追記的週報 【2025年第31週/第32週】
【0483】 読みすすめている 『客観性』(名古屋大学出版会2021:448頁)という本¹ は、サイエンス・イラストレーションの歴史・理念についても知ることができる本であることに気づく。
¹ https://bit.ly/3mm2vhW
² https://bit.ly/3k1a5zK (書評)
³ https://bit.ly/3lGDLTn (参考)
【0482】 「ネズミキツネザル」 という霊長類をモデル生物に使う準備が進んでいる。生物・医学研究とは、究極のところ、ヒト(霊長類)での知見を得るという目的があるから、モデル生物は、細菌より昆虫よりマウスより霊長類の仲間がふさわしいということになる(ヒトを直接実験台にはできない)。ただ、大型の霊長類は飼育が大変だし、そもそも個体数の確保が難しいという状況がある。というわけで、繁殖速度が速い小型の(50 g!)霊長類としてのネズミキツネザルに白羽の矢が立ったということのもよう(ネズミキツネザルたちにとっては迷惑かもしれない)。➣論文は、今週号のネイチャー(2025-08-07号)¹ に2本掲載されていている:「新たなモデル霊長類ネズミキツネザルの分子学的な細胞アトラス」² &「ネズミキツネザルの細胞アトラスから得られた霊長類の遺伝子、生理機能、疾患に関する情報」³。➣まずは、ネズミキツネザルを構成する細胞の大まかな構成と、細胞で発現されている遺伝子を大づかみに調べることがなされたもよう。まずは解説記事⁴ を読むにかぎる。 #素人が科学誌をよむ
¹ https://go.nature.com/3H36Fbr
² https://go.nature.com/46UMxCV
³ https://go.nature.com/3J7j0vF
⁴ https://go.nature.com/4oyGlH6 (解説記事:PDF)
【0481】 ネイチャー 2025-08-07号の目次が公開された。表紙の写真は、水を背景にしたゴム製アヒルのおもちゃ。この2つのアイテム――水とアヒルのおもちゃ――が同居する絵からすぐさま想像されるのは、マイクロプラスチック汚染まわりの科学――しかし、今週号の報告はそのテーマではなく、アヒルが乗っている 「台」 にあるもよう――よく見ると、透明に見える 「ざぶとん」 の上にアヒルが乗っている。このざぶとんが、新開発の素材から作られたという論文² 。水をかぶる状況でも、岩の上にこの超接着性の素材(ハイドロゲルと呼ばれる素材の一種)をはさんで固定したアヒルはびくともしない、ということがウリのもよう。まずは解説記事³ を読む。 #素人が科学誌をよむ
¹ https://go.nature.com/3H36Fbr
² https://go.nature.com/45e2Vvu (論文)
³ https://go.nature.com/45smEba (解説記事)
【0472】 ◉『境界で踊る生命の哲学』(東京大学出版会2025)という本 https://bit.ly/4l4p72C を一度通してざらりと読む。少し時間をおいて再読するとさらに面白く読めると考える。◉『物語化批判の哲学』(講談社現代新書2025)という本を読みすすめる。240頁。https://bit.ly/40djrKI ➣同人の各氏に紹介する。◉『仙境異聞・勝五郎再生記聞』 平田篤胤(岩波文庫2000)http://bit.ly/2GcC9Lm を入手したものの、文語体で書かれたテクストなので自分には読みにくい。なので、現代語訳を探し、入手して読み、大意をつかむことにしたい。マンガ版などあればありがたい。それから原文に戻ってくる。◉『AIを生んだ100のSF』(ハヤカワ新書2023)という本を入手して読みはじめる。352頁。SF小説の読み方のヒントが得られるかもしれない。◉売れ線の雑誌や本やコミックスばかりをミもフタもなく集めたコンビニ併設書店に並ぶ本こそむしろ、今日の潜在的読者層の 「読みたい欲望」 を反映する一側面ではないかという仮説を立ててみる。近所のコンビニへ赴く。◉サイエンティフィック・アメリカンが、創刊180周年を記念して写真コンテスト² を開催するという。印刷版の表紙を野外で撮影した写真という趣向。◉『兎の眼』 灰谷健次郎(理論社1974)を読みすすめる。図書館から借りてきた本。ひと昔まえの小説。最近の小説がいかに 「政治的正しさ」 に敏感に書かれているかということが逆照射される。否、この小説が特に、ギリギリのところを攻めているという考え方も成り立つか。◉ #Q_for_ChatGPT: 「なぞかけをしてください。お題は、「総理大臣」とかけて「コメ不足」と解く、です。面白いオチで締めてください。5例挙げてください。」➣ChatGPTはなぞかけはあまり得意ではないことがわかる(今のところ)。◉ #Q_for_ChatGPT: 「なぜ一時期流行した「SFプロトタイピング」のムーブメントはしぼんでしまったようにみえるのでしょうか? その理由は何と推測されていますか?」◉ #Q_for_ChatGPT: 「日本学術会議が今ひとつ大衆から支持されていないとしたら、その理由は何と考えられていますか?」◉「オカルト以上サイエンス未満」 のアイデアを、ライトな仮説とともに掲載する科学誌など、世界のどこかに存在しないものだろうか?◉NHKニュース 「富山 公園でサギ100羽余死ぬ “マツの木伐採 原因か”市が謝罪」¹ に遭遇する。➣地元の野鳥の会に相談は寄せられなかったのだろうかという素朴な疑問。◉ #Q_for_ChatGPT: 「中国で拘束されているアステラス製薬の社員の名前は現地報道で何と報道されていますか?」→米国の新聞WSJの記事では実名が明かされていることを知る。◉ #Q_for_ChatGPT: 「仮に日本で徴兵制が復活した場合、赤紙を出す主体は誰になると予想されますか。」→防衛省・自衛隊/地方自治体のほか、内閣総理大臣によって発出される可能性を示唆している。 #zap
¹ https://bit.ly/3UEHZsE
² https://bit.ly/3UPjMQs (コンテスト要項)
【0480】 「状況を切り換える」――科学誌サイエンス 2025-07-31号に掲載された論文タイトル 「生きた細胞でミトコンドリア遺伝子の発現を抑制する」¹ に立ち止まる――〈抑制する〉 は英語で 「Silencing」(サイレンスする/鎮める)。➣細胞内ではさまざまな遺伝子が発現している=情報(遺伝子)が読み取られてモノ(RNA/タンパク質)に変換されている。どの遺伝子が最終的にどの細胞過程に効いているかを調べるためには、個々の遺伝子の発現を人工的にオンオフできるとうれしい。という思想のもと、現実に近い状況――〈生きた細胞〉――において、特定の(=ミトコンドリアという細胞内小器官の)遺伝子の発現のスイッチを、研究者が任意に切り換えられる方法を開発したよ、というのがこの論文の主旨と推測する。
¹ https://bit.ly/45sgh7Q (Silencing mitochondrial gene expression in living cells)
【0479】 科学誌サイエンティフィック・アメリカンは、𝕏(旧Twitter)のアカウントの更新を昨年末でやめている――おそらく政治的な理由で。BlueSky にアカウントは引き継がれている(@sciam.bsky.social)。同じ出版社グループの英国のネイチャー誌は、今でも𝕏にアカウントを残しているもよう(@Nature)。➣サイエンティフィック・アメリカンは昨年の11月号において、意見記事 「11月には科学のために投票しよう」(Vote in November for Science)¹ を載せている。書き手は編集部員たち(By The Editors)。記事は、「カマラ・ハリスに投票することを強く勧めます。」(We urge you to vote for Kamala Harris.)という文で締められており、一読者としては、「これは科学の雑誌じゃなかったっけ?」 と疑問に感じたことを思い出す。➣選挙の結果は、編集部員たちの願いとは反対の結果に終わり、対立候補すなわち現大統領が当選することになり、編集長は交代したというてんまつがある。おそらくその流れで、サイエンティフィック・アメリカンは、𝕏のアカウントの使用を止めたのだと推測される(𝕏の運営会社のオーナーが当選候補に近い人物であったため)。
¹ https://bit.ly/4ldH2DM
【0478】 『生物学を進化させた男 エドワード・O・ウィルソン』 リチャード・ローズ(草思社2025)¹ という伝記本が刊行されていることをレビュー² で知る。400頁。➣ウィルソン氏の思想に対しては、ウェンデル・ベリー氏が 『ライフ・イズ・ミラクル 現代の迷信への批判的考察』(法政大学出版局2005)という本で批判していたことを思い出す。➣ウィルソン氏のアリ研究に関しては大いに興味あり――『蟻の自然誌』 B・ヘルドブラー+E・O・ウィルソン(朝日新聞社1997:319頁)という写真満載の本があって、ときおり図書館から借りて眺めることがある。アリ研究がらみではほかに、『アント・ワールド アリの世界』(ニュートンプレス2021:200頁)⁶ と、その新書版の 『アント・ワールド アリの世界』(ニュートン新書2022:290頁)⁷ が存在するもよう。興味深いことに、単行本版は横書きであり、新書版は縦書きのもよう(ていねいな話だ)――後者を手に取ってみたい。➣『知の挑戦 科学的知性と文化的知性の統合』(KADOKAWA 2002:372頁)と 『バイオフィリア 人間と生物の絆』(ちくま学芸文庫2008:272頁)⁸ の2冊については、大風呂敷感についていけなくて途中で挫折した記憶あり。いつか読める日が来るか(否、目次を眺めると興味深い章はいくつもあるのだ。そうした章から(だけ)読んでいけばいいのだ)。➣そういえば、手元にある、『科学および自然におけるフィールドノート(Field Notes on Science & Nature)』⁵ という、邦訳が待たれる本の序文もウィルソン氏が書いている。
¹ https://bit.ly/47c3sAH
² https://bit.ly/3J1loE9
³ https://bit.ly/3hpAdR3
⁴ https://bit.ly/31ZBvJ8
⁵ http://bit.ly/2eIrQiR
⁶ https://bit.ly/3UHk4sD
⁷ https://bit.ly/4oBDJZ5
⁸ https://bit.ly/3FNvDEM
⁹ https://go.nature.com/35bbGLP (ネイチャー 2022-01-20号に掲載された追悼記事)
【0477】 星をみる虫――渡りをする蛾(が)が、何をよすがに飛ぶ方向を決めているかという話。論文のタイトルは、「ボゴンモスは夜間の長距離ナビゲーションに星コンパスを用いる」¹。ネイチャー 2025-07-24号² に掲載されている。➣つまり、この蛾は、星の動きを感知して飛んでいる、星が見えるのは夜だから、夜間に渡りを決行している。すると、日が出ているうちの近所の移動とは別の 「感覚スイッチ」 のようなものが、日が暮れてから動作開始になるということになる。➣渡り(長距離移動)は何十億匹もの集団で行われるという。たとえば、リーダーたる数頭の個体だけが星空感知能力を備えていて、他の数多の個体は単にリーダーに追随するだけ、という可能性はないか? などということをふと考える。
¹ https://go.nature.com/41o4nuf
² https://go.nature.com/44JS2Tl
³ https://go.nature.com/4mtkG1a (解説記事:PDF)
【0476】 最終的な目標は何だ? あちらが立てばこちらが立たず。問題は絡み合っている――航空機の飛行が地球温暖化に影響を及ぼすという、以前から指摘されていた問題において、具体的な影響因子として、これまで考えられてきた(大悪玉たる)①CO₂(ジェット燃料の燃焼で生じる)のほかに、➁飛行機雲(水蒸気のこと)と、③窒素酸化物NOxの排出、の影響も加味すべきではないかという疑問があるもよう。①だけ見て技術革新していると、➁③による悪影響が下手すると大きくなってしまって、虻蜂取らずになってしまうのでは? という疑問提起。➁③の加味分を評価する方法を考えてみたという報告。論文のタイトルは、 「航空の気候に対する影響のトレードオフは非CO₂緩和を支持している」¹。ネイチャー 2025-07-24号² に掲載されている。科学の営みでは、このように問題が細かく細かくなっていく。
¹ https://go.nature.com/3IVrdmF
² https://go.nature.com/44JS2Tl
³ https://go.nature.com/4fum559 (解説記事:PDF)
【0475】 サイエンスとオカルトのあいだ――「科学探査協会」(Society for Scientific Exploration)なる学会の存在を知る。学会誌として 〈ジャーナル・オブ・サイエンティフィック・エクスプロレーション〉 という雑誌² が刊行されている。オープンアクセスジャーナルであり、誰でも読めるもよう。➣論文タイトル中に、「電話によるテレパシー」、「三角形のUFO」、「予知的想像力」 などなど香ばしい文言が散見される。通常の科学誌――ネイチャーやらサイエンスやら(一般向けの)サイエンティフィック・アメリカンやら――ではまずお目にかかれないトーンのテクストの数々。➣書評ページで紹介されているのは、「勝五郎――その他の日本における輪廻転生事件」(「Katsugoro and Other Reincarnation Cases in Japan」)という本。〈勝五郎〉 とは、平田篤胤が江戸期にまとめた 「勝五郎再生記聞」 の題材となった人物。生まれ変わり伝説の当事者。思わず、『仙境異聞・勝五郎再生記聞』 平田篤胤(岩波文庫2000)³ を図書館へ予約依頼する。小説 『月の満ち欠け』 佐藤正午(岩波書店2019)⁴ を興味深く読んだ者としては気になる。
¹ https://www.scientificexploration.org/
² https://bit.ly/3UCFsPO (Journal of Scientific Exploration)
³ http://bit.ly/2GcC9Lm
⁴ http://bit.ly/2MguUT4
⁵ https://bit.ly/4ogfj6T (著者のサイト)
【0474】 ネイチャー 2025-07-31号の書評ページで紹介されている新刊本 「アーバン・ナチュラリスト――街を科学の遊び場にする方法」¹ が気になる。312頁。著者はオランダの進化生物学者。➣市民科学、オープンサイエンス、フィールドガイドまわりのニュアンスも込められているもよう。目次立てはここ² で読める。
¹ https://bit.ly/4lVELgD (The Urban Naturalist: How to Make the City Your Scientific Playground)
² https://bit.ly/4lbCEnM
【0473】 NHKニュース 「深海の無人探査機「うらしま」水深8000メートル到達に成功」¹ に遭遇する。まずはその深海ロボットとも言える 「うらしま」 の内部構造を知りたくなる。製造元・運用者の海洋研究開発機構(JAMSTEC)のサイトに、ざっくりした構造図² が掲載されていることを知る。➣海中で、障害物のない環境で動く遠隔操作型ロボットという趣き。➣もう少し詳細な構造図を見てみたい。引き続き探す。
¹ https://bit.ly/44UIGUX
² https://bit.ly/40DBaez
【0471】 ニュース記事 「言葉がわかるトドの「ハマ」、人まねもできた! 世界初確認 学術誌に論文 城崎マリンワールド」¹ に遭遇する。➣ある水族館³ で飼育されているメスのトド一頭を対象に、人が行動を見せて真似させることに成功したという話のもよう。記事だけでは、その知見の新しみ/眼目がよくわからなかったので――犬などで成功している 「人真似」 がトドでも成功したということ?――論文² を見つけて読んでみることにする。➣TVの生き物番組などでフィーチャーされるのを待つのもありかも。
¹ https://bit.ly/3GMZHXY
² https://bit.ly/45oYiA8 (Do as I do imitation in a steller sea lion Eumetopias jubatus)
³ https://bit.ly/4kZaCLU
【0470】 大麻(マリファナ)に関する論文に遭遇する。ネイチャー 2025-07-24号² に掲載されている。オヤと思ったのは、大麻の学名が 「Cannabis sativa」 であるということ。うしろの 〈sativa〉 と聞いて思い出すのは、イネの学名 「Oryza sativa」。同じ 〈sativa〉 が使われている。調べてみると、〈sativa〉 というのは 「栽培種」 を意味するもよう。他にもないかと調べてみると、変化形も含めていろいろある:ニンニク(Allium sativum)、エンドウ(Pisum sativum)、コリアンダー/パクチー(Coriandrum sativum)など。➣論文名=「野生モザイク大麻パンゲノム中の栽培化に起因するカンナビノイドシンターゼ」
¹ https://go.nature.com/4oacF2F
² https://go.nature.com/44JS2Tl
▶▶追記的週報 【2025年第29週/第30週】 https://bit.ly/464hGDr