されるべきものでありました。しかるにこれらの措置が、すべて講じられておらず、ために教職員にこの重要な講演会を守り抜く積極的姿勢が欠けていたので、少数の学外者によって粉砕される結果となりました。
4.6月26日(木曜日)関西部落研究会を名乗る数名の青年から自治会室を糾弾本部として使用したい旨申し入れがあったが教職員は断固ことわり、生徒も全自治会の意志としてことわることに決定。翌27日、自治会顧問立ち会いの上でその旨返答しました。
5.6月29日(日曜日)われわれは姿勢をただす第一歩として、大阪府同和教育[推進]室指導主事木下氏を講師として迎え、同和対策審議会答申をテキストとして全職員が同和問題についての研修会を開きました。
Ⅳ. 警官導入
1.7月4日(金曜日)午後1時頃、関西部落研究会の青年約10名が、校長室に乱入、校長との話しあいを強要し、その場にいあわせた3人の職員に対して、胸ぐらをつかみ、メガネをとばすなどの行為があった。しかるのち学校長に対し、期末テストの中止、政治活動の禁止撤廃、学外者立入禁止の撤廃 の3項目について、「関係者(生徒・教職員を含む)と話した上で翌日午後3時までに正門前に公示することを確約します」との誓約書を作成し、これに署名捺印するよう強要した。校長は第6限終了の時刻もせまり、校内において生徒との接触のおこることをおそれ、これに応じ署名し、拇印を押した。
2.7月5日(土曜日)職員会議においては、強要された誓約書であるから回答の必要なしという意見が大勢をしめたが、表現をやわらげ、「昨日の3件はすべて本校の自主的立場において処置します。」と教頭が口頭で答えることに決定し、その決定通りに実行しました。
3.第一にこの関西部落研究会の青年を極力排除するよう努力を払わなかったのは、教職員の同和問題に対する取り組みの弱さであることを認めます。
第二にこのような誓約書に署名し、拇印を押すべきではなかったと思います。
第三にこの件に関して生徒に連絡しなかったことについて深く反省します。
4.7月7日(月)、8時40分頃、正門脇の通用門を閉めようとしたが、関西部落研究会の青年約10名が門を閉めさせず、無理に押し入ろうとした。職員がピケをはったが、彼らは傘で突くなど乱暴をはたらいたので、やむなくピケをといた。彼らは5日の3項目に対する回答を不満として、校長に面会を強要して、校内に乱入し、数名の職員に対しなぐり傘で突き傷を負わせ、職員室では椅子を振り上げて女子職員をおどし、教頭をなぐり、その腕をとらえ校長室へつれこんだ。校長は放送によって乱入者に対し退去命令を出したが、彼らは傘で、事務室、校長室、放送室のガラスを割った。校長は多くの職員の身の危険を感じ、更に器物を損壊するおそれがあると判断し、8時50分頃電話で警察に対し警備要請をするのやむなきに至った。警官が乱入者を逮捕するために校内に入り、2名を逮捕したが、事情を知らない生徒がこれをとり囲んだ。生徒に阻止されて警官は身動きができなくなり、逮捕者を連れ出すために、警察側の判断で数十名の警官が校内に入って来た。もみ合いの間に生徒、警官双方に相当数の負傷者を出した。警官が退去したのは10時20分頃であった。
5.教職員の身の危険や器物の破損などがあって、警官導入のやむなきに至ったとはいえ、これに伴って校内に生じた混乱について、次の諸点を反省し、生徒諸君におわびしなければなりません。
第一に、7月5日に発表した誓約書に対する回答について、学校側の生徒への事情説明が、この日に至ってもなされておらず、生徒は学外者が配布するビラ等によってこの間の事情を知り、これが生徒の学校側に対する不信感を駆りたてることになりました。こういう状況の中で学校側が安易に警官導入により解決しようとしたために混乱を大きくしました。この点大いに反省します。
第二に、警官導入に至ったこの日の実状を、マイクが使えなかった事情があったとはいえ、出来るだけ早く生徒全員に説明するべきであった。
最後に、この間に生徒の中から負傷者を出したことは、教職員が無力であったためであり、学校としては深くお詫びするとともに責任を痛感する。なお、混乱の中であったので、負傷した生徒に対して、学校全体として、早急・適切な処置が充分できなかったことを深くおわびする。
Ⅴ. 糾弾によって得たもの
1.豊陵新聞167号の論説が何故に差別記事であるかということを、今更のごとく認識し、この差別言辞を見落したわれわれの一人一人は、差別者に他ならず、その責任は重大であることを痛感しました。
2.この差別事件をうみだした本校の体質そのものが差別者のそれであり、この体質を根本的に改めない限り、本校における真の教育はあり得ないことを認識しました。
3.われわれが行ってきた民主教育と称するものが以下に空虚なものであったかを痛感し、われわれ自身が徹底的自己批判の上に立って教育者としての正しい自覚をもつことにより真の民主教育をはじめる決意を固めました。
Ⅵ. 期末考査
警官導入、期末テスト延期と、学校は平静に戻るどころか、ますます混乱の度を深め、タテ割・ヨコ割のクラス討論は本校が直面している問題の本質に迫ることなくいたずらに現象面を追って、不信感を生み出しながら迷路にさまよいこんでいきました。この点についてわれわれ教職員は、指導力のなさという点で大いに反省させられるが、7月10日を期してあいまいな自己を許さない姿勢の確立を目指し、その上に立って教科、分掌の総点検を決意し、期末試験についても真剣に討議しました。14日から実施に踏み切った場合混乱の起こりうることについても、もちろん論じ合いました。実施に踏み切るのと延期するのとどちらが本校にとって建設的であるかの判断を下さねばなりませんでした。
① 各H・Rにおいて繰りかえされる討議内容には、それがいかに真剣になされていたものだとはいえ、見通しのないままに延長されつづけている。こうしていつまでも現象に追われていては真の民主教育、同和教育に具体的に取り組めないと考えた。
② 過去における教科指導は教師の指導にも問題はあったがその内容については生徒は、これを自己の問題としてみつめ評価し、一方教師もこれを参考にして明日の教育の方向をさぐることがなされなければならないとかんがえた。
③ その意味で生徒の個性をあらゆる角度から検討し評価することが大切であり、当然テスト内容についても改善するということを約束したのです。
試験は日常性への埋没だという人もあろうが私たちの目指したものは新しい日常の創造であり、平静にもどるということは旧来の豊高を意味するものではないという事は言うまでもない事です。
自己を生きた一人の人間として問いつづける姿勢を堅持しつつ平静な学校の中においてのみ同和教育を原点とした民主教育はなされるものである。自治会の票決にあえてさからうような態度をとったのも以上の理由によるものであり、それが生徒に充分に納得されなかったという教師生徒の信頼感のうすさを現時点においてわれわれは深く反省すると共に互にはっきりするであろう問題意識をもって、また本校を立派に建設しようとする志向をもって互にぶつかり合えばやがて相互不信はぬぐいさられるものと確信しています。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
同和教育に取り組む基本的姿勢
ひとりの生徒にも挫折感をあたえず、差別を許さず、真の民主社会の実現に努力する人間を育てるため、教育方針を次の通り改める。
本校教育の目的は、教育基本法に則り、学校教育法等に従い、心身ともに健全な国家及び社会の有為な形成者として、必要な資質を養うにある。
この目的を達成するため、特に、次の三大綱領を掲げ、実践の指針とし、職員生徒一致協力してその実践につとめる。
(1) 質実剛健の精神に徹して、自律的に錬成しよう
(2) 創造開発の信念に徹して、自主的に学習しよう
(3) 協同進取の日々に徹して、民主的に生活しよう
この教育方針の下に
1. 自律、自主の精神を養う
2. 正しい物の見方、合理的な考え方を身につけ、真実を貫く力を養う
3. 人間尊重の精神に立って相手の立場を認めあい、仲間としての社会的連帯感を養うことを本校教育の重点目標とする。
同和教育の推進について
同和教育の推進につとめる具体的方策
1. 同和対策審議会答申を全校生徒のテキストとして、各教科の学習、ホームルームにおける討議の資料とする。
2. 全校生徒を対象とした講演会・映画会・討論会をもって、“差別をつくらず”“差別を許さない”人間形成につとめる。
3. 同和教育研究会が発足した時は、それを育成し、正しい解放理論を国民的課題として学ばせ、また全校的視野において問題を提起させる。
職員研修について
1. 夏期休暇中に、同和対策審議会答申を研究し、9月以降ホームルームにおいて生徒を指導できる能力を身につける
2. 同和教育研究家、地域進出(ママ)実践者等による講義や相互討議による現職教育を行なう
3. 他府県において同和教育の成果をあげている高等学校を視察し、その実践から学ぶ
4. 職員会議に同和教育研修係をもうけ、関係諸団体の支援の下に研修計画の樹立、講師依頼の交渉にあたる。
今後の取り組みについての具体策
各教科・分掌の総点検の中間報告として、現在までに決定した事項をおしらせします。
(1) 生徒心得について──生徒および教員により構成される検討委員会を開く用意がある。これについて、自治会役員会および議会を通して予備的話しあいを行ないたい。
(2) 定期考査の評価について──従来の個人成績表(通知票)における席次を廃止する。そのかわりに、考査毎に、各科目毎の成績度数分布表を作成し、その表中に、各科目の判断による要注意領域を示す。したがって「34点以下は赤ザブトン」は当然なくなることになる。なお、この度数分布表は、当面は素点による分布表によるが、将来において、偏差値による分布、10段階評価による分布等についても検討する。
[挿入図あり]
(3) 実力テストは今年は8月末には行なわない。夏期休暇中に実力考査について根本的検討をする。
(4) 第2・3学年の夏期補習は、本年度は行なわない。
(5) 8月22日~28日に予定されていた第3学年の補充授業は行なわず、来年2月におこなう。
(6) 今回考査を受けなかった生徒の取り扱いについては、7月26日(土)講演会の日に発表する。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
【参考資料】
大阪府立豊中高等学校/(1969.8.11)
豊中高校教育方針/同和教育の進め方
豊中高校教育方針
目 的
本校の教育は、日本国憲法、教育基本法に則り、学校教育法等に従い次の目的を定める。
1. 人格の完成をめざす。
2. 個人の尊厳を重んずる。
3. 平和的民主的な国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養う。
実 践 指 針
(1) 質実剛健の精神に徹して、自律的に錬成しよう
(2) 創造開発の信念に徹して、自主的に学習しよう
(3) 協同進取の日々に徹して、民主的に生活しよう
同和教育の進め方
●同和教育の目的・目標
目 的
民主教育の基礎にかかわるものとして
(イ) 人権尊重の精神に徹する
(ロ) 不合理な部落差別に対する科学的認識を高める
(ハ) 差別の現実から学び解放への展望をもつ教育活動によって真に民主社会をつくり得る人間を育成する
目 標
1. 人権尊重の精神に徹する
人間尊重の思想は、人類普遍の原理、民主主義の根本理念である。その民主社会形成の前提をなす基本的人権尊重の精神を確立し、一人一人の人間をかけがえのない生命主体として尊重しこれに信頼と愛情をかたむけあうよう努力する。
2. 不合理な部落差別に対する科学的認識を高める
部落問題を正しく理解し、差別の不合理を明らかにし、正義に対する感覚を培い、友愛にもとづく連帯互助の人間関係を育て正しい社会観を確立する。
3. 差別の現実から学び、解放への展望をもつ
差別の根源をなすものは何であるかを強く認識させ、これをいかに打開するかの問題意識、すなわち、解放意欲を育て実践力を身につけた民主的な人間を育成する。
●ホーム・ルームにおける指導計画
ホーム・ルームは同和教育を行う上で、最も重要な場である。
各学年ごとに、指導目標を明確に設定し、講演、映画、読書等によって問題を提起し、討議によって掘り下げる。
この際、
(イ) 生徒が問題を中心に討議し
(ロ) その真実の究明に努力し
(ハ) 生徒自身の力によってあるべき道を発見させるよう指導する。
指 導 目 標
第一学年 仲間を仲間として考える心、問題を問題としてとらえる力を育てる。
部落問題について、正しく認識させ、自己の問題として考えさせる。
第二学年 身の回りの差別や不合理に目を開かせ、正しく対処する力を育てる。
部落問題に対する認識を高め、解放運動のあり方について考えさせる。
第三学年 社会的不合理や差別を許さない態度を養い社会に出てから、その解決の為に具体的に実践する意志と力を培う。
なお、
1. 同和対策審議会答申を全校生徒のテキストとして用いる。
2. 図書館に同和教育資料コーナーを設ける。
●教科学習における指導計画
それぞれの教科において、指導内容について「同和教育的観点」を明確にし「指導上の留意点」を確立し、教科の学習指導に当る。
各教科から提出されている「同和教育的観点」についての共通点は次の通りである。
(1) 人間自覚、人権尊重の精神を養い、合理的な物の見方、考え方、正しい人生観、社会的正義感を育てること。
(2) 生徒が自主的に学習し、個性を思う存分開発し、創造するよろこびを味わい得るよう指導すること。
(3) すべての生徒の連帯意識を育て、ひとりの生徒も疎外感をいだかせないよう配意すること。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------