追記的週報 【2025年第23週/第24週】
【0440】 『概念工事』 松岡正剛(工作舎1980)を図書館で借りてくる。367頁。地下書庫から何年ぶりかで地上に出てきたと想像する。造本が印象的――B5版のソフトカバー、紙の厚みも予想を超える、ページ面にたっぷりの余白。持ち歩くタイプの本ではない。➣「遊門鬼門」 という読書ノートの章から読みはじめる。雑読の疾走感にグッとくる。科学書への言及も多々。
【0439】 『ストア派哲学入門 成功者が魅了される思考術』(パンローリング株式会社2017)¹ を図書館から借りてきて少しずつ読みすすめる。448頁。➣購入して手元に置いておくべき本と判断する。原書タイトル=『The Daily Stoic: 366 Meditations on Wisdom, Perseverance, and the Art of Living』。原書のレイアウト/組版/造本などを知りたくなる。
【0438】 『戸外の日記』(早川書房1996)は何回読んでも発見がある――特に語り口に、視線に。新刊書店でもう入手できないのが残念(昔の本だから)。なので図書館から繰り返し借りてくることになる。➣文庫化されるなら、田畑書店の 〈ポケットスタンダード〉 シリーズの一冊などとして刊行してくれると嬉しい――文庫サイズでハードカバーの。➣著者アニー・エルノー(Annie Ernaux)による同系列の作品に、『外の生活』(2000)、『愛する人よ、あの輝きを見て』 (2014)という作品があることを、『逸脱のフランス文学史』(書肆侃侃房2024)という本で知り、それぞれ相当する原書は、『La Vie extérieure』(Gallimard 2000)と 『Regarde les lumières mon amour』(Raconter la vie 2014)であると推測する。➣前者には英訳も和訳も存在しないが、後者には、『Look at the Lights, My Love』² として英訳本が存在するもよう。イエール大学出版局から2023年に。96頁という薄さにもグッとくる。手にとってみたいが、近隣の図書館には所蔵がない。アマゾンではペーパーバック版が2,344円。
【0437】 「失敗学」 に関心がある。世の中のどこに目を向ければよいかを教えてくれる。その関心の一環として、ヒューマンエラーの構造も気になる。➣『ヒューマンエラー 〈第3版〉』 小松原明哲(丸善2019)¹ という本の存在を知る。160頁。〈実務入門書〉 と謳われている。薄い本であり、かつ版を重ねているという側面にグッとくる。
【0436】 『大ピンチずかん』 鈴木のりたけ(小学館2022)¹ という本が気になる。絵本。48頁。➣来たるべきサイエンスライティングのベクトルと平行しているような気がする。
【0435】 『微積分日記――減量、ギャンブル、ゾンビ回避に数学はいかに役立つか』¹ という本が気になる。336頁。数学嫌いだった著者が、改めて数学と向き合った1年を記した、という立ち位置に魅力を覚える。➣邦訳はなされていないもよう。
¹ https://bit.ly/45RBYzE (The Calculus Diaries: How Math Can Help You Lose Weight, Win in Vegas, and Survive a Zombie Apocalypse) 【追記】 著者ジェニファー・ウーレット(Jennifer Ouellette)にはしかし、以下の著作がある:
黒体と量子猫〈1〉(ハヤカワ文庫2007)
黒体と量子猫〈2〉(ハヤカワ文庫2007)
➣文体を確認すべく、図書館で借りてみることにする。
【0434】 なぜ科学をするか、といえば理由の一つは未来の展開を知りたい(予測したい)という目的にある。特に地球システムのような大きな系の近未来を知ることができたら、災害に備えたりできるのでありがたい。論文タイトル 「地球システムの基盤モデル」¹ に遭遇してそんなことを考える。➣人工知能の 〈モデル〉 を作ったという話。モデルに外から数値を入れて、どう展開するかをシミュレーションする、という使い方か。➣このモデルで何を予測するか?――気象、大気の質、台風の行方、などと書かれている。➣できたてのモデルだから不具合も当然でてくる(はず)――だからこそ、論文の全文が公開されている。つまり、このモデルをあなた自身も動かしてみて、あれこれ突っ込んでください、というメッセージが込められている。
【追記】 〈基盤モデル〉 という文言をタイトルに含む論文は最近よく見かける――背景には、人工知能技術の発展があるとみる。例えば、2025年上半期のネイチャー掲載分だけでも以下のとおり:
「小規模データを正確に予測する表形式基盤モデル」(2025-01-09号)
「グリオーマ浸潤を無標識で迅速に検出するための基盤モデル」(2025-01-09号)
「ヒトの広範な細胞タイプにわたる転写の基盤モデル」(2025-01-23号)
「ヒト細胞アトラス:細胞センサスから統合基盤モデルまで」(2025-01-30号)
「精密腫瘍学のための視覚–言語基盤モデル」(2025-02-20号)
「類似性のあるヒト細胞をスケーラブルに検索するための細胞アトラス基盤モデル」(2025-02-27号)
「神経活動の基盤モデルから新しい刺激タイプに対する反応を予測する」(2025-04-10号)
「分子細胞生物学におけるマルチモーダルな基盤モデルを目指して」(2025-04-17号)
【0433】 論文タイトル 「消費者向けスマートウォッチによる脈拍喪失の自動検出」¹ に遭遇する。➣〈消費者向けスマートウォッチ〉 とは具体的にどの会社の製品なのか気になる。さいわい、論文は 「オープンアクセス」 タイプの論文なので、全文を誰でも読むことができる。すると、あっさり、〈Pixel Watch family of devices〉 という文言が 「方法」 の部分に見つかる――グーグル社のスマートウォッチ。というか、論文の第一著者が、グーグル・リサーチなる同社の研究所に所属する人だったりする。➣スマートウォッチは人々が普段から身につけているわけで、センサーとして使えるというわけ。なんだったら、異常を察知したら自動で電話をかけ、救急車を要請するところまでつなげることができる。 #素人が科学誌をよむ 【0432】 その元素は新しいのか?――論文タイトル 「全球の河川系によって陸域から大気へ送られる古い炭素」¹ に遭遇する。➣〈古い炭素〉 という表現に立ち止まる。元素に古いも新しいもあるのか? という素朴な疑問が浮かぶ。仮に、古い炭素が川から陸へ移動するとして、そして陸において地表面から地下に染み込むとしたら、古生物学とか考古学とかで使われる手法 「元素同位体年代測定」(まさに¹⁴Cを使うことが多い)におけるノイズを高めるように作用するのではないか? などということを素人的に考える。 #素人が科学誌をよむ 【0431】 オーラル・ヒストリーとDNA――論文タイトル 「ピキュリス・プエブロ部族の口述史とゲノミクスから明らかになった米国南西部の遺伝的連続性」¹ に遭遇する。アメリカ先住民(アメリカインディアン)の複数の部族の関係性をDNAの配列レベルで裏づけるという話っぽい。口述史(オーラル・ヒストリー)うんぬんは実のところそれほど重要ではないような気がする(論文要旨を読むと感じられる)――PC(political correctness)を意識したタイトルのようにみえる。➣否、とりあえずそういうことはどうでもよくて、むしろ、口伝えでどのような内容が先祖代々伝えられてきたのかのほうに興味がある。メッセージを伝えようとする側の視点に立てば、どんな内容を部族の後の世代に伝えるべきと考えたのか、そちらのほうが大いに気になる――もはや科学の範疇〔はんちゅう〕からは外れるけれど。何かの本にまとめられていないものか。論文の末尾に添えられている参考文献のリストをちくちくと見ていく。 #素人が科学誌をよむ 【0430】 古生物学の論文ではふつう、化石を分析して何らかの仮説を提示するというスタイルがとられるのだけれど、「動物の身体」 の化石ではなく、「動物の足跡」が検討されているのが、ネイチャー掲載論文 「羊膜類の最初期の生痕化石によって再較正された四肢動物の進化の時系列」¹――足跡の化石は専門用語で、「生痕(せいこん)化石」ということを知る。➣論文の主張は、「ある動物の一群では進化の開始時期がこれまでの予想より早かった」 あたりにあるようなのだけれど、それは今どうでもよくて、むしろ注目するのは、解説記事² に書かれている、地球の地質時代のある区分においては 「生物の進化が急速に進んだ可能性がある」、という記述。そうなのだ、時代を超えて、進化の速度(つまり新種の出現)は一定のように思いがちだけど、そんなことは、よく考えてみればまったくないわけで、地球環境との兼ね合いで進化の速度は上下する――だから例えば、「カンブリア爆発」 みたいな事象も起こってもおかしくない。➣➣どんな地球環境が進化速度を加速させるか? ということをあれこれ考えてみることにする。 #素人が科学誌をよむ 【追記】 古生物学というのは、大昔のかすかな証拠を元にものを言っていく研究なので、上記の解説記事でも、推測のニュアンスをはらむ単語があちこちに見られる:例えば、could/might/would などの法助動詞はもちろん、suggest/indicate/speculate/seems to/thought to/imply などの動詞、あと、likely/implications/ideas/Presumably などなどわんさか登場する。いかにあやふやな(=確度の高くない)仮説がそこで述べられていることか。逆にいえば、素人でも自由に考えをめぐらせることができそうかもと思わせてくれる楽しいジャンルかも。
➣【引用】 研究者は自分の考え方が正しいと信じているから、他の考え方もありうるといったことは多くの場合言わないし、研究者が正しいと思ったことで、後になって誤りであったということもありうる。▶『「わかる」 とは何か』 長尾真(岩波新書2001)p013
【0429】 ◉漢字かな混じり文の硬筆の書き方について書家の人はどのように考えているのか知りたくなる。◉『指差すことができない』 大崎清夏(青土社2014)⁴ という本が気になる。詩集。93頁。科学っぽい雰囲気をまとっていると聞きつけて。◉『平等とは何か 運、格差、能力主義を問いなおす』 田中将人(中公新書2025)³ を入手。248頁。後ろの章から前の章へと読んでいくことにする。◉最近図書館から借りてきた本:①『戸外の日記』 アニー・エルノー(早川書房1996)、②『ご冗談でしょう、ファインマンさん 〈下〉』 R.P. ファインマン(岩波現代文庫2025)、③『人はなぜ物を愛するのか 「お気に入り」を生み出す心の仕組み』 アーロン・アフーヴィア(白揚社2024)、④『読書のとびら』 岩波文庫編集部=編(岩波文庫2011)の4冊。◉『三文役者あなあきい伝』 殿山泰司(講談社1974)を読みはじめる。257頁。文体のグルーヴ感にグッとくる。◉アーカイブをダウンロードした科学誌 サイエンティフィック・アメリカン――その1969年6月号² の書評ページ(p142)には発刊後まもない雑誌 『ホール・アース・カタログ』 についての紹介文が(意外と軽快な文体で)記載されている。◉書名に惹かれて図書館から借り出してきた書物の現物を実際に手に取り、数ページを読んで(というか眺めて)今の自分が読むのはまだ早いかなと見切り、目次だけをコピーして返却するという一連のサイクルは実は気に入っている。無駄骨と思わない。◉サイエンティフィック・アメリカンの特別編集号(SA SPECIAL EDITION) 「量子の世界へ」(Into the Quantum Realm)¹ の目次が公開された。116頁。今年2冊目の特別号。 #ZAP 【0428】 病気の治療法を検討する臨床試験に関する論文/記事で必ず登場するワードが、「safety」 と 「effectiveness」 の2つ――それぞれ日本語で 「安全性」 と 「有効性」 と訳される。というか、そもそもこの2つの項目を検討するのが臨床試験という試みの目的。➣では、優れた 「安全性/有効性」 を得るための条件は何か、といえば、十分な数の被験者だったりする。じゃあ、ネイチャー 2025-05-22号¹ に掲載されている2本の論文――①「パーキンソン病に対するiPS細胞由来ドーパミン神経細胞の第I/II相試験」¹ と②「パーキンソン病を対象としたhES細胞由来ドーパミン作動性ニューロンの第I相試験」³ では何人の被験者(患者)が参加しているかというと、①では7人、②では12人が参加している。 #素人が科学誌をよむ 【0427】 NHKニュース 「北海道 震度4相次ぐ 日頃から備え進めるよう呼びかけ 気象庁」¹ に遭遇する。➣こういうニュースを聞いてまず頭に浮かぶのは、動物の動きに何か変化がみられているか? ということ。とくに北海道にはたくさんの野生生物が生息する(家畜も)。観察している人の目も少なくないはず。➣サイエンティフィック・アメリカン 2010年7月のウェブ記事に 「動物が地震を予知していることをセンサーが示唆」² という記事がある。
【0426】 『修理する権利 使いつづける自由へ』 アーロン・パーザナウスキー(青土社2025)¹ を読みはじめる。474頁。➣原書=『The Right to Repair: Reclaiming the Things We Own』( Cambridge University Press 2022)²。➣エピローグと解説をざっと読んだあと、第2章 「なぜ修理は重要なのか」 から読みすすめる。街なかの独立系の修理ショップを見る目が変わる予感がする。