追記的週報 【2025年第14週】
【0354】 論文 「カメ類における磁気地図の手掛かりの学習と磁気受容の2つの機構」 に遭遇する。ネイチャー 2025-02-27号² に掲載されている。➣ウミガメは、成長後に、自分が生まれた浜に戻ってくる。その際に、地球の磁場を利用しているのではないかということはかねてから言われている。ほかにも、渡り鳥も磁場を利用している可能性が指摘されている。種をまたいで磁場を利用する動物が存在するということは、進化の過程で磁気感知能力が保存されてきたのではないかと考えたくなる。果たして、磁気感知能力は、進化の階梯のどのあたりまでさかのぼることができるのだろう。たとえば、爬虫類や鳥類よりもはるかに原始的な細菌のなかに、磁気に反応できる種は存在したりするのだろうか。➣と、ここまで考えきて、いやしかし、磁気感知能力を個体の一生のおりおりに利用していなければ、つまり環境中で生存していくうえで利用しなければ生き残れない状況でないと、その能力には選択圧がかからないことになって、失われていくかもしれないなと考える。➣生物と磁気に関する総説や一般書(ブルーバックスとか?)ないものか探してみたい。 #素人が科学誌をよむ 【0353】 東京都写真美術館で展覧会 「ロバート・キャパ 戦争」¹ が開催されているもよう。写真展では、困ったときのキャパか(ロバート・)フランクか、という印象がある。➣ある程度の集客が見込める安全牌的企画を担当する(実際に現場を回す)学芸員/キュレーターとはどういう人なのかのほうにむしろ興味がわく。新人さんとか?
【0352】 内省のここちよさ――『メランコリーで生きてみる』 アラン・ド・ボトン(フィルムアート社2024)¹ を入手して読みはじめる。この著者の本(邦訳書)は好んで読んでいる。どこが魅力的なのかと改めて考えてみる。この本について言えば、「仮説の魅力」 あたりがその理由の一部かもしれないと思い至る。➣ある命題を――日常系の命題を――ポンと置いて、その命題に対する、やや逆張り的/オルタナティブな態度・姿勢を、仮定文のかたちで提示してくる。複数の仮説文の置かれ型にもリズムがあって心地よさを感じることに今気づく。➣おそらく、原書² にあたれば、仮定法の文につきものの法助動詞 would/should/could などが1ページ内にいくつも見つかるのではないかと推測する。
【0351】 大事なものは保存される=保存されているものは大事なものである。論文タイトル 「保存されたHIV-1スペーサーペプチド2がマトリックス格子の成熟を開始させる」¹ に遭遇する。ネイチャー 2025-04-03号² に掲載されている。➣タイトル冒頭の、〈保存された〉 という形容詞の意味について考える。どこに保存されているのか?――ウイルスゲノム上に。具体的には、注目するペプチドをコードする遺伝情報が、機能性ウイルスのゲノム上に書き込まれていることを指して、「保存された」 と言っている。➣つまり、保存されていなければ(=ゲノム上から遺伝情報が落ちてしまえば、例えば、ウイルス粒子の複製時に)、ウイルス粒子として機能できなくなってしまう、ということ。このロジックを逆転させると、ウイルスゲノム上に保存されている遺伝情報は何らかの重要な役割を担っている可能性が高いということ。➣結論:保存されているものは大事なものなのである。 #素人が科学誌をよむ 【0350】 毎週金曜日は科学誌 『サイエンス』 の目次が公開される日。この雑誌の出版元は、アメリカ科学振興協会(AAAS)という何やらいかめしそうな団体であったりする。政府との結びつきはよくわからないけれど、英国の科学誌であるネイチャーに比べると、現政権への直接的な批判めいた記事はまず見かけない。➣一方で、同じ米国の一般向け科学誌である 『サイエンティフィック・アメリカン』 は実のところネイチャーのグループの一員なので、政府批判はあからさまであったりする。大統領選挙前の2024-11号 には、(結局は敗退することになった)候補者に投票しようと読者に強く勧める記事¹ が編集者チーム名義で書かれていて、少々驚かされた記憶がある。 #素人が科学誌をよむ 【0349】 論文タイトル 「学習は海馬に直交する状態機械を作り出す」¹ に遭遇する。ネイチャー 2025-04-03号² に掲載されている。➣〈機械〉 を作る、とはどういうことを意味するのだろう。〈海馬〉 という文言が出てくることから、脳の話のはず。➣〈学習〉 によって、脳内に 「特定の構造体(これが 〈機械〉 を指す?)」 が再現性よく現れる、ということだろうか。だったら大いに興味が引かれる。要旨中にも 「状態機械」 という言葉が出てくる。「機械」 という比喩を使っているということから、再現性とかパターンとかロバストネスといったニュアンスが浮かんでくる。ベンキョーする必要があるな。 #素人が科学誌をよむ 【0348】 論文タイトル 「150万年前の体系的な骨角器製作」¹ に遭遇する。ネイチャー 2025-04-03号² に掲載されている。考古学ものの論文。➣これはもう、〈体系的な〉 という形容詞に注目するしかない――150万年前もの大昔の、ヒトの祖先が、道具を体系的/システマティックに作っていた(かも)ということは何を意味するか? 例えば、材料の選び方とか、作製法のプロセス分けとか、さらには分業の可能性とか、当時のヒト(原人?)は認知機能に優れていて、手先が器用であったのかも、とかいろいろ想像できる。➣解説記事³ がある。実のところ、何をもって 〈体系的〉 と見立てるのか、その判断基準には大いに興味がある。そのあたりの記述があるか。 #素人が科学誌をよむ 【0347】 論文タイトル 「精密腫瘍学のための視覚–言語基盤モデル」¹ に遭遇する。ネイチャー 2025-02-20号² に掲載されている。➣〈腫瘍〉 つまり、がんの研究とか臨床応用の話だと推測されると思われるけれど、〈視覚–言語〉 というペアの意味するところがまずはわからない。➣要旨を読むと何のことはない。〈視覚〉 は 「病理画像」 に、そして 〈言語〉 は 「臨床報告書」 に対応するもののもよう。ということは、ある腫瘍の写真と、同じ腫瘍の文書のペアを大量に集めて、共起するパターンを元にしたモデルをあらかじめ作っておき、実際のがんの診断においては、写真か文書の一方があれば、モデルに照らしあわせることで、注目しているがんの正体が迅速に推測できて便利では? という発想が背後にあるとみる。さらにその背後には、がんは似たようなパターンで生じるものだという大前提があることに気づく。 #素人が科学誌をよむ 【0345】 サイエンティフィック・アメリカン 2025-04号¹ の冊子版が手元に届く。➣「ある複雑な診断」(A Complex Diagnosis)² と題する、人生の長い期間にわたって、おりおりに現れやめられない行動――神経疾患――の正体を探求する、当事者による報告(最終的にはCMSなる疾患であると判明する)に目が止まる。➣サイエンティフィック・アメリカンにはこういう、「当事者もの」 の科学記事が毎号少なくとも一編は掲載されるような気がする。日本の科学誌ではあまり見かけないタイプの記事。科学の徒ではない書き手が、(専門家の支援・助言を受けて?)「科学的に考える」 態度をのぞき見するようで興味深い。 #素人が科学誌をよむ * CMSは正式には、「Complex Motor Stereotypies」 という名称(日本語では未だ定訳なし?)。記事タイトル中の 〈Complex〉 という形容詞は、この疾患名にかけているのだと思われる。
【0344】 論文タイトル 「腫瘍全体のRNAスプライシング異常は治療標的となり得る共通ネオアンチゲンを生じる」¹ に遭遇する。ネイチャー 2025-03-13号² に掲載されている。➣どこにグッと来るかというと、〈異常〉 が 〈標的となり得る〉 という部分。ふつう、異常はよくないことと認識されるけれど、この場合は、よくないことが起きる場は、腫瘍細胞という状況である。正常細胞では同じことは起きない(ここがポイント)。腫瘍細胞「でのみ」異常を来している側面があるのなら、まさにそこを狙い撃ち、つまり 「標的化」 することで、異常を抱えた腫瘍細胞もろとも破壊へ導くというロジックが成立する。 #素人が科学誌をよむ 【0343】 ◉サイエンティフィック・アメリカンのバックナンバーをダウンロードしていて気づいたこと:この雑誌は創刊から1921(大正10)年10月までは週刊誌であった。◉まったく新しい文体で書かれているサイエンス・ライティングを引き続き探すこと。たとえば英語圏での事例。◉失敗学やヒューマンエラーに関する本を読めば、”ストリート・スマート” になるための(少年たちへの声がけの)ヒントを得ることができると考える。 #zap 【0342】 論文タイトル 「「2つの目で見る」ことや他の先住民族的な視点を神経科学に」¹ に遭遇する。ネイチャー 2025-02-06号² に掲載されている。➣一見して風変わりなタイトル――〈先住民〉 と 〈神経科学〉? 論文要旨をざっと眺めると、ヒトの脳と心の理解を深めるための新たなアプローチに、ある先住民族の思考法を応用すればいいのではないか? という提案のもよう――ちょっとよくわからない。そもそもなぜその民族の考え方に注目したのか?――その思考法が過去に、部族社会内の懸案をバッタバッタと解決するに至った記録でもあるのか、などと想像してしまう――仮にそうであっても構わない。でも、だからといって、科学の(しかも神経科学の)研究手法に応用できるというロジックがよくわからない。神経科学に限定なのか? 天文学や社会学への応用ではダメなのか?➣この論文は、残念なことに要旨しか読めない――「新しい科学の思考法」 を喧伝するなら、本文も全文公開してほしいところ。というわけで、その先住民族の視点――「エトゥアプトゥマンク(Etuaptmumk)」の内容について別立てで調べることにしたい。 #素人が科学誌をよむ