ゼリアとセリア:審判平11-035577
非類似とされた事例
事前学習:一音違いの商標の類否
特許庁・商標審査基準 称呼の類否についてを参照のこと
審査基準の中に、「1音の相違があっても、音数が比較的多いときには、全体的印象が近似して聴覚されることが多い。」とあるが・・逆に言えば、音数が少ない場合は近似しないとの判断もありうるということ。
審判平11-035577
管理番号】第1041732号
【総通号数】第20号
(190)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】商標審決公報
【発行日】平成13年8月31日(2001.8.31)
【種別】無効の審決
【審判番号】平成11年審判第35577号
【審判請求日】平成11年10月19日(1999.10.19)
【確定日】平成13年6月6日(2001.6.6)
【審決分類】
T111 .262-Y (030)
【請求人】
【氏名又は名称】ゼリア新薬工業株式会社
【被請求人】
【氏名又は名称】有限会社シーエフ
【事件の表示】
上記当事者間の登録第3180346号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
【理 由】
1 本件商標
本件登録第3180346号商標(以下「本件商標」という。)は、「Seria」の欧文字及び「セリア」の片仮名文字とを二段に併記した別掲のとおりの商標からなり、平成5年6月1日に登録出願、第30類「ヘム鉄・乳清カルシウム・ビタミン・乳糖・菜種油などを主原料とする糖衣錠からなる加工食品」を指定商品として、同8年7月31日に設定登録されたものである。
2 引用商標
(1)請求人が本件商標の登録を無効とすべきものとする理由に引用する登録第3136432号商標(以下「引用A商標」という。)は、「ゼリア」の片仮名文字と「ZERIA」の欧文字とを二段に併記してなり、平成5年4月15日に登録出願、第30類「調味料、香辛料、食品香料(精油のものを除く。)、穀物の加工品、菓子及びパン」を指定商品として、同8年3月29日に設定登録されているものである。同じく、登録第2495670号商標(以下「引用B商標」という。)は、「ゼリア」の片仮名文字と「ZERIA」の欧文字とを二段に併記してなり、平成2年6月22日に登録出願、第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として、同5年1月29日に設定登録されているものである。
3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第11号証を提出している。
(1)本件商標と引用A、B商標の商標構成に徴すれば、前者から「セリア」、後者から「ゼリア」の称呼を生じる。
そこで、両称呼を比較検討するに、両者は何れも3音より構成せられ、その中第2音及び第3音の「リ」「ア」を共通にし、僅かに第1音目において「セ」対「ゼ」の清音と濁音の微差を有するに過ぎない。
そして、当該「セ」と「ゼ」は母音(e)を共通にし、該母音「エ」の音感が強く響き、印象付けられるばかりか、何れも舌端を前硬口蓋に寄せて発する摩擦音で、調音位置及び調音方法をも同じくするものであって、相近似した性質を有する音である。
してみれば、本件商標と引用A、B商標を時と所を異にして称呼するときは、相紛らわしい語韻語調となり、彼此誤認混同を生じるおそれがある。
よって、本件商標と引用A、B商標は称呼上類似の商標である。
(2)本件商標の指定商品が引用A、B商標の指定商品中引用A商標の「菓子」及び引用B商標の「加工食料品」において類似関係にある。
したがって、本件商標は引用A、B商標に類似し、かつ、その指定商品も相類似するものである。
(3)平成12年2月12日付け答弁に対する弁駁
(A)被請求人は、本件商標の出願日(平成5年6月1日)と引用A商標の出願日とが非常に近く、「ゼリア」の存在を知らなかったとするが、被請求人が主観的に存在を知っていたか否かは問うところではない。
(B)被請求人は、文字数や母音の共通等で類似性を判断する事は、前近代的であり、計器と聴覚による見極めが必要であるとして甲第5号証の音声波形データを提出するが、実際の商取引の現場においては、称呼の類否は、計器によるのではなく、あくまでも人間の聴覚を介して語韻語調が相紛らわしいか否か、特に時と所を異にして接した場合において、彼此誤認混同を生じるおそれがあるか否かによって判断すべきものである。
因に、被請求人の提出に係る音声波形データ(乙第5号証;以下、被請求人の提出する甲号証とあるを乙号証とする。)に徴すれば、両波形は極めて酷似しており、むしろ「セリア」と「ゼリア」の語韻語調が相紛らわしいものであることを裏付けていると云うべきである。
(C)被請求人は、本件商標の指定商品と引用A、B商標の指定商品は、原料が異なるから相違する旨主張するが、「菓子」や「加工食料品」である限り如何なる原材料を用いても良い。従って、本件商標の指定商品と引用A、B商標の指定商品が同一又は類似の商品であることは疑う余地のないものである。
(D)被請求人は、訪問販売システムを採用しているから、商品混同のおそれはない旨主張するが、単なる現時点の訪問販売形式を以って、商品の同一又は類似性を否定する根拠となし得ない。商標権者は如何なる販売形式をも自由に採用し得、また変更し得るもので、乙第6号証の如き宣伝広告物にも商標を使用することができる。
(E)被請求人は、販売対象者をスポーツ選手に限定しているから、商品混同のおそれはない旨主張するが、引用A、B商標の指定商品の何れも用途限定されていないから混同を生じるおそれは免れない。
(F)被請求人の提出に係る乙第6号証の印刷物は、その立証趣旨が不明であるが、同号証の印刷物は本件商標の指定商品ではない。又、表示されている商標も本件商標ではなく、「SERIANET」であり、何れも本件商標及び引用A、B商標の出願後、1996年4月以降に配布されたものである。
4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第6号証を提出している。
(1)セリアの社会的認知度とボランティア精神
被請求人会社のセリアシリーズは加工食品として現在、全国の中学校、高校、大学、実業団スポーツ選手に相当数浸透している。
スポーツ選手が陥りやすい、スポーツ性貧血(鉄欠乏性貧血)の予防及び改善、オーバートレーニングによる故障予防及び改善、食生活の改善等に優れているものであり、社会的認知度も高い。国内主要大会及び国際大会
に出場する長距離選手にはサプリメントとして不可欠である。
また、ユーザーの健康に関する意識向上の為の栄養セミナー、食生活指導等活動を実施し、また、情報紙提供サービスを行っている(乙第6号証)。
(2)本件商標は別掲のとおり、ローマ字、カタカナの順になる。引用A、B商標は、全くその逆であり、明らかに違いが認められる。
更に、「Seria」の書体は、どのフォントにも属さず、オリジナルの商標である。また、語源は、イタリア語の「真面目な」という形容詞であり、意図的に類似させた造語ではない。
一方、「ゼリア」は、造語であり、「ゼリア」「ZERIA」を見聞きしただけでは何人も、その意味は理解出来ない。
(3)発音発声の顕著たる差異
本件商標と引用A、B商標を解析するには発声学と音響学に基づく、計器と聴覚による見極めが必要であり、音声認識結果を添付した(乙第5号証)。その違いは、歴然である。セリアの様に接頭部が無声音で始まる音節は、声の立ち上がりが遅れる。ゼリアは爆発音を伴い立ち上がりも速い。同一母音の場合、無声音と有声濁音は最も疎遠な関係にあり、コンピュータの音声認識に於いても、その差異が明確な為、全く誤作動の要因にはなり得ない。
(4)指定商品
本件商標の指定商品と、引用A商標及び、引用B商標の指定商品は加工する原料が、明らかに違う。
(5)製品販売システムの独自性
弊社は創業以来、一貫して訪問対面販売システムを採用し、既成の流通による店頭販売は全く行わず、独自の販売網を形成する。名称はもとより、製品コンセプト、使用方法、賞味期限等、消費者に生ずると思われるあらゆる疑問を購入前に解決し、販売する形態を採っている。
また、一般消費者が店頭においてセリアとゼリアを誤認する可能性も皆無である。過去9年間に於いて他社製品、商標との間違いや返品及び謝罪を必要とする苦情は一件もない。
(6)顧客対象の限定
加工食品セリアシリーズの顧客対象はスポーツ選手に限定されており、先ず指導者及び家族に製品概要をご理解戴き、使用者本人には栄養に纏わる基礎知識を教育の上、使用者本人が必要と認めた上で販売するシステムのため消費者が他社製品と混同する事はない。
5 当審の判断
本件商標と引用A、B商標の類否について判断するに、両商標は、それぞれ上記したとおりの構成よりなるものであるから、前者よりは「セリア」の称呼を、また、後者よりは「ゼリア」の称呼を生ずるものというのが相当である。
そこで、本件商標より生ずる「セリア」と、引用A、B商標より生ずる「ゼリア」の称呼とを比較するに、両者は共に3音という短い音構成よりなるところ、称呼を比較する上で最も重要な要素となる語頭音において「セ」と「ゼ」の差異を有するものである。そして該差異音「セ」は「舌端を前硬口蓋に寄せて発する無声摩擦子音(s)と母音(e)との結合した音節」であるのに対し、「ゼ」は「舌端を前硬口蓋に寄せて発する有声摩擦子音(z)と母音(e)との結合音節」と相違するばかりでなく、「ゼ」の音は濁音で強く明瞭に発音されるのに対して、「セ」の音は、清音でやや弱く発音されるものものであるから、両称呼はこれを一連に称呼した場合、全体の語調語感が相違し、称呼上十分聴別し得るものと判断するのが相当である。
さらに、本件商標と引用A、B商標とは、特定の観念を生じさせない造語よりなるものと認められるものであるから、観念上比較すべくもなく、また、それぞれの構成からして、外観上も十分に区別し得るものである。
してみれば、本件商標と引用A、B商標とは、称呼、観念及び外観のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすることはできない。
なお、請求人は、過去の審決例を挙げて、本件についても類似である旨主張するが、引用の審決例はいずれも本件とは事案を異にするものであるから、この点に関する請求人の主張は採用しがたい。
よって、結論のとおり審決する。
【審理終結日】平成13年3月23日(2001.3.23)
【結審通知日】平成13年4月6日(2001.4.6)