今日の論文
#研究
その日に読んだおもしろそうな論文の記録。
2025-01-23
Schield, D. R., Carter, J. K., Scordato, E. S., Levin, I. I., Wilkins, M. R., Mueller, S. A., ... & Safran, R. J. (2024). Sexual selection promotes reproductive isolation in barn swallows. Science, 386(6727), eadj8766. https://doi.org/10.1126/science.adj8766
オンライン勉強会で輪読した論文です。
ツバメの性選択に関連する形質の遺伝基盤を探索した上で,3亜種間の3つの交雑帯でそれらの形質の遺伝子領域が,バックグラウンドに比べて浸透しにくいことを示した研究。勉強会では論文の内容を受けて,性選択は確かに亜種の壁を維持していそうだが,種分化の原動力になったかどうかまではわからないのではないか?みたいな議論がありました。絵のセンスと図の配色がすばらしく,さすがScience論文といった感じ。
2024-04-22
Rossi, M., Hausmann, A. E., Alcami, P., Moest, M., Roussou, R., Van Belleghem, S. M., ... & Merrill, R. M. (2024). Adaptive introgression of a visual preference gene. Science, 383(6689), 1368-1373. https://doi.org/10.1126/science.adj9201
先日オンライン勉強会で輪読した論文です。
Heliconius属の3種を用いて視覚によるオスのメス選好性(翅の色をキーにしている)の遺伝基盤を探索した研究。18番染色体の端っこにメス選好性遺伝子と翅色決定遺伝子が近距離で入っていて連鎖していそう,メス選好性遺伝子は視神経周りでも発現している,オスのメス選好性遺伝子をノックアウトすると自分の色とは異なる色のメスに求愛するようになるなど,興味深い内容でした。さすがHeliconiusですね…。
2024-02-15
更新サボりまくってます。この数ヶ月間にオンライン勉強会で輪読した論文を羅列します。
Stankowski, S., Zagrodzka, Z. B., Garlovsky, M. D., Pal, A., Shipilina, D., Castillo, D. G., ... & Butlin, R. K. (2024). The genetic basis of a recent transition to live-bearing in marine snails. Science, 383(6678), 114-119. https://doi.org/10.1126/science.adi2982
とてもきれいな論理構成・結果・図表で印象的でした。解析は大量にあるのに,よく整理された図表と小見出しを見るだけでも内容がかなり理解できた気になれる,色々な意味で進化生態ゲノミクスの教科書的な論文だと思います。
Stoffel, M. A., Johnston, S. E., Pilkington, J. G., & Pemberton, J. M. (2024). Purifying and balancing selection on embryonic semi-lethal haplotypes in a wild mammal. Evolution Letters, 8(2), 222-230. https://doi.org/10.1093/evlett/qrad053
Putra, A. R., Hodgins, K. A., & Fournier‐Level, A. (2023). Assessing the invasive potential of different source populations of ragweed (Ambrosia artemisiifolia L.) through genomically informed species distribution modelling. Evolutionary Applications, 17(1), e13632. https://doi.org/10.1111/eva.13632
Meier, J. I., McGee, M. D., Marques, D. A., Mwaiko, S., Kishe, M., Wandera, S., ... & Seehausen, O. (2023). Cycles of fusion and fission enabled rapid parallel adaptive radiations in African cichlids. Science, 381(6665), eade2833. https://doi.org/10.1126/science.ade2833
2023-09-15
全然更新してなかったけど,この一年にオンライン勉強会で輪読した論文を羅列します。
ぼくたちのオンライン勉強会では,読む論文の候補を参加者がそれぞれ挙げ,投票で次回に読む論文を決め,発表担当者を当日その場でくじで決定する,「ショットガンセミナー」方式で論文輪読を行っています。
発表者は当日決まるので,論文のPDFなどを見ながら解説できればよく,スライドなどの資料を用意する必要はありません。全員が7–8割くらいの理解度で参加すると盛り上がります。
Guhlin, J., Le Lec, M. F., Wold, J., Koot, E., Winter, D., Biggs, P. J., ... & Dearden, P. K. (2023). Species-wide genomics of kākāpō provides tools to accelerate recovery. Nature Ecology & Evolution, 1-13. https://doi.org/10.1038/s41559-023-02165-y
一番最近読んだやつ。記憶が鮮明なので詳しめにメモします。あんまりよくわかっていないところもありますが,大変勉強になりました。
SNPコールに,DeepVariantというGoogleが開発したSNP Callerを,さらにカカポのデータで訓練したものを使っていました。機械学習を使っていて,bamを6次元の画像データとしてインプットしてコールさせるらしく,いわば「データを目で見てSNPコール」を地で行く脳筋ツールのようです。評価方法が若干フェアではないかもしれませんが,この論文中ではGATKよりもエラー率が低かったとされていて,これを使ったこと(+RNAseqでゲノムのアノテーションを改善したこと)により,弱有害変異の蓄積がより正確に推定された(かつて推定されていたほどloss of function変異の数が多くないことが分かったなど)とのことでした。
GWASでは,よくわかりませんが,表現型データをそのまま突っ込むのではなく,家系情報を使って表現型に対する環境要因の影響などを除く処理をしているような感じと理解しました(不正確な可能性があるので,よくわかる方がいらっしゃったら教えてほしいです)。こうすることで(GWASをするには)規模の小さいサンプリングでも,ノイズを抑えてきちんと表現型に影響している箇所を拾える,ということのようです。
現在生き残って繁殖に成功しているカカポは,ニュージーランド南島南西のフィヨルドランドのオス1羽(リチャード・ヘンリーという名前)と,南部スチュワート島の個体に由来するそうです。カカポは飛べないので,PCAなどではリチャード・ヘンリー(とその子孫)だけがPC1で他の多くの個体と分かれるのですが,リチャード・ヘンリーとその子孫では,それ以外の個体と比べて,fertile egg ratioやsurviving embryoが高いらしいです(リチャード・ヘンリーとその他の親個体の血縁が遠いことと関係があるかも,という感じの議論でした)。
全体として,学術的におもしろい話題や視点を含むというよりは,絶滅危惧種の系統保存集団やよく管理された野外集団でのデータの取り方と新しい解析の仕方を示した論文という感じで,かなりコストがかかってはいそうですが,保全ゲノミクスの実践に先鞭をつける研究という印象を受けました。
以下,これ以外に読んだ論文の羅列です。
Wilder, A. P., Supple, M. A., Subramanian, A., Mudide, A., Swofford, R., Serres-Armero, A., ... & Shapiro, B. (2023). The contribution of historical processes to contemporary extinction risk in placental mammals. Science, 380(6643), eabn5856. https://doi.org/10.1126/science.abn5856
Rivas-González, I., Rousselle, M., Li, F., Zhou, L., Dutheil, J. Y., Munch, K., ... & Zhang, G. (2023). Pervasive incomplete lineage sorting illuminates speciation and selection in primates. Science, 380(6648), eabn4409. https://doi.org/10.1126/science.abn4409
Roberts Kingman, G. A., Vyas, D. N., Jones, F. C., Brady, S. D., Chen, H. I., Reid, K., ... & Veeramah, K. R. (2021). Predicting future from past: The genomic basis of recurrent and rapid stickleback evolution. Science Advances, 7(25), eabg5285. https://doi.org/10.1126/sciadv.abg5285
これは結構おもしろかったです。
Strickland, K., Räsänen, K., Kristjánsson, B. K., Phillips, J. S., Einarsson, A., Snorradóttir, R. G., ... & Jónsson, Z. O. (2023). Genome‐phenotype‐environment associations identify signatures of selection in a panmictic population of threespine stickleback. Molecular Ecology, 32(7), 1708-1725. https://doi.org/10.1111/mec.16845
McDevitt, A. D., Coscia, I., Browett, S. S., Ruiz‐González, A., Statham, M. J., Ruczyńska, I., ... & Wójcik, J. M. (2022). Next‐generation phylogeography resolves post‐glacial colonization patterns in a widespread carnivore, the red fox (Vulpes vulpes), in Europe. Molecular Ecology, 31(3), 993-1006. https://doi.org/10.1111/mec.16276
Andrews, K. R., Seaborn, T., Egan, J. P., Fagnan, M. W., New, D. D., Chen, Z., ... & Narum, S. R. (2023). Whole genome resequencing identifies local adaptation associated with environmental variation for redband trout. Molecular Ecology, 32(4), 800-818. https://doi.org/10.1111/mec.16810
Dorant, Y., Laporte, M., Rougemont, Q., Cayuela, H., Rochette, R., & Bernatchez, L. (2022). Landscape genomics of the American lobster (Homarus americanus). Molecular Ecology, 31(20), 5182-5200. https://doi.org/10.1111/mec.16653
2022-10-09
今日読んだわけではないですが,参加している勉強会で読んだ論文2つ。
Barley, A. J., Nieto-Montes de Oca, A., Manríquez-Morán, N. L., & Thomson, R. C. (2022). The evolutionary network of whiptail lizards reveals predictable outcomes of hybridization. Science, 377(6607), 773-777. https://doi.org/10.1126/science.abn1593
Aspidoscelis属のトカゲの交雑による種分化。このトカゲは,交雑によって無性生殖種や3倍体性種が生じてきたことがわかっている。丁寧な解析から,交雑する種間の分岐の深さが無性生殖種が出現するかどうかをある程度説明するのではないかと結論している。
Vilgalys, T. P., Fogel, A. S., Anderson, J. A., Mututua, R. S., Warutere, J. K., Siodi, I. L. I., ... & Tung, J. (2022). Selection against admixture and gene regulatory divergence in a long-term primate field study. Science, 377(6606), 635-641. https://doi.org/10.1126/science.abm4917
ケニアの2種のヒヒの交雑帯ゲノミクス。low-coverage を含む数百個体の全ゲノムシーケンシングデータを50年以上にわたる長期モニタリングデータと統合して解析している。フィールド観察では2種の間に生じる交雑個体の適応度の顕著な低下は確認できなかったが,ゲノムデータは一方の種のゲノムのパージが起こることを示唆した。ヒトとネアンデルタール人をはじめとするヒト属の交雑とも関連づけて論じている。
2022-04-26
久しぶりの更新…。
Edwards, S. V., Shultz, A. J., & Campbell-Staton, S. C. (2015). Next-generation sequencing and the expanding domain of phylogeography. Folia Zoologica 64(3), 187-206. https://doi.org/10.25225/fozo.v64.i3.a2.2015
次世代シーケンシングと系統地理学の領域拡大。
全訳した→今日の論文号外:Next-generation sequencing and the expanding domain of phylogeography
2021-09-15
DeVore, J. L., Crossland, M. R., Shine, R., & Ducatez, S. (2021). The evolution of targeted cannibalism and cannibal-induced defenses in invasive populations of cane toads. Proceedings of the National Academy of Sciences, 118(35). https://doi.org/10.1073/pnas.2100765118
南米原産でオーストラリアに侵入したオオヒキガエルの話。
侵入個体群では在来個体群に比べて共食い行動がより激しく,また共食いに対抗するための形質(孵化後初期の成長速度とその可塑性)も顕著に見られた。さらに,この共食いに対する対抗形質は,その後の成長が悪くなるコストを伴うことも実証した。著者は,これらの結果が,急速な進化を駆動する上での種内対立の重要性,可塑性が選択圧の変化に対する適応をいかに促進するか,そして進化的なプロセスが侵入個体群の制御メカニズムを生み出す可能性を示しているとしている。
シンプルだけど,おもしろい結果。南米とオーストラリアで共食いの頻度が違うことに誰がどうやって気づいたんだろうか…。
2021-09-14
Suzuki, T., Yano, K., Ohba, S. Y., Kawano, K., Sekiné, K., Bae, Y. J., & Tojo, K. (2021). Genome‐wide molecular phylogenetic analyses and mating experiments which reveal the evolutionary history and an intermediate stage of speciation of a giant water bug. Molecular Ecology. https://doi.org/10.1111/mec.16120
コオイムシの系統地理+交配実験論文。
系統地理では,GRAS-diで得たSNPとmtDNA部分配列(COIと16S)を使っている。SNP系統樹も描いているが,各集団2個体しかないのでちょっと微妙そう。交雑個体群もあるし。mtDNAだと日本の三原以東(Ⅰ),日本の下関以西(Ⅱ),朝鮮半島(Ⅲ)の3クレードだが,朝鮮半島と下関以西が姉妹群になり,その外側に三原以東がつく。このことから日本から大陸への移入があったと主張しているが,本当にそうだろうか?例えば,日本の下関以西と朝鮮半島で交雑が起こってミトゲノムが浸透して置き換わったせいで,種系統樹とmtDNA系統樹が一致しないことは考えられそう。 ←これは(少なくとも氷期のは)mtDNAの分岐年代推定から否定できるかもしれない。
交配実験では,上記3クレードの雌雄の組み合わせ全てで交配を行い,オスが卵を背負うか,オスが卵のケアをするか,卵から幼虫が孵化するか,を調べている。朝鮮半島のメスと日本の2集団のオスでは上記3つの交配行動はほぼ見られず,その他の組み合わせではほぼ完璧に交配が起こるという結果。ここから朝鮮半島クレードと日本の2クレードに生殖隔離があるとしているようなのだが,ほんとに?という感じ。少なくとも遺伝子流動は起こりえるってことでは?
2021-09-10
Imarazene, B. et al. A Supernumerary “B-Sex” Chromosome Drives Male Sex Determination in the Pachón Cavefish, Astyanax mexicanus. Current Biology. Publication date: Available online 7 September 2021. https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.08.030
Cavefishの1種では,B染色体と呼ばれる小さな過剰染色体が性染色体になっている可能性が高いことがわかったという話。10X,Nanopore,HiFi,Hi-Cと見たことのあるシーケンス技術全部入り。非モデル生物(?)でもここまでよいゲノムを作れれば、深掘りできる。一般にB染色体は繰り返し配列が多くてアセンブルが難しく,アセンブルできたとしてもどれがB染色体だかわからない。B染色体がオス特異的に過剰になっているという発見を手がかりに,オスとメスでpool-seqして高精度のゲノムにマッピングし,雌雄間でのカバレッジの差からB染色体のスキャフォールドを確定したくだり,自分にとっては新鮮で秀逸な感じがした。ヒトのY染色体の配列決定とかもそうやったのかもしれんけど。これにより,B染色体に性決定遺伝子の有力候補が乗っていることもわかった。さらにその遺伝子をオスで潰すと性転換が起こることも確かめていた。