書籍_ジャック・ウェルチ 「20世紀最高の経営者」の虚栄_デイヴィッド・ゲレス
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苛烈なハラスメント、容赦ない大量解雇、短期的利益の重視……世界経済を停滞させた元凶は「ウェルチズム」だった?「20世紀最高の経営者」の虚飾を剥ぎ取る傑作評伝!
自分が社会人をスタートさせた頃、ジャック・ウェルチは最強の経営者として、日本のメディアでも無茶苦茶に信奉されていた。
しかし、それを今、巨視的な観点で振り返る本。執筆はNYTのジャーナリスト。
ウェルチに対する個人攻撃がやや過ぎるような気もした(&後出しジャンケンでの批判という気もしないでもない)けれども、2020年代の今の状況につながるアメリカの現代経済史を俯瞰する上でもよい一冊だと思った。特に米国大企業が70年代まで育んできた中産階級がいかにして崩壊したか、のドキュメントとして素晴らしい。
GEは、ウェルチ以前は、ジェネラス(寛大)・エレクトリックというほど牧歌的な製造業だった。前任の社長もノーブルな貴族だった
GEが改革に追い込まれた一因は、当時最強だった日本の製造業。
フリードマンが思想的源流。実体の前に思想があった。これが、意外に早く具現化された
ウェルチズム=ダウンサイジング・事業売買・金融化と著者は定義する。これが、超大企業を中心に全米に伝播していき、中産階級を崩壊させた
特徴として「人員削減」の正当化がある。従来、モラル的に良くないとされていたことを、株主のためと正当化するロジックが立ち上がった。
「人員削減」はコストカットのため
ウェルチズム経営をガンガンやると、中長期的な種まき(R&D)ができなくなり、のちに会社は痛む
さらには、利益が伸びているように見せる、会計操作や金融化も起こる
日本では東芝事件もあったな、と思い出させる
社員を20:70:10に分類。下位10%はやめてもらう、自称「バイタリティカーブ」を導入。しかし、社員からは「スタックランキング」「ランク・アンド・ヤンク」と見抜かれていた。リストラは悪いことではなく「神のみわざ」というロジック転換を導入。
スピーチライターの術懐「彼の自尊心と承認欲求は、解雇された社員からも ”新たなチャンスをくれてありがとう”と感謝されていると思いたがっていた」
「経営者は好かれなくてもいい、尊敬されろ」という信念もウェルチズムの一部。「有害な男性性」に満ちており、セクハラ・パワハラも横行していた。
利益が、配当と自社株買いに費やさせることも正当化され、労働者へ還元がなくなった
ちなみに、日本企業も最近これが強まっているが、これまで「雇用維持」にはかなり尽力してきていた。このことはポジティブに評価されていいのではないかと思った
GEは凋落がほぼ定まったが、このウェルチズム・企業による寡占主義は、2020年代も健在で、テック企業の台頭もこれに拍車をかけている感じで、一種の社会不安を引き起こしているようにも思われた。2024年の選挙後のタイミングに読んだことも良かった
ウェルチは共和党支持で、トランプとも接点が深く、お互いに助け合っていたらしい。 80年代に停滞していた米国企業を再生するため、ウェルチ的手法には若干の功もあったのではないかと思わないでもないが、それでも給料や福利厚生を貰いすぎで、後任のイメルトは、プライベートジェットにおまけの随伴機まで使っていたという振り切れぶり。ウェルチも退任後も同じ給料をもらっていたとか。この二人に限らず、向こうのCEO達のこの徹底した傲慢ぶりは、日本的感覚からするとちょっと理解に苦しむ。
本書に記載は無かったが、これで思い出したのがカルロス・ゴーン氏。彼もウェルチズムの実践者だったのかもしれない。ビジネスにおいても、倫理においても、望んだ報酬においても。
小ネタとしては、著名な人材育成研修所、クロトンビルの話があった。本社から1時間でいけるようにヘリポートの設置を要求。地元が条例を盾に反対しても、脅迫して強行設置、というのがあった。
ゴリ押しが過ぎる・・・。
クロトンビルも「名門」として持て囃されていたが、今から思うと一体なんだったのだろうか・・・。
企業寡頭制ともいうべき、2000年代以降のアメリカの今の源流を理解する一冊
2024/11/16