小僧寿し事件
小僧寿し事件 平成6(オ)1102 平成9年03月11日 最高裁判所第三小法廷
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被上告人(被告)の行為
被上告人は、持帰り品としてのすしの製造販売業
株式会社小僧寿し本部のフランチャイジーであり、四国地域におけるフランチャイザー。全体として組織化された一個の企業グループ(フランチャイズチェーン)を形成。
遅くとも昭和五二年には、小僧寿し本部は「小僧寿し本部」あるいは 「小僧寿し」と略称され、右企業グループを示す名称として「小僧寿しチェーン」 が使用されていた。
被上告人は、四国地域において、昭和四七年から、別紙標章目録記載の各標章を使用。
小僧寿し本部は、被上告人標章三(1)につき、指定商品を第三二類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加 工食料品」として商標登録出願をし、昭和五一年一二月一六日に設定登録(登録第 一二四二三一五号)を受けた。
遅くとも昭和五三年には、「小僧寿し」の名称は、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンを示すもの として広く認識されており、本件商品の取引において「小僧寿し」といえば、一般需要者の間で小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称として通用するものとなっていた。
原審の判断
標章二の(1)(3)・・商標権侵害
標章一(1)ないし(9)、同二 (2)(4)(5)・・・標章「小僧寿し」・・・観念・称呼が同一だが、商標法26条1項1号にいう自己の名称の著名な略称に該当し、被上告人による被上告人標章一(1)ないし(9)、同二 (2)(4)(5)の使用は、これを普通に用いられる方法で表示するものであるから、 本件商標権の禁止的効力は及ばない。
被上告人標章三(1)ないし(6)は、小僧寿し本部の登録商標のライセンスを受けているので禁止的効力は及ばない。
最高裁の判断(26条1項1号)
被上告人標章一(1)ないし(9)、同二(2)(4)(5) の使用・・フランチャイズ契約により結合した企業グループは共通の目的の下に一体として経済活動を行うものであるから、右のような企業グループに属することの表示は、主体の同一性を認識させる機能を有する。 したがって、右企業グループの名称もまた、商標法二六条一項一号にいう自己の名称に該当するものと解するのが相当である。
本件において、「小僧寿し」は、フラ ンチャイズ契約により結合した企業グループの名称である小僧寿しチェーンの著名な略称であり、被上告人による被上告人標章一(1)ないし(9)、同二(2)(4)(5) の使用は、その書体、表示方法、表示場所等に照らし、右略称を普通に用いられる方法で表示するものということができるから、右各標章の使用には、本件商標権の 禁止的効力が及ばないというべきである。
被上告人標章三(5)の前掛け部分の「小僧寿し」・・・右標章における「 小僧寿し」の文字は、図形標章と一体的に組み合わせて、商標を構成する一部として用いているものであるから、略称を普通に用いられる方法で表示するものということはできない。
最高裁の判断(商標権の抗弁)
小僧寿し本部が、被上告人標章三(1)につき商標権を有すること を理由に、これに類似する同三(2)ないし(6)の各標章についても右商標権に基づ く排他的使用権を有するとして、本件商標権の禁止的効力が及ばないとした点
商標権は、指定商品について当該登録商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであり、指定商品について当該登録商標に類似する標章を含めてこれらを排他的に使用する権能までも含むものではなく、ただ、商標権者には右のような類似する標章を使用する者に対し商標権を侵害するものとしてその使用の禁止を求めること等が認められるにすぎないから(商標法二五条、三六条、 三七条参照)、原審の右判断は、是認することができない。
裁判所の判断
商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。右のとおり、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、右三点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混 同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号同四三年二月二七日第三小法廷判決・民集二二巻二号三九九頁参照)
標章一(1)ないし(9)、同二(2)(4)(5)
標章二(1)(3) を除くその余の標章についてはいずれも本件商標に類似するとはいえない
「小僧寿し」 は、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称として一般需要者の間で広く認識さ れ、一般需要者が「小僧寿し」 なる文字を見、称呼を聞いたとき には、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンを直ちに想起する
「小僧寿し」は、一般需要者によって 一連のものとして称呼されるのが通常
各標章は、全体が不可分一体のものとして、小僧寿しチェーン又は本件商品を観念させるものとなっていたと解するのが相当
右各標章の「小僧」又は「KOZO」の部分のみから「コ ゾウ」なる称呼を生ずるということはできず、右部分から「商店で使われている年少の男子店員」を観念させるということもできない。
すなわち、被上告人標章一( 1)ないし(9)、同二(2)(4)(5)においては、標章全体としてのみ称呼、観念が生ずるものであって、「小僧」又は「KOZO」の部分から出所の識別標識としての称呼、観念が生ずるとはいえないのである。
標章三(1)ないし(6)
特定の観念、称呼を生ずることのない図形ないし記号から成る標章であっても、それが著名な人物又は企業を表す標章として長期間にわたって使用され、一般需要者の間で広く認識されるに至った場合には、当該標章から当該人物又は企業が観念され、当該人物又は企業の名称、略称と同一の称呼を生ずることもあり得る。
そのような場合において、標章から生ずる観念及び称呼は、当該商品の出所たる著名な人物又は企業そのものであるから、 標章の付された商品は直ちに当該人物又は企業の商品であると認識することができる高い識別力を有する
仮に称呼においてこれと同一ないし 類似する商標が他に存在したとしても、需要者において商品の出所を誤認混同するおそれを生ずるものではない
被上告人標章三(1)ないし(6)・・・ 著名な企業グループである小僧寿しチェーンを想起し、右各標章から「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」なる称呼を生ずる余地はあるが、「商家で使われている年少の男子店員」の観念や「コゾウ」の称呼を生ずるものとは認められず、
また右各標章から生ずる観念、称呼が商品の出所たる著名な企業グループである小僧寿しチェーンそのものであることに照らせば、称呼において本件商標と一部共通する部分があるにしても、需要者において商品の出所を誤認混同するおそれを生ずるものではない
損害賠償請求について
本件商標は、四国地域において全く使用されていないものであって、一般需要者の間における知名度がなく、業務上の信用が化体されておら ず、顧客吸引力が殆どなかったこと等を理由として、損害賠償を認めなかった。
商標法三八条二項によれば、商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、 権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、 侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。
けだし、商標法三八条二項 は、同条一項とともに、不法行為に基づく損害賠償請求において損害に関する被害者の主張立証責任を軽減する趣旨の規定であって、損害の発生していないことが明 らかな場合にまで侵害者に損害賠償義務があるとすることは、不法行為法の基本的枠組みを超えるものというほかなく、同条二項の解釈として採り得ないからである。 商標権は、商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとと もに、商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり、特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものでは ない。したがって、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与し ていないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである。
小僧寿し事件 平成6(オ)1102 平成9年03月11日 最高裁判所第三小法廷
北海道大学大学院法学研究科 田村善之 吉田広志 「知的財産法」(2007) 講義録 − 第13回:商標法(6)
同上:全講義録
著名なフランチャイズ名に対する商標権に基づく請求が棄却された事例. 北海道大学 田村善之
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