追記的週報 【2025年第22週】
【0425】 庭に野鳥を寄せるための餌入れが、「バードフィーダー」 と呼ばれるもの。「バードフィーダーがカリフォルニアのハチドリを劇的に進化させた」¹ というタイトルの記事に遭遇する。サイエンスの2025-05-29号に掲載されている。➣ハチドリは花の蜜をエサとする。蜜液を提供するハチドリ用バードフィーダーの使用が戦後に盛んになってから、地域のハチドリのくちばしのサイズと形が変わってきたと主張する論文に関する記事。➣具体的なロジックを追ってみると:①(自然界の花とは異なる構造をした)人工的な餌入れを人間が設置する→➁そこに行けば必ず餌が得られるので鳥が寄ってくる→③餌入れの形にフィットしたサイズ&形のくちばしを持つ個体群はエサの獲得に有利である→④数世代を経て、特徴的なサイズ&形のくちばしを持つ一族が残る(適応できなかった一族は結果的に存在感が低下する)。➣くちばしの変化をもって 「進化」 と言っている――論文の書き手も記事の書き手も。ずいぶん短い期間(第二次大戦後から現在まで)における形質変化を 「進化」 と言えるのかという軽い驚きがある。➣ならば、著者のいう適応の前後でどのような変化がハチドリの遺伝子レベルで生じていたか? という疑問が次に来る。 #素人が科学誌をよむ 【0424】 NHKニュース 「パリ サッカー欧州CL優勝で 一部ファン車に火つけるなど暴徒化」¹ に遭遇する。➣「勝った」 チームの地元で暴徒化が起きたという話(試合そのものは別の国で開催)。フーリガニズムという現象? 同じ大会の準決勝でも暴徒化が起きていて、決勝でも警察は暴徒化を抑えられなかったという構図。➣暴動を鎮める科学的アプローチに関する記事はないかとサイエンティフィック・アメリカンのアーカイブを検索してみると、「群衆の狂気を抑える」² という短報が2009-03号に掲載されている。以前から問題になっていたことがうかがえる。➣次は、暴徒化するときの集団心理(の変化)について科学面から書かれた報告を読んでみたいと考える。
【0423】 「ヒューマノイド」 や 「アンドロイド」 といった用語に並んで、「オルガノイド」 という言葉がある――言い換えてみれば、「臓器モドキ」。➣iPS細胞の技術を利用して、臓器を形成する細胞を人工的に作って(というか、誘導して)、臓器そのものを作りたいという欲望が研究の背後にある(移植に使える)。けれども未だ手法が完全なものではないので、出来あがったものは、「オルガン(臓器)」 とは言えず、臓器に似て非なるものということで、「オルガノイド(臓器のようなもの)」 と呼称することになる。➣本来の臓器と構造・機能が変わらないものを作りたいという方向のさらに向こうに、本来の臓器を上回る機能を備えた 〈スーパー臓器〉 を作りたいという欲望も出てくるのではないか? と、論文タイトル 「ヒト多能性幹細胞から創出した複数ゾーンを備えた肝オルガノイド」¹ を眺めて考える。ネイチャー 2025-05-29号² に掲載されている。 #素人が科学誌をよむ 【0422】 ◉『Ways of Being 人間以外の知性』(早川書房2024)では、原文では 「care」 とされている語に一貫して 「気づかい」 という訳語が当てられている。◉サイエンティフィック・アメリカンの定期購読を$99/年のコースで改めて開始。定期購読のコースはここ¹ に書いてある。 #zap 【0421】 博物館には古今東西の標本が収められている。そして標本を調べるための方法は時代を経て発展していく。例えば①顕微鏡の解像度が上がると、それまで観察できなかった部位がはっきりしたりする。例えば➁大昔の動物の体からDNAを回収してゲノムの塩基配列を決定することができたりする――塩基配列を他の動物と比較することで進化の道筋を推定できたりする。➣こうした研究の動向は、最近刊行された本――『タイムカプセルの開き方 博物館標本が紬ぐ生物多様性の過去・現在・未来』(文一総合出版2024)³ に書かれているとにらむ。➣そんなことを考えつつ、論文タイトル 「始祖鳥のシカゴ標本から得られた鳥類ボディープランの初期進化に関する情報」¹ を眺める。ネイチャー 2025-05-29号² に掲載されている。➣〈シカゴ標本〉とは、米国シカゴのフィールド自然史博物館に存在する標本を意味するもよう。一億年以上も前の始祖鳥の化石をどう調べるのか?――ここではCT撮影による分析を行っているもよう。まずは始祖鳥の体の各部位を細かく見ていこうということ――CT撮影なら石に埋まった部分も解像できるというロジック。
【0420】 NHKニュース 「”日本人の旅行は伸び悩み 対策を” 「観光白書」公表」¹ に遭遇する。➣素朴な疑問:旅行しなくなったら何が問題なのか?――ということが記事には書かれていない。〈対策〉 を訴える、ということは、旅行人数を増やしたいということだろう。大元の 「観光白書」 には、「(日本人による国内)旅行の効用」 はどのように記述されているのか気になる。観光白書はここ² で読める。
【0419】 天文学という学問の面白いところは、光の速度が効いてくること。例えば、月で誰かが懐中電灯を(レーザー光でもいいけれど)光らせたとき、その光が地球上に届くまでには約1.3秒かかる[距離÷速度=時間 の公式にあてはめる:384,400 km(月・地球間の距離)÷約30万 km/秒(光の速度)=約1.28秒]。言い換えれば、地球から月を見るとき、それは約1.3秒 「前」 の月の姿を見ていることになる。月は地球に近い天体なわけで、遠くの星については何万年前、何億年前の光が今ごろようやく地球に届いていることになる。➣だから、精度の高い望遠鏡を使えればそれだけ遠くの星を眺めることができる=いっそう昔の宇宙像を調べられる、ということになる――歴史をさかのぼることができる。➣そんなことを考えつつ、論文タイトル 「初期宇宙における成熟した銀河の棒状構造によって駆動される大規模なガス流入」¹ に目がとまる。ネイチャー 2025-05-22号² に掲載されている。➣タイトル中の 〈初期宇宙〉 というのは具体的には、「ビッグバンから26億年後」 というあたりに相当するもよう――26億年後でも初期なのだ(現在は138億年後)。➣解説記事³ あり。 #素人が科学誌をよむ 【0418】 『スロー・ルッキング よく見るためのレッスン』 シャリー・ティシュマン(東京大学出版会2025)¹ という本が気になる。240頁。➣原書=『Slow Looking: The Art and Practice of Learning Through Observation』(Routledge 2017)²。特に、第7章 「科学のなかの 「見る」」 が気になる。