競争ドメインの変化とビジネスシステムの変化>経営と知財(18) September 27, 2005
「ゼミナール経営学入門」(伊丹敬之・加護野忠男・日本経済新聞社)によれば、『いったんビジネスシステムで圧倒的な優位を築き上げた企業が、そのビジネスシステムを変えるのは難しい。その理由として
(1)既存のビジネスシステムの中での仕事の仕方しか見えなくなるから・・新しいビジネスシステムのアイデアが生まれない。
(2)既存システムの既得権益を守ろうとするため、システムを変化させまいとする。
(3)既存システムの優位性がもたらした成功ゆえに、その心地よさが企業家精神を弱める。』
としている。
これらの観点、全くその通りである。
この点を読んで思うことは、ドメインの変化に対応し、自らビジネスシステムを変えていける柔軟性が要求されているのだ、という思いである。
ビジネスシステムを構築する際に、大まかに分けて、2つのタイプがあるように思える。一つめは、「理想のシステム」を設計し、その実現に向けてまっしぐらというタイプ。もう一つは、とりあえず与えられた材料を使って、「最適なシステム」を構築しようとするタイプ、である。
一見、前者が優れているかのように見える。実際、そのシステムが構築され、実現したときの優位性は抜群であろう。しかし、これは実現しにくいし、例え実現したとしても、競争ドメインの変化に上手く対応しにくい。
その理由は、理想モデルに合致する材料・人材を完璧に集めることは不可能に近いからである。経営者は、理想モデルに合致する人材を求め、常に欲求不満に終わるであろう。
その点、後者の方が変化に対応しやすい。元来、理想ではなく、与えられた材料・人材でできる限りのことをするというモデルだからだ。与えられた材料・人材の価値を認め、それらを活かすことで、理想には欠けるかもしれないが、可能なかぎり、ひいては、経営者が思ってもみなかった価値の領域での成功を見込める。
競争ドメインの変化にも、その場その場に応じた、変化を与えられた中で企てることができる。ただ、「与えられた材料・人材の価値を認め、それらを活かす」ということは必ずしも容易なことではない。経営者が自らの「価値観」よりも、他人の価値観を優先しなければならない場面があるからである。そのためには人間としての度量が問われる。
よって、後者の手法をとれる人は少ない。