烏龍茶事件
平成20年12月26日東京地裁
平成19年(ワ)第11899号
不正競争行為差止請求事件
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争点
(1) 原告が原告商品に付した表示(以下「原告商品表示」という。)の周知性 又は著名性の有無 (不正競争防止法2条1項1号ないし2号)
(2) 原告商品表示と被告ら各商品表示との類似性の有無
(3) 被告ら各商品が原告商品と混同を生じさせるものといえるか
(4) 被告が,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は,被告ら商品Bの品質及び内容を誤認させるような表示をしているか(不競法2条1項14号・・・現21号に変更されている)なお、旧13号(現14号)も予備的に請求。
(5) 被告が,虚偽事実告知又は品質等誤認表示について 故意又は過失を有していたか
(6) 被告が,本件各登録商標を商標として使用しているか(商標法25条36条,26条)
(7) 別紙原告商品表示目録の写真に示されているパッケージデザイン(以下 「本件デザイン」という。)の著作物性の有無 (著作権法2条)
(8) 損害発生の有無及びその額・・・(省略する)
(9) 信用回復措置の要否・・・(損害額や認定事実から不要と判断した)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
不正競争防止法2条1項2号
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
不正競争防止法2条1項14号
競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
(現行法では、15号)
商標法
(商標権の効力) 第二十五条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
(商標権の効力が及ばない範囲) 第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。・・・・略・・・・
(差止請求権) 第三十六条 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。 2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
著作権法2条・10条
(定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
2 この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。
(著作物の例示) 第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物
裁判所の判断
争点(1)の周知性
周知性はあり
(販売状況・広告状況・受賞歴等)「このような状況に照らせば,原告商品表示は,現時点においてはもちろん, 被告ら商品Aの販売が開始された平成18年7月下旬ころ(上記前提となる 事実(4)ア)の時点においても,原告商品を表すものとして全国の消費者に広く認識され,相当程度強い識別力を獲得していたといえ,周知性を有していたものと認めることができる。 ・・・上記(1)の認定事実のとおり,原告が, 原告商品発売時である同年5月から同年7月までの間に,相当集中的な販売及び宣伝活動を行っていることに照らせば,その期間が2か月間であっても,周知性を獲得したと認めるのが相当」
裁判所の判断
争点(1)の著名性
著名性はなし
「ある商品の表示が取引者又は需要者の間に浸透し,混同の要件(不正競争防止法2条1項1号)を充足することなくして法的保護を受け得る,著名の程度に到達するためには,特段の事情が存する場合を除き, 一定程度の時間の経過を要すると解すべきである。そして,原告商品につい ては,上記の平成18年7月下旬の時点において,いまだ発売後2か月半程度しか経過しておらず,かつ,原告商品表示がそのような短期間で著名性を獲得し得る特段の事情を認めるに足りる証拠もないのであるから,原告商品表示は,同時点において,著名性を有していたものと認めることはできない。 」
裁判所の判断
類似性の判断基準
類似性の判断基準1
「取引の実情の下において,需要者又は取引者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準とし,需要者又は取引者が,時と所を異にして両者を観察した場合にど のように認識するかという観察方法(離隔的観察)によって,判断されるべき」
裁判所の判断
類似性の判断基準
類似性の判断基準2
「複数の商品表示における類似性を判断するに当たっては,それらの表示に含まれる各部分を総合考慮し,共通点から生じる印象の強さと相違点から生じる印象の強さを比較衡量して,需要者又は取引者において両表示が類似するものと受け取られるおそれがあるか否かを検討すべきであり,前提において特定の部分を除外して判断すべきものではない。」
裁判所の判断
(2)類似性の有無と混同の有無
被告商品表示Aについては、,離隔的観察の下では,原告商品表示の外観と被告ら商品表示Aの外観とは,極めて類似し、称呼については, 全体として相当程度の類似性を認めることができるとし、観念も,「黒色のウー ロン茶」及び「ポリフェノールが含有されたウーロン茶」という共通する観念が生じるとし、全体的,離隔的に対比して観察した場合には,その共通点から生じる印象の強さが相違点から生じる印象の強さを上回るとした上で、さらに、実際に混同を生じたことも挙げ、「原告商品表示と被告ら商品表示Aとの間においては,不正競争防止法2条1項1号の類似性が認められる。」とした。また、混同も認めた。
裁判所の判断
(2)類似性の有無と混同の有無
被告商品表示Bについては、「原告表示と被告ら商品表示Bは,全体的, 離隔的な観察の下で,それらの相違点から生じる印象が非常に強いとい わざるを得ず,観念において一部共通する点があることを考慮しても, 需要者又は取引者において両表示が類似するものと受け取るおそれを認めることはできない。」とした。
裁判所の判断
争点4)虚偽事実告知の有無
不正競争防止法上2条1項14号(現15号)にいう「他人の営業上の信用を害する 虚偽の事実」とは,他人の社会的評価,すなわち,一般需要者の視点から 見た評価を低下させ,又は低下させるおそれがあるような事実であり,か つ,それを告知又は流布する者の主観的認識とは関係なく,客観的真実に 反する事実をいうものと解すべきである。」とし、
「・・・両者の単位量当たりのウーロン茶重合ポリフ ェノール含有量を比較すると,原告商品の方が多く,よって,その濃度は 原告商品の方が濃いといえる。 そうすると,上記のように解釈される本件比較広告1及び本件比較広告 2は,いずれも,客観的真実に反する虚偽の事実であり,かつ,一般需要者に対して原告商品の品質が被告ら商品Bに劣るとの印象を与え,原告の 社会的評価を低下させるおそれのある事実であると認められる。」として、虚偽事実告知であるとした。
裁判所の判断
争点5)虚偽事実告知についての故意過失
さらに、「比較広告を掲載する者は,比較広告を掲載するに当たり,内容が虚偽の事実に基づかないようにその真実性を十分調査すべき義務があることは当然」とした上で、「注意義務に反して,上記4のとおり,不正競争防止法 2条1項14号に該当する本件各比較広告を掲載したのであるから,少なくとも,被告・・・は,同号違反についての過失を有する」とした。
裁判所の判断
争点6)商標の使用
,被告は,本件各比較広告において,被告ら商品Bの含有成分の量と原告商品のそれとを比較し,前者の方が優れていることを示すことで,被告ら商品Bの宣伝を行うために,原告商品に付された本件各登録商標を使用したものと認められ,これに接した一般需要者も,そのように認識するのが通常であるといえる。
したがって,被告による本件各登録商標の使用は, 比較の対象である原告商品を示し,その宣伝内容を説明するための記述的表示であって,自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたものではないと いうべきであり,商標として使用されたものとは認められない。
裁判所の判断
争点7)本件デザインの著作物性
著作権法2条1項1号は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と 規定し,さらに,同条2項は,「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする。」と規定している。
これらの規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により著作物として保護されるのは,純粋な美術の領域に属するものや美術工芸品であって,実用に供され,あるいは,産業上利用されることが予定 されている図案やひな型など,いわゆる応用美術の領域に属するものは, 鑑賞の対象として絵画,彫刻等の純粋美術と同視し得る場合を除いて,こ れに含まれないことを示していると解される。 本件デザイン は,当初から,原告商品のペットボトル容器のパッケージデザインとして, 同商品のコンセプトを示し,特定保健用食品の許可を受けた商品としての機能感,おいしさ,原告のブランドの信頼感等を原告商品の一般需要者に伝えることを目的として,作成されたものであると認められる。
裁判所の判断
争点7)本件デザインの著作物性
そして,完成した本件デザイン自体も,別紙原告商品目録の写真のとお り,商品名,発売元,含有成分,特定保健用食品であること,機能等を文字で表現したものが中心で,黒,白及び金の三色が使われていたり,短冊の形 状や大きさ,唐草模様の縁取り,文字の配置などに一定の工夫が認められる ものの,それらを勘案しても,社会通念上,鑑賞の対象とされるものとまでは認められない。
したがって,本件デザインは,いわゆる応用美術の領域に属するもので あって,かつ,純粋美術と同視し得るとまでは認められないから,その点において,著作物性を認めることができない。